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守る華・守られる花  作者: ミシル
第一章 蘭

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47.守華の香り袋大作戦♡

海尭の屋敷を飛び出した守華は、蘭明の屋敷へ向かって力強く歩いていた。

もう迷わない。弱気には二度とならないと、胸の中で固く誓う。


しかし、ふと脳裏に蘭明と貴愛奈の姿が浮かんだ。

――香り袋を受け取る蘭明。

その光景を思い出した瞬間、込み上げてきたのは苦しみではなく怒り。


「ふん!すんなり言いなりになるもんですか!」


そう心の中で吐き捨てると、悔しさよりも奇妙な高揚感が湧き上がってきて、口元が緩む。

仕返しを考えただけで胸がスッと軽くなり、つい笑いが込み上げてくる。


「ふふっ……あはは!面白くなってきた!」


笑い声を響かせながら桜音亭へ戻る守華。


そこでは小心と琉璃が心配そうに待っていた。

ところが、戻ってきた守華がニコニコ笑っているのを見て、二人は青ざめる。


「守華さま!?い、いったいどうされたんですか!?」

「熱は……ない?頭でも打たれたのでは!?」


額に手を当てたり、怪我がないかとジロジロ見たりする二人。

(落ち込みすぎて、ついにおかしくなってしまったのでは……?)

