26.勇気の影、絆の光
そろそろ――石のことを調べなくては。
陽月国に来てから、気づけばもう半年が過ぎていた。
この世界の暮らしにも少しずつ慣れ、町にも何度か足を運び、頭の中には簡単な地図が描けるようになっていた。
蘭明のそばには手がかりらしきものは見つからない。ならば――町へ出れば、糸口があるかもしれない。
小心には従者として正面から出てもらった。
けれど、守華が堂々と屋敷を出入りするのは、まだ難しい。結局、頼れるのは自分の体ひとつ。塀を越えるしかなかった。
これまでの稽古の日々が、確かに身についている。
跳び、よじ登り、体を操るたびに――以前の自分とはまるで違うと驚くほど、今の守華は軽やかだった。
桜音亭の大きな桜の木に手をかけ、枝を踏みしめる。
一息に塀の上へ。そこからまた躊躇なく跳び降りる。
風を切って着地した瞬間も、身体は安定していた。
「もう、こんなの朝飯前よ」
塀を見上げながら、誰にともなくつぶやく。
――まさか、この桜音亭の桜から抜け出すとは.....
少し離れた場所で、その様子を目にしていたのは、蘭明と八軒だった。
「やられましたね、蘭皇」
八軒が苦笑まじりに囁く。蘭明は黙って目を細める。
その視線に気づくことなく、守華は先に出ていた小心と合流し、町の賑わいへと足を踏み出していった。
「守華さま、その光る石って、どうやって探すつもりですか?」
小心が少し緊張しながら尋ねる。
「そうね……まずは、この町の古い質屋を回って、話を聞いてみるのがいいかしら」
守華が提案すると、小心はうなずいて目を輝かせる。
「守華さま……でも、みんなの視線が……」
「私もそれは感じてた」
小心が上から下まで守華をまじまじと見つめる。
「……あっ!」
守華も思わず声をあげる。
「守華さま、服が……」
小心が指差しながら言う。
「私としたことが……蘭明がいないと聞いて、勢いで飛び出してきちゃったから、着替えるの忘れてた……」
守華は、あちゃーという表情を浮かべる。
そんな二人の様子を遠くから見つめる蘭明。眉をひそめつつ、内心は呆れ顔だ。
「まぁ、蘭明にバレなきゃ怒られないでしょ。帰る前に屋敷に戻れば問題ないわ!」
守華は開き直ったように胸を張り、一歩前へ進む。
その後を、小心が慌てながらも守華に合わせて歩く。
二人の足取りは、町の雑踏の中でも軽やかで息がぴったり合っていた。
守華は町の細い路地を軽やかに進む。
小心も必死にその後を追いかけ、息を切らしながら守華を見失わないようにする。
「守華さま、あそこの質屋なら手がかりがあるかもしれません」
小心が指を差し示す。
「よし、行ってみましょう!」
守華は扉を押し開け、鈴の音が小さく鳴る。古い木の香りが鼻をくすぐる。
「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」
奥から店主が出てくる。
「珍しい石についてお聞きしたくて……」
守華はまっすぐな目で店主を見る。
小心も横に立ち、そっとつぶやく。
「守華さま、町の人は警戒心が強いです。慎重に……」
「分かったわ」
守華は笑顔を浮かべつつ、棚の中をくまなく見ていく。
埃をかぶった箱や小瓶が並ぶ中、守華は一つひとつを目で追う。
手を伸ばしては、光る石の痕跡がないか確かめる。
何軒か回ったが思ったより情報は少なく、石の手がかりはまだ見つからなかった。
「守華さま……ここにもありませんね」
小心が肩をすくめて言う。
「うん……でも、あきらめない」
守華は真剣な眼差しを小心に向けた。
「まだ他にも聞いて回ってみるわ。きっとどこかに手がかりがあるはず」
二人は町の路地を抜け、次の質屋へ向かって歩き出した。
「やめてください!この子たちには関係ありません!」
人だかりができていて、ざわつく声が響く。守華と小心は顔を見合わせ、好奇心と不安を抱えながらその方向へ歩を進めた。
目に飛び込んできたのは、二人の小さな子供を必死にかばう女性が、筋骨隆々の男たちに蹴られそうになっている光景だった。
