表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守る華・守られる花  作者: ミシル
第一章 蘭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/113

22.湖畔の笑顔と、襲来の影

「守華さま、お出かけのご準備をお願いいたします」

桜音亭の外から、白鋭の声が響いた。


まだ布団の中にいた守華は、その声で目を覚ます。

「えっ、こんな朝早くに…どこに行くのよ?」

「蘭皇がお待ちです。ご支度をお願いします。今、小心も参ります」

「まだ寝ていたいのにーーー!」


文句を言いながらも、渋々起き上がる守華。

そのタイミングでドアが開き、小心が入ってきた。

「こちらでお顔をお洗いください」


机の上に置かれた水の入った桶を見て、守華はあくびをしながら顔を洗う。

「こんな朝早くに、どこに連れて行くつもりなの?」

「さぁ…でも、お弁当も作らせていましたよ」

「お弁当?ピクニックかしら?」

「えーと、ピクニックとは…?」

いいの、いいのと手を振り、守華は着替えを始めた。


準備を整え、守華は屋敷の外に出た。

そこには、蘭明、八軒、白鋭がすでに待っていた。


「遅いな」

守華は思わず蘭明を睨む。

「いきなり叩き起こされて、そこから準備だもん。それなりに時間かかるでしょ!こういうのは前もって言うんじゃないの?」

「そうなのか?次からはそうする」


今日は反抗してこない蘭明に、守華は少し拍子抜けした顔をした。


八軒はすでに馬に跨っている。

蘭明は守華を馬車に乗せようと手を伸ばすが、守華が首を傾げる。

「私、これに乗るの?」

「そうだ」

「えー、私も八軒みたいに馬に乗りたい!」

「守華、馬に乗れるのか?」

「えっ、乗れないけど…」


呆れ顔の蘭明は馬を連れてきて守華を乗せる。

そしてその後ろに自分も跨る。


「ゆっくり行くが、落ちないように俺に寄りかかれ」

「うん、わかった」


守華は顔だけ蘭明に向け、無邪気な笑顔を見せた。

その瞬間、蘭明の胸がドキリと高鳴る。

――何だ、この感覚は…?

守華の笑顔が、こんなにも可愛く見えるなんて――。


思わず顔が赤くなり、視線を逸らしかけるが、守華は気づかず笑い続ける。

蘭明は自分の心臓の音を押さえつつ、静かに馬を進めた。


馬に乗るのは初めての守華。

天気も良く、風を感じるたびに心が弾む。


町を抜け、木々の間を進むと、やがて山の中へ入っていった。


「どこに行くの?」

「陽月国の中で、俺のお気に入りの場所だ」

「ふ〜ん」

守華はただ返事をするだけで、導かれるまま進む。


「八軒、お前はここで待っていろ」

「はっ」

そう言うと、八軒は馬を止め、守華と蘭明だけで先へ向かう。


数分いった先、木々の間に差し込む光の向こうには、キラキラと輝く湖が現れた。


「わぁ……綺麗。陽月国にも、こんな場所があるんだ」

「俺のお気に入りの場所だ」

蘭明は馬から降り、守華に手を差し伸べる。


守華はその手を取って馬から降り、縄を近くの木に巻いた。

二人は湖のほうへ歩みを進める。


「う〜〜ん」と背伸びをして景色を見渡す守華。

「素敵なところね。もっと早く連れてきてほしかったな」


「ここは、よく母に連れてきてもらった場所だ。考えごとするときはいつもここに来ていた」

「そっか……お母さんとの思い出の場所なんだ。ねぇ、蘭明のお母さんって、どんな人だったの?」


「俺が五歳の頃に亡くなったから、あまり記憶にはない。でも、芯が強くて、優しくて、頼れる人だった」

「へぇ……なんだか、私のお母さんに似てるかも。うちの母も強くて、一緒にいるだけで安心できる人だった。『人に涙を見せるな、弱みを見せるな』が口癖で、私も母の泣くところを見たことないの」


