4.目覚めた異世界
「……ん」
守華は目をこすりながら、ゆっくりと起き上がった。
気絶したふりをしていたはずなのに、いつの間にか本当に眠ってしまっていたらしい。
「変な夢だったな……でも、あの美男子、顔はイケメンだったなぁ。現実にもいたらいいのに」
思わず、少しイヤらしい笑いがこぼれる。
上半身だけ起き上がり、背伸びをしながら周囲を見回す。
「……えっ」
目の前に広がる光景に、頭が真っ白になる。
自分の部屋ではない――天幕のような場所、異世界の香りが漂う空間だった。
「まだ夢から覚めてない……?」
守華は一度横になり、目を閉じてゆっくり開く。やはり、景色は変わらなかった。
「誰か、いますか……?誰もいませんか……?」
小さく声を出してみる。
しばらく待っても、応答はない。
部屋の隅には刀や弓矢、槍などが並んでいる。
ゴクリ、と唾を飲み込む。
「うそ.....やっぱり華流ドラマの見過ぎかな……そうよ、毎日見てたから夢になったんだわ」
だが、守華の足首にあるアンクレットを触ると、ほんのり暖かく光っていることに気付く。
夢じゃない――直感がそう告げていた。
恐る恐る短剣を手に取り、自分の手を切ってみる。
「痛い!!」
血が滲む。
痛い――夢ではありえない感覚。
守華の心臓は早鐘のように打つ。
「やっぱり……夢じゃない……」
なんとなく夢じゃないと分かっていたけど、こう現実を突きつけられると怖くて震えていた。
恐る恐る天幕の外をのぞくと、外には兵士たちが宴を楽しむように集まっていた。
会話は理解できないが、間違いなくここは日本ではない――異国の地だと確信する。
「やばい、ここにいたら本当に殺されるかも……」
守華は一歩ずつ天幕を出る。
ゆっくり……、慎重に……。
そして一瞬の隙を見て、思い切り全力で走った。
林の中に飛び込む。
暗闇の中、枝に服を引っ掛け、顔に擦り傷を作りながらも無我夢中で駆け抜ける。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
どのくらい走っただろう。
息が上がり、体力も限界に近い。
月明かりだけを頼りに進む。
「って、ここはどこ……!?」
ガサガサ――
物音に守華は体を固める。
心臓はドクン、ドクン、ドクン。
“ぴょん”
飛び出してきたのは、愛らしいウサギだった。
守華はため息をつく。
「……安心してる場合じゃない。ここから抜けなきゃ」
夜の林を抜け、ようやく明るさが戻ってきた。
服も顔も汚れ、擦り傷から血が滲む。
「痛い……これ、夢じゃない……どうしよう、どうしよう.....」
パニックになる守華の目の前には果てしなく広がる土の平原。
草が所々に生えているだけの、終わりの見えない大地だった。
「また歩くの……?ここ、どこーーー!!?」
一人で叫ぶが、進むしかない。
太陽が昇り、寒さもなく、逆に暑さが守華を襲う。
現代では3月、寒いはずなのに、この世界は熱を帯びている。
暑さと疲労で頭がぼんやりするが、守華は深呼吸をして心を落ち着けた。
――落ち着け、守華。
部屋にいた。
母からもらったアンクレットを触りながら、母のことを思い出して……。
その延長で夢を見て、空を飛んで落ちて、美男子の腕に抱かれた……。
「そうだ……アンクレットを外せば、元の世界に戻れるかも……!」
守華は必死にアンクレットを外そうとする。
しかし、いくら力を込めても、びくともしない。
「なんなのよー、もうー!!!」
体は限界、暑さと空腹、そして疲労で歩く力も残っていない。
–––––バタン
そのまま守華は地面に膝から崩れ落ち、意識を手放した。




