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守る華・守られる花  作者: ミシル
第一章 蘭

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24/113

24.毒より危険なキス

大きな木の下の草むらに横たわる守華は、ひとりでボーッと青空を見つめていた。

鮮やかな青と、ゆっくり流れる白い雲。

まだ暑い日が続いていたが、大きな木の影とそよぐ風が心地よく、眠気に抗うのも難しかった。


今日は稽古の相手がいなかったので、こっそりひとりで気分転換に出てきたのだ。

目を閉じて風を感じているうちに、うとうとと意識が遠のく。


ふと目を開けると――目の前に、鼻と鼻がくっつきそうな距離で蘭明が立っていた。

驚きで声も出ず、目が大きく見開かれる。


2秒ほどの沈黙の後、守華は両手で勢いよく蘭明を押しのけた。

蘭明は後ろに倒れ、大の字になって空を見上げる。


勝手に屋敷を出たの、怒られる!!

守華は頭の中で焦っていた。


「気持ちよさそうに寝てたな」

「いつからいたのよ!」

「結構前から」


もしかして、よだれを垂らしていなかっただろうか。いや、いびきをかいていたかもしれない――。


「守華は寝てるときも何か食べてるのか?」

「へぇ?」


思わず間抜けな声を出してしまう守華。


「寝ながら口をむにゃむにゃ動かしてたぞ」


一気に顔が真っ赤になる。

「私の寝顔見たんなら…」


言い終わるか終わらないかのタイミングで、横になっていた蘭明が勢いよく起き上がり、守華に向かって手を伸ばしてきた。

いきなり近づいてくる距離感に、守華の心臓はドキドキと速くなる。


蘭明の手は、守華の顔の横をすり抜け、そのまま後ろへ伸びた。

次の瞬間、蘭明の表情がわずかに歪む。


「え?」


守華が振り向くと、そこには蘭明の手に噛みついた毒蛇の姿があった。

牙が深々と食い込み、赤黒い血がにじむ。


「きゃーーっ!!」

蛇が大の苦手な守華は、思わず目を閉じて叫んだ。


しかし蘭明は冷静に蛇を振り払い、腰の短剣で一閃。

毒蛇はその場に崩れ落ちた。


「蘭明!? 大丈夫!?」

「……ああ、このくらい、大したことない」


軽く言う蘭明に、守華の顔が青ざめる。

「なにが大したことないのよ!? 毒よ、毒!!!」


焦りで頭が真っ白になる。

――毒のときはすぐに吸い出せば助かる。ドラマでそうだった!


「やるしかない……!」


守華は蘭明の噛まれた手を掴み取り、ためらうことなく唇を傷口に押し当てた。

ちゅっと血を吸い上げ、ぺっと吐き出す。

そして、また吸っては吐く。何度も何度も。


「……守華」


蘭明は言葉を失っていた。

毒が移るかもしれないのに、一心不乱に自分を助けようとしている。

その必死さが、まっすぐすぎて、胸を強く打つ。


見つめることしかできなかった。

――守華がこんなにも自分のために動いてくれるなんて。


何度も何度も血を吸って吐いてを繰り返した守華。

唇は赤く染まり、汗に濡れた額の髪が頬にはりついている。


「よし!これだけ出せば大丈夫でしょ!」

安堵の笑顔を向ける守華。


「守華……お前、毒を吸い取ったら……守華の体にも毒が入るかもしれないんだぞ?」


「……あっ!」

そのことに思い至って、愕然と固まる。

必死で蘭明を助けようとすることしか頭になかったのだ。


次の瞬間――視界が暗転する。


気づいた時には、蘭明の顔がすぐ目の前にあった。

守華の唇を、彼が奪っていたのだ。


「……っ!」

驚きに目を見開いたまま固まる守華。

蘭明は、唇をなぞるようにゆっくりと舐め、そしてふっと離れて彼女の瞳を見つめた。


「何をそんなに驚いている?」


「……だって、今……」

人差し指で蘭明の唇をさし、自分の唇に触れる守華。


「毒の血を吸ったんだ。守華の唇にも毒がついていたから……私が取っただけだ」


「あ……あ〜」

ドキドキを必死に隠し、平然を装いながらも声は震える。


次の瞬間、守華は回れ右をして――小走りで走り去った。


残された蘭明は、まだ温もりを残す唇に指を触れ、ひとり小さく笑う。


「……あれが“必死で助けようとした唇”か……」

心の奥で湧き上がる熱を抑えきれなかった。

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