「えっ、どうして誰も助けないの……?」
守華の瞳に怒りが宿る。
「ねえちゃん、見てるしかないんだよ。助けたいけど、手を出せば自分が次のターゲットになる。金を巻き上げる奴らは手段を選ばねぇからな」
通りかかったおじさんが小声で教える。
「そんなの、許せない!」
守華は躊躇なく人混みをかき分け、男たちの前に立ちはだかった。
一人の男が拳を振り上げる瞬間、守華は素早くその手首を押さえる。
「なんだお前は!?」
怒鳴る男に、守華は鋭い視線を突き刺す。
――その様子を遠くから見守る八軒が、静かに蘭明に問う。
「助けに入りますか?」
蘭明はじっと守華の動きを見つめ、冷静に答える。
「いや……少し様子を見ておこう」
「はっ」
八軒は頷き、守華の背中を見つめながら息を潜める。
守華はしゃがみこみ、女性の傷を確認する。
「大丈夫?」
「はい……」
その後ろで、小さな男の子が泣きながら声を上げる。
「でも、ねぇーちゃん!血が出てるよ!」
さらにその隣には、まだ小さな女の子が顔に傷を負い、涙を流している。
怒りで体が熱くなる守華に、男たちの怒声が飛び込む。
「誰だお前!俺たちに歯向かって、どうなるか分かってんのか!?」
「ふざけんな……」
守華は歯を食いしばり、力強く立ち上がった。
「そいつらが何したかわかってのんか?貸した金を返さないからこーなるんだよ。お前がそいつらの借金返してくれんのか!?」
「だからって、こんな小さな子を蹴ったり殴ったりしていいわけ?」
男たちは一瞬言葉に詰まる。
「借りた金を返さないのが悪いんだろ?」
「そうだ!」
守華の声が空気を震わせる。
「命をそんなに軽く見るんじゃない!!」
その叫びに男たちは一歩後ずさり、周囲の野次馬たちも息を呑んで静まり返った。
「小さい子を守ろうとしているこの彼女を誰も助けないで、見て見ぬふりをしてるあなたたちもどうかと思うよ!」
モゾモゾと足を動かす周りにいた野次馬の男たち。
守華は袖から蘭明に渡された光る宝石を取り出す。
「これで足りるだろ」
宝石を投げつけられた男たちは、驚きながら拾い上げる。
守華は振り向き、怪我をした女性に手を差し伸べようとしたが、男たちが手を取って邪魔をする。
「何をする。もうこの子たちの借金は返しただろう」
「ああ、それはもういい。でもな……こんなに別嬪で目を引く服を着ているんだ。せっかくだ、俺たちと一緒に来い。恥をかかせたお詫びにな」
その言葉に守華は男たちを睨みつける。
さすがの守華も、男に手を掴まれ、周囲には味方の男たちが取り囲んでいて、どうすることもできなかった。
「行くぞ」
「いててててっ!」
守華が下を向いていた顔を上げると、驚いたことに蘭明が掴んでいた男の手を力強くねじり上げていた。
同時に、他の三人も八軒に一瞬で制圧されている。
「なんだよ、貴様は」
「よくも私の女に手荒な真似をしてくれたな」
「私の女?」
守華がその言葉にすぐに反応した。
ニヤリと蘭明が笑い、その男を力強く突き飛ばす。
「やるのかー!」
男は歯をむき出しにして反抗しようとするが、周囲のざわめきがそれを遮る。
「お、おい、あれは……蘭皇じゃないか」
「そうだ、蘭皇だ」
「なんで蘭皇がここに?」
その瞬間、男たちの威勢は一気に萎え、後ずさりする。
「す、すみませんでした!」
慌てて走り去る。
他の三人も八軒にやられ、倒れていたが、素早く起き上がり逃げ去った。
守華は安心して息をつき、蘭明と八軒の姿を交互に見つめた。
「じゃあ、あの女性が噂の守華さまじゃないか?」
「あー、きっとそうだ!」
「蘭皇が『私の女』って言ってたぞ」
「なんだ、二人はそういう関係だったのか?」
「でも、意外とお似合いじゃない」
周囲のざわめきはさらに大きくなる。
守華はそんな声に耳を傾ける余裕もなく、心の中で冷や汗が流れた。
黙って屋敷を抜け出し、こんな騒ぎを巻き起こしてしまった上に、この目立つ服で出てきてしまったのだから――蘭明にまた怒られる.....
