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守る華・守られる花  作者: ミシル
第一章 蘭

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17.ほんのり温かい距離

抱きついて泣きじゃくる小心をなだめ、守華は顔を上げると、目の前に並ぶいくつかの洋服に気づいた。


「小心、あれは?」

小心が指差す方を振り返りながら答える。

「あの洋服は、蘭皇が守華さまのために特別に作らせたものです。自分でハサミで短く切ったものではなく、職人に作らせた特別仕様だそうです」


守華は手を伸ばし、洋服を手に取る。

「わぁ、どれも素敵ね。センスはいいのね、蘭明も」

「蘭皇も、守華さまには優しいのですね。自ら頼みに行ったそうですよ」


普段は冷徹で手強い蘭明しか知らない守華にとって、その優しさは少し意外で、心がふわりと温かくなる。何枚か広げて見比べているうちに、ひときわ気に入った一着を手に取った。

「これにする!」

小心が微笑む。

「守華さまに似合いそうですね」

「あら、小心、私はなんでも似合うんだから」


二人で笑い合い、和やかなひとときを楽しむ。


翌朝。背中の傷はまだ完治していないため、自室で朝食をとるはずだった守華だが、新しい洋服姿を蘭明に見せたくて、小心に支えられながら痛む体を引きずって蘭明の部屋へ向かう。


いつものように手を上げて、

「おっはよー!」


入り口に立つ八軒に声をかけると、

「おはようございます、守華さま。とてもお似合いです」

「でしょー!」


守華は飛びきりの笑顔を返し、胸の奥で小さな誇らしさを感じる。


席につくと、小心は後ろに下がり、白鋭はいるものの蘭明の姿はない。

「守華さま、お体は大丈夫でしょうか?」

「全然大丈夫よ!それより蘭明は?」

「少し用があり外出しておりますが、そろそろお戻りになるかと」

「そっか!」


「先に食べていていい、と言っておりました」

「うん、わかった。みんなも下がって、蘭明が帰ってくる前に食べてきなさい。私は一人で大丈夫だから」


「でも……」

「蘭明が戻ると、またこき使われて食べる暇もなくなるわよ」


白鋭と小心は目を合わせ、頷く。守華は手をふりふりして白鋭と八軒と小心を送り出した。


守華は朝ご飯を食べずに待っていたが

机に顔を乗せて、うとうとと眠ってしまった

そのとき――誰かに鼻をとんとんと叩かれる感触があった。

目を開けると、そこには目の前に立つ蘭明の顔があった。


思わず頭を持ち上げる守華。

「おまえはどこでも寝られるんだな」

素っ気ない言葉。

「もう、驚かせないでよ」

「まだ、食べてなかったのか?先に食べてていいって伝えたはずだが」

「一人で食べるのは美味しくないもん」


「これ見て!」

守華は立ち上がろうとするが、膝の痛みを忘れて――

「痛っ!」

立った瞬間に崩れそうになり、とっさに手を差し出した蘭明に支えられる。


目と目が合い、守華の胸は少しドキッとする。

「いつも倒れるんだな」

「あははは、助かりました。ありがとう」

ゆっくりと立ち上がり、守華は新しい洋服を蘭明に見せる。


「見て!これ、蘭明が作ってくれた服!」

黒地に蓮の花の刺繍があしらわれ、蘭明の服と似たデザインの洋服。スカートも短く前より動きやすく、まるでペアルックのようだ。


「蘭明の服と似てるよね!ペアルックみたい!」

守華の笑顔に、蘭明は少し照れ笑い。

「ペアルックとはなんだ?」

「同じ模様の服を二人で着るってことよ」

「そんなに嬉しいのか?」

「うん!ありがとう、蘭明」


その笑顔に蘭明の心も温かくなり、照れながらも「嬉しいならいくらでも作らせる」と言った。


二人の間に流れる空気は、昨日とは少し違うものだった。守華はただ嬉しくてテンションが上がっているだけかもしれない。だが蘭明は、そんな守華を見て素直に喜んでいたのは間違いない。


