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守る華・守られる花  作者: ミシル
第一章 蘭

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60/113

60.黒幕の正体

満月の光が、暗闇に銀色の帯を落としていた。

夜なのに、陽月国の景色はいつもと違って異様に鮮明に映る。

特に、蘭明の屋敷は静寂に包まれ、風の音さえ消えたかのようだった。


屋根の上に立つ蘭明は、月をじっと見つめる。

「あんなに美しい月の下で……涙を流せると思ったのに……守華……」


守華が初めて自分に「好きだ」と言ってくれた、あの場所。

しかし今、そこに守華はいない。

蘭明の胸にぽっかりと空いた穴は、月光に浮かび上がり、痛みだけが際立つ。


「もう一度、もう一度だけでいい……守華……私を、好きだと言ってくれ!」


夜風に声がかき消される。

あの日に戻れるなら、何もかもやり直したい。

陛下に従わず、共に行けばよかった。

もっと頼ってくれればよかったのに……


月光に照らされた屋敷の影が、孤独な蘭明を包む。

静まり返った桜音亭の上、彼はひとり、守華の面影を胸に抱きしめる。

そして、思い出の屋根から、ゆっくりと静かに降りていった。



誰もいない、静まり返った桜音亭。


守華はそこで眠っている。

蘭明の意志で、住み慣れた場所に安らかに休ませるために。


しかし、闇の中に黒い影が忍び寄っていた。

周囲を確認し、誰もいないことを確かめると、影は音もなく桜音亭の中へ滑り込む。


棺に横たわる守華を確認すると、影はそっと抱き上げ、その場を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「連れてきました」


一人の黒衣の男と、二十人ほどの護衛たちが影の周囲を固める。


崖の上、周囲よりも一段と月光が鮮やかに差し込む場所に到着した。

少し広めの石の台があり、守華はその上に丁寧に寝かせられる。


腰に下げていた袋から取り出された石――それが妖石だ。

月光を受けて淡く光るその石を、影は手に持ち上げ、呟く。


「ついに我が願いを――」


月が真上に昇る瞬間、影の声が静寂を切り裂く。


「我が妖石よ……今、輝き、願いを叶えよ」


・・・・・・


「今、輝き、願いを叶えよ……」


・・・・・・



「なぜだ……!なぜ光らない!?何か、間違っているのか……!」


頭を抱え、地面に突っ伏したまま呻く。


「妖石なんて持ってないわよ!それは偽物よ!」


その声に、顔を上げた。目に映ったのは――


「き、きさま……生きていたのか……!?」


「そうよ!あなたを誘き寄せるための作戦だったの、無観!」


「知っていたのか……」


「色々、調べさせてもらったよ」


冷たく澄んだ声の主は海尭だった。


振り向く無観。そこにいたのは、蘭明、八軒、琉璃、海尭、聡騎、星曜――勢揃いした面々だった。


「勢揃いだな……」


黒服の護衛たちが無観の前に立ちはだかり、守ろうとする。


「まさか、無観が守華を狙っていたとは予想外だ。そして、皇后侍衛のじんもなかなかの驚きだな」


蘭明は鋭い視線で無観と仁を睨みつけ、言い放つ。


「25年前、父上に国を滅ぼされた。その国の陛下の一人息子――それが無観だ。まだ幼かった彼は仁とともに辛くも逃げ延びたが、帰る場所を失った。そして復讐のために、陽月国に身を投じたのだ」


淡々と語る海尭の声が、無観の胸を冷たく突き刺す。



遡ること、守華が貴愛奈を守ろうとして大怪我を負ったあの日。


海尭は、貴愛奈から聞いた話や、守華が陽月国に来てから刺客が頻繁に現れるようになったことから、守華が誰かに狙われていることを確信していた。


まだ、誰が狙っているのかは分からない。もし調査の事実が漏れれば、黒幕を捕らえることも不可能になる――そう考えた海尭は、聡騎と二人で慎重に情報を集めていた。


その調査の過程で、妖石の存在についても耳に入った。守華の腰にアザがあったことを思い出す。あの時は怪我の手当に集中していて、守華に聞く余裕もなかった。


刺客集団の存在も把握し、海尭は聡騎を潜入させた。黒幕が現れるのを確認するためだ。守華が目にした、海尭と黒服が話していた場面――それは、実際には聡騎が情報を受け渡していた瞬間だった。