「あははははー、はーい、蘭明」
守華は苦笑いを浮かべながら、気まずさを誤魔化すように手を振る。
その瞬間、蘭明が羽織っていた外套をすっと取り、守華の肩に軽くかけてくれた。
温かく柔らかな布の感触。
「ねーちゃん、大丈夫?」
小さい男の子の声にハッと我に返る守華。
そうだ――傷ついているのは女性だった。
守華は急いで女性のもとへ駆け寄り、破れた服や血のにじむ体を見てすぐに蘭明がかけてくれた外套を自分で脱ぎ取り、すぐに女性にそっと被せる。
「えっ?」と蘭明は一瞬目を見張るが、守華は気にも留めない。
「もったいないです……どうか、この外套は…」
女性が手で外そうとするのを、守華は優しく押さえた。
「服が破れているでしょ。これでいいの」
女性は少し恥ずかしそうに微笑む。
「ありがとうございます。必ずお金はお返しいたします」
「いいのよ、気にしないで。どうせあの石も元々は私のものじゃないし」
守華はにこりと笑い、女性の目を優しく見つめる。
「あなたたちも怖かったよね」
守華は小さな男の子と女の子の頭をそっと撫でる。
「立てる?」
守華は女性の腕を支え、慎重に立ち上がらせる。
女性は守華に支えられ、ゆっくりと姿勢を正す。
その顔には感謝と安堵が混ざっていた。
守華がふと顔を上げると、蘭明たちがそっと見守っている。
「ありがとう」と言おうとする女性の目も、守華の心に温かく映った。
その女性は蘭明と八軒の近くにいき、
「蘭皇、この度は本当にありがとうございました」
女性の声には深い安堵と感謝が混ざっていた。
「琉璃……?」
下を向いていたその女性が声したほうに顔をあげる。
「八軒?」
「琉璃じゃないか? どうしてお前が……」
八軒も驚きと懐かしさが入り混じった声を出す。
「あれ? 知り合いなの?」
守華は素直に八軒に尋ねた。
「はい。琉璃とは幼馴染でして、小さいころから共に武芸の稽古をしていました。私が蘭皇に仕えるようになってからは、ここ数年会っていなかったのですが……。先日、女でも武芸ができるとお話したのは、実は琉璃のことです」
八軒は琉璃に目を向ける。
「……あの男たち、琉璃なら一人で蹴散らせるだろうに。なんで黙ってやられていたんだ?」
琉璃は涙を浮かべ、悔しそうに答える。
「最初はやり返したわ。でも、人数が増えて家まで押しかけてきたの。弟たちにも手を出して、家の中もめちゃくちゃにされたの……」
声を詰まらせながらも、必死に続ける。
「父は戦で亡くなり、母は寝る暇も惜しんで働いた。その分、母の体には負担がかかって……今はもう寝たきりよ。私が弟妹たちを食べさせなきゃいけなくて、母の薬を買うためにどうしてもお金を借りるしかなかったの」
八軒は蘭明に小声で尋ねた。
「蘇将軍を覚えていますか?」
「ああ、もちろんだ。私も慕っていた」
蘭明の声には、当時を懐かしむ柔らかさがあった。
「その蘇将軍の娘が、この琉璃です」
八軒の言葉に、蘭明はわずかに目を見開いた。
「……私と同じくらいの娘がいるとは聞いていたが、そなただったのか。優秀だった蘇将軍の家なら、金に困ることはないと思っていたが……」
瑠璃の表情には、悔しさと哀しみが入り混じり、必死に涙をこらえていた。
「父の弟が、父の金を持って逃げてしまったのです。父が亡くなったとき、下の子はまだ赤ん坊で、母の代わりに面倒を見るしかありませんでした。そのうえ、逃げた叔父を追うことすら叶わなかったのです。」
