61.黒幕の過去と復讐
そして、話は今へと戻る。
真上に昇った月は、先ほどより一層明るく輝いているように感じられた。
「ハハハハハ……!」
無観の笑い声が闇に響く。
「そうだ、その通りだ。25年前、お前たちの父上は、この陛下により国を滅ぼされた。そして、仁と共に死にかけながらも生き延び、食べ物を探し、必死に生き抜いていた……そのとき、妖石の話を耳にしたのだ」
ーーーーーーーーーー25年前ーーーーーーーーーー
「太陽から月が生まれた日、アザを持つ者現れたり。妖石とアザを持つ者の力により、満月の夜、どんな願いも叶うであろう」
そこに立つのは、ボロボロの服をまとい、顔に泥をつけた二人の子供。
それが、無観と仁だった。
妖石……どんな願いも叶える。
ならば、父母を殺し、我が国を滅ぼした陽月国を、今度こそ滅ぼしてやる。
「もし妖石が本当にあるとしたら、どこにあるんだ?」
無観は人混みをかき分け、一番前に割り込み、語り手に問いかけた。
「ふむ……伝説だからな。あるとしたら、陽月国の宮廷だろうな。陽月国の秘宝と呼ばれているらしい」
その言葉を聞いた二人は、幼くとも決意を固めた。
無観は宮廷に潜入するため猛勉強を重ね、仁は武芸を磨いた。
やがて二人は宮廷に入り込む。
無観は陛下に仕え、仁は前皇后に仕え、亡くなった後は現皇后に運良く仕えることとなった。
「運良く、陛下と皇后に仕えることができた我々は、宮廷の隅々まで探したさ。だが、妖石は見つからなかった。そこで、前皇后――蘭皇の母に仕えていた仁が、偶然母上の口から妖石の話を聞いたんだ。だから私は追い詰めた、聞き出すためにな。それでも口を割らなかった――だから、私がお前の母を殺したのさ」
「なっ…!」
蘭明が一歩前に出る。
「いいのか?」
無観が背後に目をやると、そこには仁が守華をしっかりと捉えていた。
「お前の母が死んだ後も、墓を探したさ」
「あの墓荒らし…無観、お前の仕業だったのか!」
「そうさ。しかし見つからず、振り出しに戻った。それでも陛下への恨みを胸に、諦めなかった。あ、ちなみに最近陛下の体調が悪いのも、私が茶に少しずつ毒を混ぜていたからだ」
「なんだと!」
皆が前に出ようとするが、守華が仁に捕まっているため、先には進めない。
「普通に殺してもつまらないからな。少しずつ弱っていく様を見届ける――それだけでも優しいと思わないか?」
ハハハハハ、と無観が暗く笑う。
「20年間、耐えてきてよかったよ。だって、この女が現れたんだからな。仁もアザを確認し、妖石も持っていると分かった」
守華の頭に、あの日の記憶がよみがえる――皇后の侍衛だったあの時。
ムチで叩かれ、服が破れた――いや、わざと破かせたんだ。
その間、仁は私の周りをぐるぐる回り、じっくりと確認していた――私にアザがあるかどうかを。
「だが、この妖石が偽物だとはな…それでも諦めん。この国は、必ず私のものにする!」
仁が守華をどこかへ連れ去ろうと動く。
守華と蘭明の目が合う。
蘭明は一瞬、刀に視線を移し、首をクイッと振った。
守華はその合図に気づき、コクリと頷く。
守華は右肘を思いっきり仁の溝落ちに押しつけた。
手が緩んだ瞬間、守華はしゃがみ込み、その隙に蘭明が刀を仁に投げつける。
刀が仁に命中し、そのまま崖の下へと落ちていった。
「仁!!」
無観が気づいた時には、もう遅かった。
黒服たちと蘭明たちが激しくぶつかり合う。
「カシャーン!」「ガキンッ!」