だが、黒幕はいつもマントに顔を隠して現れるため、正体は判別できなかった。


調査を進めるうち、25年前、父上が一国を滅ぼしたこと、その国の王子が消えたことが判明する。その人物こそ、無観だった。


無観だと分かっても、彼は一切尻尾を出さず、証拠も掴めない。陛下は20年近く無観を信じており、確固たる証拠が必要だった。


今回の彩国との戦で守華が総指揮官に選ばれたのも、無観の策略だった。戦の混乱に乗じて守華を殺すため、確実に実行できる者を探していたのだ。


聡騎は、自ら弓の腕なら誰にも負けないと手を挙げ、守華を討つ役目を任された――命をかけて守華を狙うために。


もちろん、聡騎以外にも黒服はいたが、黒服を脱げば誰が誰だか分からない。


刺客同士も常に顔を隠しているため、素性も私情も一切見えないのだ。


だからこそ、聡騎は周有についてすぐ黒服を脱ぎ、守華のもとへ駆けつけた。


そこで、無観が守華を狙っていること、戦の最中に命を狙われる可能性があること――これまでの状況をすべて伝えたのだ。


「やられたらやり返す」が信条の守華は、今回はあえて“騙されたふり”をする作戦を選んだ。


彩国との和平共和を結ぶ話の最中、聡騎が守華に矢を放つこともあらかじめ把握していた。

そこで守華は、胸の中に鎧と動物の血を入れた袋を仕込んでおいたのだ。


途中、季昭が現れたのは予想外だったけど......


そして予定通り、矢が命中し、血の袋が破れる。


もちろん、この作戦の全貌は八軒、琉璃、小心にも共有されていた。


それぞれの演技が完璧に噛み合い、周囲の者たちを完全に欺くことに成功したのだ。


聡騎が習得した仮死状態になる秘薬の技を八軒に伝授し、蘭明の屋敷に着く前に守華を仮死状態にした。


守華自身は動けないが、周囲の声はかすかに聞こえる。

まるで金縛りにあったかのような感覚だ。


1時間もすれば完全に意識が戻る。

だから、蘭明の屋敷で泣き崩れる小心は、見事な女優ぶりを見せていた。


もちろん、蘭明と白鋭はその時、守華が本当に死んでしまったと思い込んでいた。


そして、蘭明が怒りにまかせて八軒に手を上げようとしたその瞬間――


「八軒のことを殴ったら、その手をちょん切るわよ!八軒が死ぬのも嫌なくせに!」


その声に蘭明の手は止まり、守華の方を振り向くと、上半身を起こした守華の姿があった。


「守華?」


驚きの声とともに、蘭明は守華を抱き寄せる。

血の色に染まった服の上から耳をあて、守華は小さく呟いた。


「音が聞こえる……」


「そんなに涙流して、馬鹿ね」


蘭明は、涙を流す守華をぎゅっと、ぎゅっと抱きしめた。


蘭明はこれまでの経緯を聞いて、ぽつりと呟いた。

「私だけ仲間外れか……」


「蘭皇、私もいますよ」

白鋭がそっと蘭明に近づき、耳打ちする。


その様子をジロリと見下ろされた白鋭は、申し訳なさそうに少し下がった。


「蘭明の様子を見て、相手を油断させる作戦だったのよ。仕方ないの」

守華は笑いながら、蘭明の肩を軽く叩き慰める。


「さすが海尭ね」


「ありがとうございます、海皇」

蘭明は丁寧に一礼した。


「いや、そんな……」

少し照れた様子の海尭。

ここまで守華のために調べ尽くしていたのか、それとも別の思惑があったのか……。


やがて海尭の表情が変わり、真剣な顔になる。

「きっと、今夜、守華を連れ去るだろう」


「そのまま捕まえるのではなく、私はそのまま連れ去られるわ」

守華は落ち着いた声で告げる。


「守華が生きていると分かれば、殺させるかもしれないんだぞ」


「大丈夫。また仮死状態にすればいい。無観が私に何をするのか、見届けたい……もし私が目覚めなかったら、その行動もね。そして最後に捕まえて」


「でも……」


「私は、ここにいるみんなを信じてる。陽月国に来てからずっと私を支えてくれた、みんなを」

守華は優しい笑顔で蘭明の手を握った。

「ねぇ、蘭明」


蘭明は何も言えず、ただ守華を見つめるしかなかった。


その夜、蘭明は相手も見張っていると考え、屋根に登った。

守華が本当に死んだと思わせるため、大声で叫ぶしかなかったのだ。

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