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守る華・守られる花  作者: ミシル
第一章 蘭

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48/113

48.ネモフィラの丘で

「貴愛奈さま」


守華、琉璃、そして八軒が一礼する。

貴愛奈とその侍女も軽く頭を下げた。


今日は貴愛奈が、以前よく訪れていた花畑に行きたいと言い出し、蘭明が案内することになった。

もちろん、侍衛の守華、琉璃、八軒も同行する。


馬車に貴愛奈と蘭明が乗り込み、侍女は馬車の前方に腰を下ろした。

守華たちは馬にまたがり、馬車の左右に並んで歩き出す。


「よろしいのですか?守華さま」

琉璃が馬車の乗る二人を気にして、守華に声をかける。


「えー、大丈夫だよ」

守華は笑顔で返す。


「本当ですか?」

「うん、ありがとうね、琉璃」


八軒が先頭を行き、守華と琉璃は馬車の両脇を歩く。

馬車の中から貴愛奈の楽しそうな笑い声が聞こえてくるが、守華は動揺せず冷静を保った。


窓から覗く蘭明の視線に気づくと、守華はさりげなく親指と人差し指でハートを作る。

蘭明も同じハートで応え、二人だけの秘密の合図に心が弾む。

だから、馬車の中の貴愛奈の存在も、特に気にならなかった。


町を抜け、少し小高い丘の上へ歩みを進める。


その向こうには、一面に咲き誇るネモフィラの青紫の海が広がっていた。

守華は息をのむ。あまりの美しさに、蘭明や貴愛奈の存在さえ、つい忘れてしまいそうになる。

まるで、ここだけ時間が止まったかのように感じた。


「到着しました」

八軒が馬から降り、蘭明に声をかける。


その声で我に返った守華は、慌てて馬から降り、馬車の横に回って貴愛奈の手を支え、馬車から降ろした。


「わぁ……全然変わっていませんね、ここは」

「私も貴愛奈が来なくなってからは、ずいぶんご無沙汰だよ」


二人が並んで笑顔で話している後ろ姿を見つめる守華。

長身で端正な二人は、まさに絵に描いたような美男美女カップルだ。


自分は女として身長158cmで十分だと思っていた。

でも今、こうして二人を見てしまうと、自分の小ささに妙に意識がいってしまう。

なんだか、少しだけ悔しい――心の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚。


目を閉じて深呼吸し、首を振る。

「……大丈夫、私は私」

心の中で自分に言い聞かせる。


「守華、何してる? 行くぞ」

蘭明が振り返り、優しい声をかける。


この美しいネモフィラと、穏やかに微笑む貴愛奈、そして優しく見守る蘭明。


もし現代なら、思わずカメラを取り出して写真に収めたくなるくらい、二人は完璧なモデルだ。

でも、守華の胸にはもう嫉妬はなく、ただこの景色を心に焼き付けるだけで十分だった。


「小心にも見せたかったわね」

守華は横を歩く琉璃にそっと話しかける。


「そうですね。次はゆっくり、女三人で来ましょう」

「そうね!お弁当を持って、ここで食べましょう」

「いいですね、それ!」


丘の上では、蘭明と貴愛奈が昔話に花を咲かせている。

守華は少し距離を保ちつつ、つい耳を澄ませてその会話を覗き見る。

背後では、琉璃と八軒が静かに二人を見守っている。


「はい、これ」

琉璃が差し出したものに、八軒は一瞬「ん?」と目を見開く。

「え、俺に?」

恥ずかしそうに小さく頷く琉璃に、八軒は嬉しそうに微笑みながら香り袋を受け取った。


その様子に気づいた守華は、そっと八軒のもとへ歩み寄る。

「私があげた香り袋は、蘭明に意地悪するためのものだから外して、琉璃のをつけなさい」

八軒は守華の指示に笑顔で頷く。


守華はそれだけ言うと、琉璃にウィンクしてからフリーダムのもとへ向かい、やさしく撫でていた。


守華はフリーダムの背中を優しく撫でながら、目の前に広がる一面のネモフィラを見つめた。

青い花々が風に揺れ、まるで海のように波打っている。太陽の光を浴びて、花の先がキラキラと輝いていた。


「ねぇ、フリーダム。この景色、すごいよね…」

