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守る華・守られる花  作者: ミシル
第一章 蘭

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18/113

18.月に誓う涙

月明かりに照らされて、桜音亭の庭は昼のように白く輝いていた。

季節は春から夏へ。空気もどこか軽くなり、虫の声が混じり始めている。


守華は屋根の上にいた。

――ここが一番、月がきれいに見える場所。


少し前に見つけた、桜音亭の脇の盛り上がった地面。そこに梯子を隠しておいて、誰にも気づかれないように屋根に登るのだ。

泣きたくなる時や、どうしても1人になりたい時は、必ずここに来て月を見上げた。

もし見つかっても、自分の部屋の屋根の上だ。叱られる理由はない。


そこは、守華だけの小さな秘密の場所。


「光る石も見つけられず、首に刀を突きつけられ、毒茶で試されて、無実なのに鞭で打たれて……最後には刺客まで。ここに来て三ヶ月、ろくなことがないじゃない。」


屋根に腰を下ろし、空を仰いで大きく息を吐く。

やがて、そのまま仰向けに寝転んだ。


「……私、何やってるんだろう」


視界いっぱいに広がる月が、滲んでいく。目尻から、涙がこぼれ落ちた。


上半身を起こし、月に向かって手を伸ばす。


「ねぇ、お月様……どうして私をここに連れてきたの?私はどうしたらいいの?導いてくれないの……?」


声に滲む涙は止まらない。

ここに来てから、月を見ても泣いたことはなかったのに――今夜だけは、心がどうしても抑えられなかった。


「月はこんなに綺麗なのに、人の心はどうしてこんなに汚れてしまうんだろう」


蘭明のように毒を盛ることも、

皇后のように気に入らなければ罰を与えることも、

刺客のように人を斬ることも、

ここではすべて“当たり前”。


やらなければ、やられる。

それがこの世界。


でも、目の前で刀や矢で人が死んでいくのを見てしまったら――どうして「当たり前」だなんて思えるだろう。


「……人は人、なのに」


頬を伝う涙を拭き、深く息を吐く。

両手で自分の頬をパンッと叩いた。


「大丈夫!大丈夫よ、守華。光る石を探して日本に帰る。それがママに託されたこと。ここで死ぬわけにはいかない!」


声に出して、自分を奮い立たせる。

生き残るためには、この世界に慣れなくてはいけない。


そう自分に言い聞かせ、もう一度夜空を仰ぐ。

白い月が、守華の決意を静かに見下ろしていた。

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