そんな不安が表情に浮かんでいた。


守華は苦笑しながら海尭のことを話し、ようやく二人も納得する。

そして守華に言われた物を準備すると、彼女はニヤリと口角を上げ、何やら作り始めた。


――その背中からは「逆襲」の気配が漂っていた。




「白鋭も貰ったのか?」

「おや、八軒も?」


二人は顔を見合わせ、にやけながら腰のあたりへと視線を落とした。

その様子を横で見ていた蘭明が、眉をひそめる。


「……なんだ、二人して。そんなにニヤニヤして」


白鋭は自分の腰に手を当て、ポンポンと叩いてみせた。


「ん? それは……香り袋か?」

「はいっ!」


満面の笑みで答える白鋭。

横で八軒もうなずいて得意げだ。


「蘭皇ももちろん、貰ってますよね?」


「そりゃ決まってるだろ。きっと一番いい香りのをな」


白鋭と八軒は期待に満ちた目で蘭明に近寄る。

しかし、蘭明の腰を見ても……香り袋は見当たらない。


「……まさか」

「……まさか」


二人の声が重なり、じわじわと気まずい空気が漂った。


「私は貰ってないぞ。で、誰に貰ったんだ?」


「え、えっと……」


顔を見合わせる白鋭と八軒。互いの膝をつつき合って、押し付け合うように小声でひそひそ。


「そ、そんなのただの香り袋で……」

「違いますって!蘭皇!」八軒が慌てて口を挟む。


「香り袋は、好意のある異性に贈るものなんです!」

白鋭が悪気なく言ってしまう。


「……なんだと?」


蘭明の表情が一変し、鋭い眼差しで二人を射抜いた。


「誰に貰ったんだ?」


低い声に威圧され、二人は思わず背筋を伸ばし――


「「守華さまに……」」


「守華だとーーーー!?」


怒号が響き渡り、白鋭と八軒は小動物のように縮こまった。


貰っていないことに気づいた蘭明は、いても立ってもいられず守華のもとへ急いだ。


「てっきり、蘭皇にも渡しているものだと思っていたぞ」

「私もだ。むしろ一番に渡すものかと…」

「私たちは“ついで”かと…」

「しまった、余計なことをしてしまったな」


後ろを歩く八軒と白鋭は、蘭明の早足に必死でついていきながら、口調まで早口になっていた。


廊下ですれ違うたび、蘭明の目は鋭く光る。

すれ違った男の使用人――その腰には、みな同じ香り袋がぶら下がっていたのだ。


「……全員、か」

蘭明の眉間に深いしわが寄る。


そして、桜音亭の前に着くなり――


_____バンッ!!


音を立てて扉を開き放ち、真っすぐ守華のもとへと進む。

小心と琉璃は慌てて深々と一礼。


机に座っていた守華は、ふっと顔を上げる。

そして、蘭明の姿を見た瞬間、思わず口元がにやけた。


――やっぱり、来た。


鏡の前でニヤけていた守華を、蘭明がぐいっと振り向かせた。


「……どうしたの、そんな血相で」


守華は一瞬ニヤけを隠すが、すぐにいつもの顔でしれっとする。


蘭明は無言で片手を突き出した。「何かよこせ」という合図だ。


守華は首をかしげ、しばらくじっと手を見つめる。


蘭明は横目でチラッと守華を見て、まだ出さないので手をクイクイ上下に振る。


「あっ!」

守華は犬のお手のように右手をちょこんと置いた。


蘭明は目を見開き、「違う!」と手をポイッと振り払い、再び手をクイクイ。


守華は悪戯っぽく首をかしげ、今度は左手を置く。


蘭明は再び目を見開き、手を振り払い、「ちがう!ちがう!」と混乱。


その様子を見て、小心と琉璃は後ろで爆笑。

「……守華さま、わざとでしょこれ!」

「さすが守華さま、計算高い天然……いや、悪魔的です!」


守華はニコッと笑い、顎を蘭明の手のひらにちょこんと乗せて――


「ワン!」


蘭明は目を見開き、腰を抜かしそうになる。


「さっきから何してる?」


不機嫌そうに言う蘭明。


「えっ、犬」


守華は至って真面目な顔で答える。


「……お前、わざとやってるな!」

怒り混じりに叫ぶ蘭明。


白鋭と八軒は肩を震わせて笑い、琉璃と小心も吹き出している。


「ちがーーーーーう!」

蘭明が守華の顎をのせていた手をポイッとどかす。


その勢いで、守華の顔が少し飛ばされる。


「もう!はっきり言わないとわかんないわよ!」

守華は声を張り上げ、悪戯っぽく笑う。


蘭明は目をそらし、もじもじしながら手を振って、

「ほ、ほら、あれだよ……八軒とか白鋭が腰につけてる……あれ」


守華と目が合い、二人は八軒と白鋭の腰元を見る。


八軒と白鋭は互いに顔を見合わせ、指でチョンチョンと香り袋を示す。


「あ〜、香り袋ね」

守華は軽く笑い、手を差し出す蘭明をスルー。


「蘭明のはないわよ」

「えっ……」と戸惑う蘭明。


「だって、貴愛奈さまからもらったんでしょ?愛の告白、受け取ったじゃない」

「そ、そうだけど……お前だって海皇と抱き合ってたじゃん!」


守華は心の中で「見られてたのね……」と呟くが、口には出さずに

「違うわよ!あれは!」


「何が違うんだ!」

二人は互いにそっぽを向き、張り合う。


後ろで笑いを堪える小心たち。

琉璃も思わず吹き出しそうになる。


守華はにやりと笑い、次の一手を考えながら蘭明の顔をチラリと見る。


「あっ、蘭明にも作ってたわ!」

守華は小走りで香り袋を取りに行く。


手際よく香り袋を取り出し、袋にちょんと針で穴を開ける。


「はい、これをあげるから、機嫌なおしてね!」

守華の満面の笑みは眩しすぎて、どこか怪しい感じも漂う。


しかし蘭明は、もらえることに嬉しくてそんなことどうでもいい様子。


守華はニコニコしながら、ちゃちゃっと蘭明の腰に香り袋を取り付ける。


「はい!これで大丈夫よ。私も今日からまた蘭明の侍衛に戻るから、先に行ってて」


「わ、わかった……」

蘭明は嬉しさを必死に抑えつつ返事をし、桜音亭を後にした。


蘭明の姿が見えなくなった瞬間、守華は小心と琉璃と一緒に桜音亭の扉をバンッと閉めた。


その瞬間、3人は腹を抱えて大爆笑。

涙が出るほど笑い転げ、思わず涙で視界が滲むほどだった。


「くっ……もう、やばい!腹筋痛いってば!」

小心も琉璃も声をあげながら、守華の無邪気で計算高い悪戯に大爆笑。


嬉しそうに歩く蘭明。

すれ違う人たちはみんな、何か変な顔をしている。

でも蘭明は全く気にしていない。いや、正確にはすれ違う人の顔なんて見ちゃいなかった。

香り袋をもらえた喜びで頭がいっぱいなのだ。


白鋭が突然、クン、クン、クンと鼻を鳴らす。

