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守る華・守られる花  作者: ミシル
第一章 蘭

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42/113

42.密かな同行

_____3日後


先頭を行く蘭明。その後ろに八軒と星曜。

兵士たちの列は長く、鎧の金属音や馬の蹄の響きが、静かな朝の空気を切り裂く。


守華は少し離れた場所から手を振る。

蘭明も応え、微笑みを見せる――しかし、その瞳の奥には緊張が潜んでいた。

遠征の道は安全ではない。彩国は手強く、いつ何が起こるか分からないのだ。


やがて蘭明の姿は遠くなり、視界から消える。


「小心、琉璃」

「はい!」


3人は駆け出し、塀の影に身を潜める。

守華は急いで服を脱ぎ、灰色の侍衛服に着替える。

髪は高くまとめ、お団子に固定し、女だと分からないように整える。


心臓の鼓動が耳にまで届く。

今日から守華は、ただの見守る存在ではない――侍衛として、戦場に臨むのだ。

胸の奥がざわつき、手が少し震える。だが、不安を振り払うように深呼吸をして、覚悟を固める。


小心が手際よく着替えを手伝い、琉璃が刀を渡し、フリーダムを連れてきた。


「守華さま、無事に戻ってきてください」

「大丈夫よ。海尭のことは任せたわ」

「はい」


「じゃあ、行くよ、琉璃!」

「はっ!」


フリーダムにまたがり、後方の兵士たちに混ざる守華と琉璃。

兵士たちの緊張感が伝わる――ここは遊びではない。戦場へ向かう行列だ。


背後から、小心がじっと見守る。

守華の瞳は前を見据え、少しの不安と覚悟を胸に秘めていた。


守華や琉璃の姿が、どんどん小さくなっていった。


「小心、守華は?」

振り向くと、海尭が立っていた。


「海皇」

小心は静かに一礼する。

そして帯の中からそっと文を取り出し、守華さまからのものだと海尭に渡した。


海尭は慌てて封を開き、文字を目にする。


ごめんね!海尭。蘭明のことが心配だから私もやっぱりついてくね!