「なるほど……守華の母と似ているのか。案外、男より女のほうが強いのかもしれんな」

「そうね。きっと、蘭明より私の方が強いわね」


「なんだよ、それ」

二人は笑い合う。


しかし笑いの余韻の中で、蘭明の胸に小さな波が立った。

守華の無邪気な笑顔――あの笑顔を見ただけで、心臓がぎゅっと締めつけられるように高鳴る。

顔が自然と熱を帯び、思わず視線をそらせずにはいられなかった。


「……守華」

「なに?」

振り向いた守華は、屈託のない笑顔を向ける。


その瞬間、蘭明の胸は何度も跳ねる。

笑顔ひとつで、こんなにも心を揺さぶられるなんて――今日の自分は、少しおかしいかもしれない。


湖のほとりには、風と光が柔らかく差し込み、二人だけの静かで甘い時間が流れていた。


「誰だ、出てこい!」


蘭明が振り向く。


「えっ?」


守華も後ろを振り返ると、そこにはさっきまでいなかった黒衣の刺客が十人ほど、ずらりと並んでいた。


「またー……?」

守華は目を丸くするでもなく、むしろあきれた顔。

前ならビビっていたのに、今はどこか開き直った様子だ。


沈黙。

どちらが先に動くか、緊張が張り詰める。


「狙われてるの、蘭明でしょ?」

小声で蘭明に尋ねる守華。


「あぁ……」

「じゃ、ごめんね!」


そう言うと守華は蘭明を後ろから押し出し、刺客の方へ突き出す。


「あなたたち、狙いは蘭明でしょ?さあさあ、どうぞ連れてって!私は関係ないし!」

ドヤ顔で宣言する守華。


蘭明は「こいつ……」と呆れた表情で守華を見つめる。

刺客たちも思わず「えっ?」と目を見開く。


「あ、あっ、そ、そりゃどーも……」

「いいのよいいのよ、さあ、早く連れてって!」


刺客が蘭明に近づこうとしたその瞬間、刺客の一人が後ろの方を指さして大声を出す。


「違うわ!狙いは女のほうだ!」


「えっ!?私!?」

守華は自分の胸を指し、目を大きく見開く。


「大人しくついてきてもらおうか」


「な、なにあれ!?!?」

刺客の後ろを指さす守華。刺客も思わず振り返る。


その隙に逃げようとするが、蘭明に手をしっかり掴まれ、動けない。


「ごめんなさい、さっきはつい……だから、私を渡さないでーー!」


「はぁ……」

蘭明は大きくため息をつき、低く呟いた。


「死にたくないなら、ここでじっとしていろ。」


守華は一瞬、反抗心がわきかけたが、周りの刺客たちを見て状況を悟る。

珍しく素直に頷き、息を整えて言った。


「……わかった.....」


後ろに隠れる守華を気にしながらも、蘭明と刺客の間にはピンと張り詰めた空気が漂っていた。


前に刺客に襲われたときは、守華をそそくさと連れて八軒が全て相手していたため、蘭明は弱いと思っていた。

しかし今、刺客と戦うその姿を目にして、思い出す。


海尭も小心も言っていた。

「武芸は弟二人に負ける」

「蘭皇は頭脳も武芸も一流」


そうだ、蘭明は武芸が本当にすごいんだ。


やっちまったな……という表情で、守華は右手を額に当てる。


その瞬間、刺客の一人が守華を狙って斬りかかる。

「きゃー!」


守華は慌てて座り込む。

だが顔を上げると、そこには必死に守華を守る蘭明の姿があった。


次の瞬間、蘭明は巧みに体を捻り、刺客の手首を掴んで刀を弾き飛ばす。

「守華、離れろ!」


守華は言われるまま後ろに下がり、蘭明がその刀を奪いとった。

刺客たちの視線は蘭明に集中し、十数人対一の戦いが始まった。


しかし、蘭明の動きは無駄がなく、速く、鋭い。

一振りで刺客の刀を受け流し、また一人、また一人と退けていく。

そのたびに守華は息を呑み、蘭明の背中を見つめるしかなかった。


「……こんなに強かったんだ……」

心の奥で、守華は改めて蘭明の凄さを思い知った。


八軒がすかさず助けに入る。


「気づくのが遅れてすみませんでした」