「八軒、なんか臭くないか?」

「うーん……そう言われれば、臭うような、臭わないような……?」


二人は顔を見合わせ、鼻をヒクヒクさせるが、蘭明はもう先を行ってしまった。

慌てて追いかける二人。


「いってらっしゃいませー!」

白鋭は門のところでお見送り。


蘭明と八軒が町へ出ると、門番たちも鼻をクン、クン。

「やっぱり臭うよな?」

白鋭が確認すると、門番もコクン、コクンと頷く。


その様子を、守華と小心、琉璃は影からこっそり観察。

守華の心の中ではニヤリ。

「ふふふ…香り袋パワー、効いてる効いてる…」


三人は影で必死に息を潜めながらも、くすくす笑いを堪えている。


小心はやることがあるからここまでだが守華と瑠璃の二人は蘭明たちが完全に罠にはまる瞬間を楽しみに後を追うのであった。


町に出ると、みんなが蘭明を避けるようにして道を譲ってくれる。

もちろん皇子だから普段からそういう扱いを受けるのは分かっている。


――しかし、今日はなんだか様子が違う。

みんな、変な顔をしながらやたら距離をとっているように見える。


ようやく異変に気づき、周りをキョロキョロ見回す蘭明。

その様子を影から見て、守華と琉璃は必死に笑いをこらえている。


「八軒、なんだかみんな、変な顔して遠ざけてる気がするんだが…」

「そうですね。確かに、蘭皇を避けているような…」


首を傾げる蘭明。

「でも、蘭皇…さっきから変な臭いがするんですが、気のせいでしょうか?」


「変な臭い?」


クン、クン、クン、と蘭明も鼻を鳴らす。

「……確かに臭いな……」


なんで今まで気づかなかったのか謎だが、そういうものだ。

自分の匂いって、案外自分じゃ分からないこともある。


「ど、どこから臭いがするんだ…?」

匂いは分かるが、場所は特定できない蘭明。


そこへ、1人の小さな女の子が鼻をつまみながら近づいてきた。

「ねーねー、これが臭いんだよ!なんでこんな臭いのつけてるの?」


女の子が指さしたのは――守華が渡した香り袋。


守華はわざと、中に強烈に臭う薬草を染み込ませた石を忍ばせていた。

渡すときには、匂いが拡散するように袋に小さな穴まで開けている。


――町中、皇子の周りにほのかに漂う「悪意の香り」。

蘭明は呆然と立ち尽くし、周囲の人々は顔をしかめながら距離を取る。

守華の策略、大成功。


女の子がクルッと走り去ると、蘭明は周りをキョロキョロ見渡した。

すると、町の人たちが一斉に鼻をつまみ、怪訝そうに蘭明を見ている。


顔が真っ赤になり、恥ずかしさで固まる蘭明。

振り返ったその先には――腹を抱えて笑い転げる守華の姿。


「しゅぅーーーかーーーーー!」

蘭明、香り袋を慌てて外すと、叫びながら守華目掛けて猛ダッシュ!


「ヤバっ!」

守華も気づき、負けじと猛スピードで逃げる。


残された琉璃と八軒。

八軒は琉璃の方へ顔を向けて言う。


「守華さま、一体何をやっているんだ?」

「仕返しよ、仕返し!やられたらやり返すって言ってたわ」


「仕返し?」

「貴愛奈さまから香り袋もらったでしょ?」


「あ〜、あれな。蘭皇は最初いらないって断ったけど、貴愛奈さまが『貰わなきゃ皇后に言いつける!』って言うから、仕方なく受け取ったんだよな。その後、皇后に言っても構わないって返してたけど」


「へぇ、そうだったのね。まぁー、今日は見てて面白かったけど」


「俺は守華さまからの香り袋じゃなく、琉璃から欲しかったんだけどな」


少し照れくさそうに言う八軒に、琉璃は頬を赤くして視線を逸らした。


町中で繰り広げられる、香り袋をめぐる皇子と守華の追いかけっこ。

その傍で、琉璃と八軒もほのぼのとした青春劇の目撃者になっていた。


「待てーーーーー!しゅかーーーーー!」


いつまでも全力で追いかけてくる蘭明。

走るのは得意な守華でも、さすがに息が上がってきた。

でも、捕まったら…と考えると、恐怖で足が止まることはできず、逃げるしかない。


人影の少ない裏路地に入り、家の壁に身を隠す守華。

来た方をチラッと覗き、蘭明がまだ来ていないことを確認して、ホッと一息。


「クン、クン、クン…」


守華、目をつむりながら鼻をクンクン。

臭いの方向に顔を向けると――


「この臭い…!蘭明!」


近くにいると思った瞬間――


_____ドン!


思わず壁に叩きつけられる守華。

目をギュッとつぶり、思わず叫ぶ。


「くさっ!!」


目を開けると、目の前には蘭明。

そして鼻先には――あの猛烈な臭い香り袋!


思わず守華、両手で鼻を押さえる。


「よくもやってくれたな」

蘭明が意味ありげに言うと、守華は顔で「どかして!」と香り袋を追い払うジェスチャー。


「どかしてほしいのか?」

守華はウンウンと頷く。


意地悪そうな笑みを浮かべる蘭明。

それでも動かないので、守華は鼻を押さえていた手を勢いよく振り、蘭明の手にある香り袋を弾き飛ばす。


「フゥーーー…」

止めていた呼吸を解放し、守華はホッと胸を撫で下ろす。


「ご、ごめんなさい。でも、蘭明が貴愛奈さまから香り袋をもらったのが悪いのよ!」

「焼きもちか?」

「誰が焼きもちなんか!」


「それに、あの香り袋は返した」

「え?」


「守華も海皇と抱き合ってた理由を聞こうか」

「あれは…蘭明のことを見て取り乱した私を落ち着かせるためで…それにちゃんと海尭には、蘭明のことが好きだって言ったのよ!信じてくれる?」


「もちろんだ。守華のことはいつでも信じてる」

優しく頭を撫でる蘭明。


「貴愛奈のことは俺がなんとかする」

「でも、陛下の命には背けない…」

「俺を信じろ。父上や母上が絡んでるから時間はかかるかもしれないが…」

「私なら大丈夫。蘭明を信じて待てるから」


周囲は賑やかだが、この二人の存在に誰も気づかない。

二人は見つめ合い、笑い合う。


「あっ、ちゃんとした香り袋作り直すよ!」

「いや、いい。みんなと同じ香り袋なんていらない」


蘭明がどんどん守華に顔を近づける。

二人は目線を外さず、ずっと見つめ合ったまま。


「守華の匂いを独り占めできるから…」

蘭明の唇が守華の首元に滑り、自然と唇と唇が重なる。


蘭明は片手を壁にそっと添え、もう片方の手で守華の手を優しく絡め合わせた。二人の距離が自然に縮まり、息づかいが互いに重なる。

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