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守る華・守られる花  作者: ミシル
第一章 蘭

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13.小悪魔の書写戦略

昨日のことで完全に蘭明に怪しまれていることを、守華は肌で感じていた。

――当分は、大人しくしていたほうが無難だよね。


そう心に決め、守華はしばらくおとなしく過ごすことにした。

朝は蘭明と一緒に食卓を囲み、小心と世間話を楽しみ、たまには屋敷の掃除を手伝ったりもする。

怪しむ目が落ち着くまでは、静かに過ごすしかない。


「小心、暇だね」

「そうですね。絵を描いてはどうでしょうか?」

「絵?この私が?無理無理」


守華は苦笑いしながら、絵心のなさを思い出す。幼稚園児よりも下手な自信があった。


「こんなに天気がいいのにね〜」


空を見上げ、青空の下で守華は小心と並ぶ。

――あっ!


桜音亭の前に出ると、屋敷で働く人々が集まり、春の光に照らされた桜は満開を迎えていた。

淡いピンクの花びらが風に舞い、木漏れ日が地面に柔らかく落ちる。

その花々の間を、丸いシャボン玉が光を反射してゆらゆらと浮かんでいた。


守華は小心と一緒にシャボン玉を作り、笑いながら遊ぶ。

やがて、それを見た使用人たちも次々と加わり、いつの間にか大人数で桜の下で遊ぶ賑やかな光景になった。


蘭明と星曜が屋敷に戻ると、楽しげな声が桜の香りとともに迎える。

「おかえりなさいませ、蘭皇。星皇」

「白鋭、この声は……」


「ええ、守華さまが桜音亭で、使用人たちとシャボン玉を楽しんでおられます」


二人は顔を見合わせ、桜の花びらが舞う庭へと足を運ぶ。

八軒も後ろからそっとついていく。


桜音亭に着くと、使用人たちは満開の桜の下でシャボン玉を追いかけ、笑い声が溢れていた。

「わー、楽しそう」

星曜も混ざりたくなる様子。


しかし、使用人の一人が蘭明に気づくと、瞬時に空気が変わる。

「おかえりなさいませ、蘭皇」

騒がしかった使用人たちは静まり返り、頭を深く下げる。


守華は慌てて蘭明に声をかける。

「蘭明、おかえりー」

「何をしている?」


「え?何をって、みんなでシャボン玉だよ」

「誰の許可を取った?」

「え?許可なんて必要?」

「この屋敷の主にだ」


守華が周囲を見渡すと、使用人たちは皆、下を向いたままだ。

「私が許可した!」


蘭明は驚き、星曜はくすくす笑う。

「蘭明も一緒にやらない?」


前髪に桜の花びらが少し落ち、無邪気に笑う守華。

その笑顔にドキッとしながらも、蘭明は冷静を装う。

「私は忙しい。それに私がいない方が、皆も楽しめるだろう」

小声で守華にだけ聞こえるように言ったその声に、蘭明なりの気遣いが垣間見える。


そんな蘭明に守華は小さなシャボン玉を次々と作る。

いくつかが蘭明の顔に当たり、パチパチと弾ける。


星曜も八軒も白鋭も、少し不機嫌そうな蘭明に気づき、一歩ずつ後ろへ下がっていった。


「おまえ.....」

怒った声に、守華はハッとして振り返る。

「わざとじゃないわよ!」


アハハハと笑いながら、守華は蘭明から逃げる。

「わざとじゃなければ何なんだ!嫌がらせか!」

「ごめんなさーい!」


星曜がとっさに間に入り、事態を丸め込む。

「まぁまぁ、蘭皇、次があるから行こう!」


「ちゃんと片付けろよ」

「はーい」


小心の後ろに隠れていた守華が顔を出し、返事をした。


「それと、そんなに暇なら書を100回書き写せ」

「えっ?」


守華の返事など気にせず、蘭明はその後ろ姿のまま去っていく。

守華は思わずあっかんべーをして、使用人たちはみんな笑った。


「今度は私も混ぜてねー」

星曜もやりたそうにして、蘭明の後を追っていった。


桜の花びらが舞い散る中、守華はシャボン玉で思いっきり遊び、使用人たちは今までにないほど元気よく、テキパキと仕事をこなしていった。


机の上には筆と半紙が整然と置かれ、小心は真剣な顔で墨をすっていた。

習字が大の苦手な守華は、肘をつき、その手に顔をうずめて「やりたくない」オーラ全開。


「守華さま、大変なときは私もお手伝いいたしますので」


小心の声に、守華はふうっとため息をつき、文句を口にする。

「つくづく、嫌な男よね、蘭明は。こっちは皆で楽しく遊んで、働く人たちの気合いも入れてあげたっていうのに……それなのにこの仕打ち、本当、頭にくるー!」


「きっと、蘭皇にも考えがあるんですよ」


「いやいや、絶対ない!私への嫌がらせに決まってるわ!」


守華はぶつぶつ言いながらも、仕方なく半紙に向かい、筆を動かす。

時間が過ぎるにつれて手はしびれ、筆を持つ腕が重くなる。


――ここで、守華の悪知恵がひらめいた。


【書を100回書き写せ】


ただそれだけを書き連ねる作戦。


「守華さま、これは……」

小心は目を丸くして尋ねる。


「書を100回書き写せって言われたんでしょ? それを書いたのよ」


「えっ、蘭皇に怒られますよ……」


「いいの、いいのー。蘭明に渡してきてー」


「もう、せっかく半分ぐらい書いたのに、知らないですからね!」


小心は文句を言いながらも、最後の紙を持って蘭明の元へ向かった。



「蘭皇、守華さまから書き写したものを渡すように言われ、お待ちいたしました」


「入れ」


小心の手には、1枚の紙しか握られていない。

蘭明はそれを目細めて見つめ、八軒と白鋭もその手元に視線を固定していた。


「こちらです」


小心は少し気まずそうに手渡す。

蘭明はゆっくりと用紙を開き、息を飲む。


「なっ……」


「守華さまも半分までは真面目にやられてたんですが、いきなりこれを書き出して……」

小心は必死に弁明する。


「言われた言葉を写すって、こんなの初めてですね……」


白鋭は思わずケラケラと笑い出す。


「まぁ、いい。小心、下がってよい」


小心は一礼して下がった。

守華の小悪魔ぶりは、またしても周囲を翻弄していたのだった。

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