二人の息の合った動きに、守華は思わず目を見開く。

「かっこいい……」


刺客たちはダメだと悟ったのか、その場から音もなく姿を消していった。


「大丈夫でしょうか?」

「……ああ」


八軒が心配そうに蘭明に近づく中、蘭明は守華のもとへ歩み寄る。

しゃがみこんでいた守華に手を差し出す。


「大丈夫か?」

「う、うん」


守華の小さな声に、蘭明はふっと笑みを浮かべる。

「私が弱いと思って、あいつらに私を渡そうとしたのか」

「いやいやいや、あれは渡したとしても、蘭明ならどうにかすると思って……あははは……」

目を逸らしながら、守華は少し申し訳なさそうに笑った。


「これで分かっただろ」

「は、はい……もう二度と渡したりしません」

「よろしい」


守華は握られた手をそっと握り返す。

胸がじんわりと熱くなるのを感じた。


そして不思議なことに――

守華はその場で珍しく、蘭明の言うことを素直に聞く気になった。


「じゃあ、今日は大人しくしていろ」

「……はい」


いつもなら口答えして突っかかる守華が、ほんの少し肩をすくめて小さく頷く。

その様子に、蘭明は思わず微笑んで守華の頭をポンポンと優しく撫でた。


また刺客に狙われ、ゆっくりできる暇はなかった。


馬に揺られながら帰路につく。


「最近、刺客が現れることが増えましたね。今までこんなことはなかったのに」

八軒が不思議そうに口を開く。


この陽月国は権力争いもなく、平和だと思われていた。守華が現れるまでは……。


「狙いは私だったのね」

「守華さまが!?」

八軒は驚きの声を上げる。


守華は考え込むように眉を寄せる。

「なんで私が狙われるのかしら?じゃあ、前に屋敷に来た刺客たちも、私が狙いだったってことよね……」


「怖いか?」

守華は首を横に振った。

「最初は確かに怖かったけど……やられたらやり返すわよ。黙ってやられてたまるもんですか!?」


蘭明は少し笑って感心する。

「ははは、さすがだな。やはり女は強いというより、守華が強いのか」


「今日も刺客を取り逃してしまいました。前回のも全然情報が掴めず、どこの刺客なのか、黒幕も全く分からず……」

八軒は険しい顔で話す。


「早急に黒幕を捕まえねばな。人数を増やして探させろ」

「はっ」

八軒が力強く答える。


蘭明と八軒の会話が続く中、守華は馬の揺れにも関わらず、頭の中でひたすら考え込んでいた。

──なぜ私が狙われるのか……。


守華の目には決意の色が浮かぶ。


「わかった!!」

守華が閃いたように大声をあげる。


「いきなりどうした?」

蘭明が顔だけ守華のほうに向けて尋ねる。


「私に剣術と馬の乗り方、弓の使い方を教えて!」


蘭明と八軒は顔を見合わせる。


「私が狙われるなら、自分の身は自分で守らないと」

「女が武芸なんて、ありえない」

「ありえないって何よ!?男にしかできないっていうの!?私だってできるわよ!」


その勢いに、蘭明は思わず後ずさる。


「私や八軒がいれば安心だろ?」

「24時間ずっと一緒にいるわけじゃないでしょ?たまたま2回とも蘭明が近くにいたからよかったけど、いなかったら?そのまま私は抵抗もできずにやられるのよ!?そんなの私がごめんだわ」


八軒も口を挟む。

「蘭皇、守華さまの言い分も分かります。少しでも自分で守れれば、それはそれでいいのではないでしょうか?私も教えられますし、私の友人の女にも武芸のできる者がおりました」


蘭明は少し考え込み、やがて頷く。

「ならば、私は忙しくて教えられないかもしれん。八軒と星曜に教えてもらえ」


「わかった!八軒、よろしくね!」

「はい」

八軒は笑顔で返す。


守華は満面の笑みで拳を軽く握り、心の中で決意を新たにした。

──これで、次に刺客が来ても、私は自分の身を守れる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