どこの時代も、欲に目がくらむ人間はいるものだ、と守華は心の中で思った。
「琉璃と言ったよね?」
「はい。瑠璃と申します。」
「八軒が言っていた通り、本当に武芸が得意なの?」
「八軒には及びませんが、武芸は小さい頃から父に教わっておりました。」
蘭明は守華を見やり、次に何を考えているのかを探るような鋭い目を送った。
「じゃあさ、私の侍衛になってほしい。」
瑠璃の目が大きく見開かれる。
「そ、そんな、とんでもございません。この程度の私が守華さまをお守りするなんて、滅相もないことでございます。」
膝をつき、頭を垂れる瑠璃。必死さと緊張がその姿に滲み出ていた。
そのとき、そばで見ていた小さな男の子が元気よく口を開いた。
「ねーちゃん、強いじゃん!今だって夜にこっそり練習してるの、俺知ってるよ!」
瑠璃は少し驚き、男の子に視線を向ける。
「そうなの?夜も練習しているの?」
守華が柔らかく問いかけると、男の子は得意げに胸を張った。
「うん、そうだよ!ねーちゃんはかっこいいんだから!いつも俺たちを守ってくれるんだ!」
守華は微笑み、男の子の肩に手を置く。
「そうなのね…じゃあ、そんなお姉ちゃんを私が預かってもいいかな?」
男の子は少し考え込み、真剣な目で頷いた。
「うん!いいよ!ねーちゃんの代わりに、次は俺が母さんと芽依を守るんだから!」
「芽依?ああ、妹さんね。あなたの名前は?」
「太一だよ!」
「太一か!太一もお姉ちゃんに負けないくらい強くならないとね。じゃあ、太一にお家のこと、任せてもいい?」
「うん、もちろんだ!」
小さな誓いのような声に、周囲の空気は少しだけ温かく変わった気がした。
それでも不安そうに瑠璃が
「でも……」
守華がゆっくりと瑠璃のほうに顔を向ける。
「あと、私に武芸を教えてほしいの。今は八軒や星曜が空いてる時間を見つけて、交代で教えてくれてるけど、二人もそれなりに忙しいでしょ?ずっと見てくれる瑠璃がいるなら、私も気を使わなくて済むし。武芸を教えてくれるのがさっきの宝石分。そして、侍衛として働くのは給料を出すから、それをお母さんの薬やこの子たちの食べ物に回してほしいの。悪い話じゃないと思うけど」
瑠璃は戸惑いと驚きが入り混じった表情で、八軒の顔を見上げる。
八軒は静かに瑠璃に向かって頷いた。
「瑠璃の武芸なら、私が保証します」
八軒は少し微笑んで言った。
「八軒が認めるなら、かなりの腕前なんだろうな。守華は一度決めたら聞かないから、好きにするがいい」
「ありがとう!蘭明!」
蘭明は軽く肩をすくめる。
「お金を出すのは私だけどな。それに、さっきの男にやったあの石も私のものだ」
「そんなケチくさいこと言わないで!」
守華は思いっきり蘭明の背中を叩き、笑いながら言った。
「よし、決まり!じゃあまずは手当てをしないとね。それから、この子が私の身の回りのお世話をしてくれている小心」
小心が前に出て丁寧にお辞儀をする。瑠璃もにっこり笑って頭を下げた。
そのとき、遠くから声が響く。
「守華じゃないか」
みんなが顔を上げると、そこには海尭と、彼の侍衛である聡騎の姿があった。
海尭はゆっくりと歩み寄り、小心や八軒は自然にお辞儀をする。聡騎は蘭明に深く頭を下げた。
