59.悲劇の再会
八軒、琉璃、小心、そして数名の兵士たちで先に動かなくなった守華の体を抱え、必死の思いで都へと帰還の途についた。
一方その頃、都に残る蘭明の耳には「守華が勝利を収めた」という吉報だけが届いていた。
蘭明は安堵しながらも、まだかまだかと帰りを待ちわびている。
――しかし、蘭明はまだ知らない。
凱旋の笑顔を夢見ているその瞬間、守華はすでに二度と目を開くことはないのだと。
かった。
――時が止まったように、周囲が凍りつく。
白鋭は目を見開き、信じられぬようにあたりを見回しながら守華の姿を探す。
蘭明は無言のまま、ゆっくりと馬車へと歩み寄った。
「……嘘だ。守華が……そんなはずはない。私を試しているだけだろう?」
しかし、小心の泣き崩れる姿を見た瞬間、現実が胸に突き刺さった。
それは、逃れようのない真実。
駆け寄り、布をめくる。
そこには、白い顔で目を閉じ、冷たくなった守華が静かに横たわっていた。
「……守華。着いたぞ。私のもとへ帰ってきたんだ。……嬉しくないのか?」
震える声で呼びかけても、返事はない。
蘭明はそっとその頬に触れる。冷たい。もう温もりは残っていない。
人前で涙を見せたことのない蘭明の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
その雫が、守華の頬に落ち、まるで再び目を覚まさせようとするかのように、静かに光った。
「きっと、戦で疲れて眠っているんだろう。守華はよく眠る子だからな」
そう言いながら、そっと頭を撫でる蘭明。
「こんな場所で寝ていたら、体も痛いだろう。守華の布団まで運ぶからな」
返事のない守華を、そっとお姫様抱っこで抱き上げる。
桜音亭へ向かって、一歩一歩慎重に歩を進める蘭明。
その後ろには、八軒、琉璃、小心、そして白鋭が続く。
――その光景を、ひっそりと影から見つめる者がいた。
誰にも気づかれることなく、冷たい視線だけが一行を追いかけている。
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「やったな、ついにあの女を仕留めたのだ!」
「はい!間近で矢が命中するのを見ていました。それに、先ほど遺体が蘭皇の屋敷に届き、蘭皇はひどく取り乱しておりました」
「ふふ、あの女が消えれば、蘭明ももう動けまい。しかも、今日は満月――今夜、ついに計画が成就する。よくやった、よくやったぞ!」
暗闇の中、喜びの声がひびき渡る。
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守華を桜音亭に運び、そっと布団に下ろす。
左胸に広がる血の跡に目が止まる。
どこを触っても、守華は冷たく、微動だにしない。
その瞬間、蘭明は守華が本当に――もう戻らないのだと悟った。
それまで見たこともないほど、蘭明は泣き叫び、嗚咽をあげる。
誰もその声を止められず、声をかけることすらできない。
蘭明の頭の中に、これまでの守華との思い出が次々と浮かぶ。
「守華……守華……守華……」
もう、“蘭明” と呼んでくれることも、私の口をつまんで 「ちょん切ってやる」と笑うこともない――。
怒りと悲しみに駆られ、後ろに立っていた八軒の胸ぐらをいきなり掴む蘭明。
八軒はただじっと、動じることなく蘭明の目を見返すだけだった。
「なんでだ……なんでなんだよ、八軒!!死んでも守れって言っただろうが!!」
蘭明の手が、八軒の顔へと迫る――。