守華が小声でつぶやくと、フリーダムは顔を少し上げて、まるで頷くように息を吐いた。


守華はふと思う。

「こうして穏やかな時間を過ごせるのって、やっぱり幸せだな」

目の前の青い花の海と、穏やかな風、そして信頼できる仲間たち――

そのすべてが、守華の心を静かに満たしていった。


ふと、遠くで笑い声が聞こえる。蘭明と貴愛奈の声だ。

それでも守華はそっと微笑む。

「うん、今日も平和ね。」


青い花々の間で、守華とフリーダムは静かに、そして少しだけ誇らしげに、丘の風を感じていた。


「琉璃、つけて」

琉璃からもらった香り袋を琉璃のほうに差し出す。


「自分でつけられるじゃない…」

文句を言いながらも、琉璃は八軒の腰にそっと香り袋をつけてあげた。


「瑠璃、ありがとう。大事にするな」

「うん」


二人の微笑ましい光景に、守華も自然と笑みがこぼれる。


「じゃあ、これは琉璃が持っていたら?」

八軒は、守華からもらった香り袋を琉璃に差し出す。


「ついでって言っても、守華さまからもらったものを捨てるわけにはいかないからな」

「分かったわ。守華さまのなら、私がもらうわ」


次は八軒が琉璃につけてあげる番。

そんな二人に夢中になっている間に、蘭明たちの姿を見失っていた守華。


「ん…?」

慌てて周囲をキョロキョロ見回すと、背後から柔らかい手が頭に置かれる感触が。


「キョロキョロして、私を探してるのか?」

振り向くと、そこには笑みを浮かべた蘭明。


「そんなんじゃ、侍衛失格だぞ」

「あははー、」

と笑った誤魔化す守華だ。


「あれ?貴愛奈さまは?」

「もう、馬車の中だ」

「あっ、ごめんなさい」


「八軒、琉璃、帰るぞ」

「「はっ!」」


二人は慌ててこちらに駆け寄り、馬に跨る。

守華もフリーダムにまたがる。


馬車の窓布が開き、貴愛奈がこちらをじっと見つめた。

「蘭明、馬車に乗らないのですか?」

「あ〜、馬車は苦手でな。来る時は我慢して大人しく乗ってきたが、帰りは馬で行くよ」

「蘭明が乗る馬なんて、いるのですか?」

「あー、このフリーダムなら他の馬より大きくて体力もある。二人が乗っても問題ないだろう」


蘭明は説明する間もなく、守華の後ろにそっと乗る。

フリーダムも、蘭明が守華の大切な人だと分かっているのか、嫌がらずに受け入れる。


貴愛奈は少し面白くなさそうな表情を見せたが、蘭明は気にせず、出発の合図を出した。


「八軒の馬でも乗れたでしょうに」

「八軒とこんな風に密着しろってのか?」


守華は想像して思わずクスッと笑う。


馬の上で密着する守華と蘭明。

いつも一緒にいるはずなのに、守華の心臓はドキドキが止まらない。


「やっぱり馬車より、馬の上がいいな」

「貴愛奈さま、怒ってるんじゃない?」

「怒らせておけばいいさ。これで結婚破棄になれば、まあ一石二鳥だがな」


「ったく……」

呆れたように守華はつぶやく。


蘭明は片手で手綱を握り、もう片方の手で守華の腰に回してぎゅっと抱き寄せる。

そのまま顔を守華の首元にうずめて――


「蘭明、何してるの?見られたら大変よ!」

「大丈夫だ」


守華は怪しまれないように前を向き、姿勢を正す。

「ネモフィラの香りも素晴らしかったけれど、やっぱり守華の匂いが一番落ち着く」


そう言って蘭明は守華の首元に優しくキスをする。

守華の体がゾクッと反応する。


「なんだ?感じてるのか?」

顔が熱くなる守華。


「馬の上はいいな。守華は大人しくしてるから、やりたい放題だ」


首筋にそっと唇を滑らせ、耳たぶを軽く噛む蘭明。

反応してしまう守華を、楽しそうに見つめる蘭明だ。


(これ以上、ダメ……)


守華は思わず右肘で軽く蘭明のお腹を突く。

「うっ」

と声を漏らし、お腹を押さえる蘭明に、守華はクスッと笑った。


顔が離れた隙に、守華は手綱をきゅっと引き、フリーダムを走らせた。

――これなら、蘭明も悪さできないだろう、という作戦だ。


馬の背で風を切って走る守華と蘭明に、貴愛奈は布をめくり、その2人を睨みつける。

しかし、そんなことは知らず、守華は楽しそうにフリーダムを駆けさせていた。



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