_____バサッ。
海尭は落ち着いた足取りで近づくと、自分の外套を静かに脱ぎ、守華にそっと羽織らせた。
「もう、この時期は冷え込む」
守華は少し驚きながらも、柔らかく微笑んで答えた。
「ありがとう」
その微笑みを受け、海尭も微笑み返した。
しかし、周囲の空気は静かではなかった。
「なんだ?海皇まで来たぞ」
「海皇と守華さまが、あの雰囲気……いい感じじゃないか?」
「いや、でも、さっき蘭皇が……」
「でも、海皇と守華さまのあの雰囲気、ほんと見ててドキドキするよな」
人々のささやきが次第に広がり、一旦静まった周囲の空気も、再びざわつき始めた。
それに気づいた蘭明は、すぐに守華のほうに歩み寄り、海尭と守華の間に立った。
そして、守華の肩に羽織られていた外套をそっと取り上げる。
蘭明の瞳には、軽い苛立ちと強い独占欲が混ざった色が宿っていた。
「海皇、守華は暑がりなんです」
蘭明のその言葉に、海尭は一瞬きょとんとした表情を見せた。
守華は思わず蘭明の顔を見つめ、えっと言いたげに目をぱちぱちと瞬かせる。
「外套を被ったら熱が出てしまうかもしれませんので、返させていただきます。屋敷まですぐですので、どうか気になさらずに」
そう言うと守華は、丁寧に外套を海尭に手渡した。
そして、蘭明に肩を掴まれ、引っ張られるように屋敷へ向かう。守華の体は蘭明に従って動いているが、顔だけを横に向け、少し寂しそうに海尭を見つめた。
海尭はその後ろ姿を唖然とした表情で見送る。胸の奥にわずかな切なさが広がるのを、本人はまだ認めたくなかった。
その後ろでは、小心が守華の背中を気にしながらついて行き、八軒は「手当てをします」と言って、琉璃とその弟・妹を屋敷へと連れて行った。
屋敷に戻ると、傷ついた瑠璃に目を向けた。
「まずは傷の手当てをしましょう」
守華がそう言うと、琉璃は少し戸惑いながらも膝をつき、守華に体を預ける。
守華の手は優しく、しかし確かな動きで、切り傷や擦り傷の血を拭い、柔らかく包帯を巻いていく。
小心はその様子を見守り、必要な道具をさっと手渡す。琉璃の弟と妹も、守華の安心できる雰囲気に少しずつ落ち着きを取り戻した。
「痛くない?」
「はい……ありがとうございます、守華さま」
琉璃の目には、先ほどまでの恐怖と疲労が残るものの、少しずつ安堵の色が広がっていく。守華は微笑みながら、そっと琉璃の肩に手を置く。
「これで安心してね。さっきのことはもう終わったのよ」
小さな弟の太一が、守華の手を握りながら元気に言った。
「今度は僕たちが守る番だよ!」
守華は笑みを返し、太一の頭を軽く撫でる。
「そうね、太一も芽依も、これからはお互いに助け合わなくちゃね」
芽依も守華に微笑み返し、少しずつ泣き止んだ。
琉璃はまだ涙をぬぐいながらも、心の奥で守華の言葉と行動に勇気をもらったのを感じていた。
八軒は黙ってその光景を見つめ、静かに頷く。蘭明も守華の優しさと冷静さに感心しながら、少し離れた位置で見守っていた。
「さて、これでひと段落ね」
守華は一息つき、再び笑顔を取り戻す。
「今度は、少しゆっくりしてから、みんなで練習の続きをしましょうか」
琉璃は微かに笑みを返し、守華に頭を下げる。
「はい、守華さま……私も、精一杯お力になります。今日のご恩は一生忘れません。」
小さな家族たちの顔がほころぶ中、守華の胸には、守るべきものの存在がより鮮明に刻まれていた。