あの洋服の一件から、二人の距離は少し縮まった。前よりもよく話すようになり、自然と笑い合える瞬間が増えていた。


「守華、寝たか?」

甘餅を手に持った蘭明が桜音亭のドアを開き、庭へ誘う。

「甘餅だ!食べるに決まってるじゃない!」

守華は嬉しそうに座り、甘餅を頬張る。


「えー、そんなに食べたら太っちゃう」

「もっと太ったほうがいいぞ」

思わず胸を見てしまう蘭明に、守華は慌てて隠す。

「ちょ、っとどこ見てんのよ!」

蘭明はにやりと笑った。和やかな雰囲気だった。


だが、矢が飛んできた瞬間、その穏やかさは一気に失われる――守華の手から甘餅が落ち、蘭明は咄嗟に守華を抱き、桜音亭の中へ避難させ

「八軒!」

すぐに八軒と屋敷の侍衛も矢を剣で受け止め、現れた刺客たちを排除する。

蘭明は守華を守りながら桜音亭の中へ避難させる。

「刺客!?」


守華が震えていた。


「大丈夫だ。安心しろ」


「でも、みんなが」


「余裕だ」


「あんなにいたじゃない!?」


心配そうに見えない外に目をやる守華。

震えてる守華の体を蘭明は優しく抱きしめていた。


少し立ってから八軒が桜音亭の扉を開いた。


「遅くなりました」


「どこの刺客だ」


「何人かは逃してしまいました。ここにいるもので生き残ったものは自害していてしまい、どこの刺客かは特定できません」


「そうか、まぁー、いい。後で詳しく調べる。後始末をしろ」 


守華は蘭明の手を握っていた。


「八軒は強いのね。」


「私の護衛だからな。それなり強くないと困る」


「そっか。」


まだ、守華の心臓は早いままだ。


「私はやつらについて調べるから行く」


「え?いっちゃうの?」


「なんだ?怖いのか?」


「こわいというか・・・死体が庭にあるし・・・」


「今、片付けてるから無くなるぞ。ここの警備も増やしておくから安心しろ。まぁ、狙いは私だと思うが」


「そうじゃなくて、、、女心が分からない人ね!」


「???」


「普通、こんな怖い目にあったんだから一緒にいてくれるのがあたりまえでしょ!?」


「やっぱり怖いんじゃないか。」


ふんと顔を横に向ける。

いつも強気な守華が怖がっている様子をみて

「今日は一緒にいてやる。楽しいことをしようか」


そういうと、守華を抱き上げてベットへ連れて行った。


「ちょ、何考えてるの!」

守華が慌てて声を上げると、蘭明は口の端を吊り上げてにやっと笑った。




_____バシン!


「いったー! ちょっとは手加減してよ!」

「いや、こういうのは本気でやらんとな」


二人が夢中になって遊んでいたのは、今でいう“おはじき崩し”のような遊びだった。


「今度こそ……!」

何度も負け続け、デコピンでおでこが真っ赤になった守華。


「よし……崩せ崩せ! ……やったー!」

今度は守華が勝利。


「いくよ? いい? 準備はできてる?」

「やられたらやり返す。これが私のモットーよ!」


_____バシン!


「やったなー!」

蘭明が笑いながら守華を軽く押し倒す。


「私なんて何回もやられたわよ!」

「では……痛いことではなく、今から守華が考えていた“楽しいこと”をやってやろうか」


「な、なによそれ! 何も考えてないわよ!」

顔を真っ赤にしながら蘭明を押しのける守華。


「もう遅い。寝ろ。今日はここにいてやる」

そう言って頭を軽く撫でると、蘭明は守華を布団に入れ、蘭明は床に腰を下ろした。


守華は胸をどきどきさせながら、目を閉じる。


――蘭明は目を閉じたまま考えていた。

刺客にあれほど怯える守華が、私を狙う刺客であるはずがない。


では……守華は一体、何者なのか。


答えの見えない問いが、静かな夜の中で蘭明の胸に重く沈んでいった。


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