目の前で小さくなっていく守華と琉璃、そして兵士たち。

海尭は胸の奥がぎゅっと締めつけられるような思いで、しばし言葉を失った。


「小心、やはり守華は蘭明のことが…?」

問いかける声に、小心はただ下を向いたまま、何も答えられなかった。


海尭は肩の力が抜け、ゆっくりと両肩を落とす。

視線は守華の背中を追うものの、どうすることもできず、静かに溜息をついた。


守華たちの姿が塀の向こうに消え、視界から小さくなっていく。

海尭は肩を落としたまま、じっとその背中を見送る。


「…行ってしまったか」

静かな声とともに、手元に残る何もできなかったもどかしさが胸に重くのしかかる。


兵士たちがざわつく中でも、海尭の目はただ守華の進む道を追うだけだった。


「海皇…」

小心の声に、海尭はわずかに視線を落とす。

口元に浮かべるのは微かな笑み。

しかしその笑みの奥には、守華を遠くからしか守れないもどかしさと、心の痛みが隠されていた。


風に揺れる砂埃の向こう、守華の姿は頼もしく、逞しく、そして確かに輝いている。

海尭はその光を見つめながら、胸の奥でひそかに誓った。


「何があっても…必ず無事でいてくれ」


誰にも届かないその想いを胸に、守華の背中を見送った。


「3日あれば、彩国の軍は青岩の青岩城にたどり着くだろう」

「青岩に留まっているということは、やはり陽月国の良浪を狙っているのか…」

「そうだろうな。あの辺りは山や岩が多いが、良浪には鉱山がある。資源を奪おうとしているのだろう」

「なるほど、資源目的か」


蘭明と星曜は真剣な表情で戦略を話し合う。

その間、八軒は後方に付く兵士たちの様子を見回りに行っていた。


「守華さま、八軒が見回りに出ています。ご注意ください」

「分かったわ」


守華と琉璃は少し先に進み、騎馬隊の列に滑り込む。

男装して中に混ざり込もうとも、八軒の目はごまかせない。

なにせ、フリーダムは他の馬とは一目で違う。


守華はわずかに息を整え、背筋を伸ばす。

心臓が高鳴るのを感じながらも、表情はできるだけ落ち着かせる。

目の前の兵士たちは知らないが、今日から自分は戦場の一員だ。

失敗すれば命に関わる緊張感が、体中にじわりと広がる。


「大丈夫、私ならできる…」

自分に言い聞かせるように小さくつぶやき、守華はフリーダムの手綱を握りなおした。

視線は前方の戦況へと集中する。

侍衛として守るだけのときとは違う、未知の戦場への一歩が、今、始まったのだ。


守華と琉璃に気づいた八軒は、迷わず先頭に駆け寄った。


「守華さま、うまくいきましたね!八軒のやつ、気づかずに先頭に戻りましたよ」

「男装が功を奏したのね。琉璃も八軒よりずっと“男”らしく見えるわ」

「守華さまこそ」


二人は小さく笑い合う。


「なんだと!守華が!?」

「はい。男装していましたが、あれは間違いなくフリーダムに乗る守華さまです。フリーダムを乗りこなせるのは守華さまだけです」

「えー、何何?守華も来てるの?あれ、お留守番じゃなかったの?」


何も状況を理解していない星曜は、楽しそうにペラペラと話し続けている。

その様子を横目で見やる蘭明は、深いため息をついた。


ため息に、ちょっとだけ呆れと苦笑が混じる

「八軒、一度、兵士たちを休ませろ」

「はっ!」


八軒は兵士の列に走り寄り、声を張り上げた。


「ここで一度、休憩だ!」


兵士たちは一斉に列を緩め、場の空気が少し落ち着く。

守華は後ろでフリーダムの手綱を握り直し、うまくいってると琉璃と小さくうなずき合う。


休憩中の兵士たちの列の後ろで、ひときわ賑やかな一角があった。


「女を毒で脅したり、塀の上に置き去りにする男って、どう思う?」

「いやー、それは冷血なやつだろ!」

「女を大事にしないやつは、勇敢な兵士にもなれん!」

「「そうだ!そうだ!」」

「でもさ、普段は気取ってるくせに、女に囲まれるとデレデレするんだぜ」

「だらしないヤローだな、そいつは」

「お前の親友か?」

「あ〜そうだ!」

「説教してやれ、次に会ったときにな!」

「ははは、説教されれば冷血でだらしないヤツも少しはマシになるか?ははははー!」


大声で笑う守華。


ふと見ると、今まで笑っていた兵士たちはみんな固まっている。

琉璃は小さく指さし、「やばい」と目を大きくしている。


「冷血でだらしない男が説教されに来たぞ!」


守華は思わずギューッと目を閉じ、パッと開ける。


振り返って兵士たちに向かって笑顔で叫ぶ。


「とってもたくましい男の話をしてただけだよ! 誰も冷血でだらしないなんて言ってないからねー!」


しかし兵士たちは皆、下を向いたり、上を向いたり、目を合わせようともしない。

守華は舌打ちをしつつも、蘭明の方を見て、笑顔で手を振る。


「はーい!」


その瞬間、背後から大きな声が響く。


「守華!ここで何してる!」


守華は思わずビクッと縮こまる。


「えっ、守華さま?」

「守華さまだったのか!」

「男の格好してるから気づかなかった!」

「ってことは、今の話は蘭皇のことか?」


蘭明の視線が兵士たちに向く。

守華はとっさに兵士たちの間に入り込み、下の方で左手をひらひら振って、そっと退場するよう誘導。


ゆっくりと、兵士たちはその場を立ち去っていく。


残された守華と琉璃。


八軒は琉璃の方を見て、ため息交じりに首を振った。


――――――――――


ずっと下を向いていた守華。


「今から引き返せ」

「イヤっ!」


守華は意地でも顔を上げ、蘭明を見据える。


「遊びじゃないんだぞ」

「分かってる」

「分かってないだろ!」


蘭明の声が響き渡り、休んでいる兵士たちも「何事だ?」と注目する。


守華は息を整え、強く言い放つ。


「分かってないのは蘭明でしょ!?」

「この戦では私が守華を守れるか分からない」

「守れるか分からない?はぁ?」

「だから、今からでも帰れ!琉璃」

「はい」


琉璃は守華の腕を掴もうとする。

「だから!分かってないのは蘭明でしょうが!」


守華は手を振り払うと、勢いよく蘭明に近づき、堂々と叫んだ。


「私は、あなたの侍衛なのよ!ただのお飾りじゃないの!蘭明が私を守るんじゃない!私が蘭明を守るの!」


その凛々しい姿に、兵士たちから驚きと称賛の声が上がる。


「おおっ!」

「しょ、勝利の女神だ!」

「こ、これは心強い…!」


守華はその声に笑みを浮かべ、兵士たちに向き直る。


「この戦には、この勝利の女神、守華がついている!私がみんなを勝利へ導いてやる!」


守華の大声に、座っていた兵士たちが一斉に立ち上がり、胸を張る。


「「おーーーーーーーーーー!!!!」」


歓声と共に、戦場前の緊張感が少し和らぐ。

蘭明、星曜、八軒は目を丸くし、少し唖然とした表情を見せる。


守華は蘭明を見つめ、笑顔でウィンクし、ピースサインを送った。


「これは守華に一本取られましたね」


星曜が笑いながら、蘭明の肩に手を置いて呟いた。


蘭明は小さく唸り、でもどこか誇らしげに守華の背中を見つめる。


蘭明は守華のもとに歩み寄り、片腕で守華を軽く抱き寄せた。


「私の姫は、じゃじゃ馬で困るな」


守華はにっこり笑い、見上げて蘭明を見つめる。


「私のそばから離れるなよ」

「うん!!」


蘭明はそのまま先頭へと歩き出した。


守華は琉璃に小さくガッツポーズを見せ、フリーダムを引っ張って蘭明の後ろへと向かう。


その二人を見守る八軒と琉璃。


「琉璃、お前も気をつけろよ」


八軒の心配に、琉璃は少し顔を赤らめて返事をする。


「う、うん…」


八軒はくすくす笑いながら言った。


「まぁ、琉璃の怪力ならみんなビビって逃げるから、心配はないか。ははははー」


「何よそれ!!!」


怒る琉璃を楽しげに見つめる八軒。

二人の間に、ほんの少し和やかな空気が流れた。

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