刀と刀がぶつかる鋭い音があたりに響き渡る。
その隙をつき、守華は迷わず駆け出した。
「まだ、諦めないぞ!」
無観が袖から何かを取り出し、それを地面に投げつけた。丸い球のようなものが弾け、瞬く間に煙が立ち上る。
白い煙が周囲を覆い、視界が一気に遮られる。
―――バタン、バタン―――
煙を吸った黒服たちが次々と倒れる。
「毒だ!全員、下がれ!絶対吸うな!!」
蘭明が大声で警告を飛ばす。
皆は咄嗟に口を押さえ、後方へ退く。
しかし蘭明だけは、まだその場に留まっていた。
「守華ー!守華はどこだ!?守華ー!!」
必死に守華の姿を探す蘭明。
すると、白い煙の中から、かすかに人影が現れる。
その人物――無観――は、刀を蘭明の背中に向け、振り下ろそうとしていた。
守華が後ろへ逃げると、突然前方一面が白い煙で覆われた。
咳き込みながら、周りの仲間たちが守華の方へ下がってくるのが見える。
しかし、肝心の蘭明の姿はどこにも見当たらない。
咳き込む仲間たちを見て、守華はすぐに煙の危険さを察知した。
そして、無観が持つ刀の先──蘭明がそこに立っているのがわかった。
「まずい!」
周囲を確認すると、地面には弓が落ち、黒服たちが倒れている。
迷っている暇はない。
守華は咄嗟に弓を拾い、矢を手にして叫ぶ。
「無観!!」
その声と同時に、腰のアザが眩い光を放つ。
白い煙で視界が遮られているはずなのに、なぜか守華には無観の位置が鮮明に見えた。
「無観!!」
守華の叫びとともに、声の方向から眩い光が放たれた。
斬りかかろうとしていた無観も、刀を振り上げたままその光に目を奪われる。
次の瞬間、光は凄まじい勢いで無観めがけて一直線に飛んでいった。
その光が走るたび、周囲を覆っていた白い煙が浄化され、視界が徐々にクリアになっていく。
呆然と立ち尽くす無観の前で、光は容赦なく心臓を貫いた。
放たれたのは、守華が狙いを定めた弓矢だった。
無観の手から刀が落ち、信じられない表情のまま後ろへよろける。
「まだ…諦めない、諦めないぞ…!」
口から血を流し、自らの胸に突き刺さった矢を見つめながらも、無観は必死に抵抗しようとする。
しかしそのまま力尽き、崖下へと落ちていった。
守華はこの陽月国に来てから、多くを守り、戦い、傷ついた。
だが、人の命を奪うのは――これが最初で、そして最後だった。
浄化された煙の中から、蘭明の姿が見えた。
守華はすぐに駆け寄る。
「蘭明、大丈夫?」
少し震える手で蘭明を支えながら尋ねる守華。
その手を、蘭明がそっと握り返す。
「怖かったな…いくら無観だとしても、人に矢を向けるなんて…」
蘭明の言葉に守華の目から涙が溢れる。
そして、守華は横に首を振った。
「ううん…蘭明がいなくなるほうが怖かった。だから、無我夢中で弓を引いたの…」
蘭明は守華を強く抱きしめる。
「もう大丈夫だ」
「うん…」
二人を取り囲むように、仲間たちが近づいてきた。
「守華、よくあんな煙の中で弓を放てたね!しかも光ったじゃない!まるで、彩国との戦のときみたいだった!」
「確かに…」
星曜の言葉に、守華も気づきの表情を浮かべる。
妖石はないのに、なぜ光ったのだろう…?
何か意味があるのだろうか。
「妖石のことは、きちんと調べないと」
「うん」
「父上にも、このことを伝えないと!」
「体に仕込まれた毒も、まだ間に合うかもしれない」
月明かりが照らす中、守華たちは急ぎ宮廷へと向かった。




