第六話 ミッドウェー沖海戦(1)
時は遡ること1942年6月5日、ミッドウェー島近海のある海、ここに旭日の御旗を高らかに掲げたある一隻の空母がいた。その空母の名は「飛龍」、日本海軍第二航空機動戦隊の一翼であり、これから様々な試練を乗り越える船である。
山口こと山口多聞はこの飛龍の所属する第二航空機動戦隊の司令であり、いつもは蒼龍で指揮をとっていたものの、
「偶には旗艦変えてほしい」
と言う飛龍側の要望により、この飛龍へとやってきていた。時に76年前の1942年6月5日のミッドウェーでの事である。
第一航空機動艦隊を初めとした空母四隻は、米軍による名古屋空襲の報復としてミッドウェー島攻略に向かっていった。だが不思議な事に、もうそろそろミッドウェー島近海に到着しようとしたその時、「飛龍」の機関が故障してしまったのだ。修理の合間に攻撃されて、攻略に「支障」をきたさないようにと考えた山口は、数隻の護衛艦を残して艦隊を先に行かせたのである。
乗員「本当に良かったのですか?」
山口「ああ、本隊に迷惑かける訳にはいかんからな」
乗員「それにしては、護衛艦があまりに少なすぎます。この状態で敵の総攻撃を耐えることなど、余りに無茶だと思うのですが・・・」
山口「無茶も承知の上、何より言っているだろう本隊に迷惑かける訳にはいかん」
乗員「ですが、もしこんな時に米軍が攻撃しに来たら一体どうすれば」
山口「そこは艦攻を偵察によこしている、だからまずは、艦攻からの報告をまて」
乗員「ですが・・・」
すると奥から無線員が血相を変えてやってきた。
無線員「司令、先程飛ばした艦攻からの情報です」
山口「読め」
無線員「はい、本日〇五〇〇において米空母機動部隊らしき艦影をみゆとの報告が」
山口「場所は」
無線員「赤城からの情報によると、ミッドウェーから方位八度、二五〇浬の地点と思われます。それと、参謀長から現状報告が欲しいと言っていました」
山口「わかった、すぐ行く」
無線員「分かりました。先にお待ちしています!」
乗員「しかし司令、向こうの三隻のうち蒼龍だけ対艦装備だと少し心細くないですか?」
山口「そうだな、だが現状機関が動かん以上、修理が完了するまで、耐えるしかない、あと、直ぐに対艦用装備に換装してくれ。敵に空母がいないとも限らないからな」
乗員「・・・わかりました、すぐ友永飛行隊長に伝えます」
そう言うとその乗員は格納庫に向かった。しばらくすると、加来こと加来止男が山口のいる部屋へと入ってきた。
加来「司令。何か御用ですか?」
山口「その通りだ加来君。先程、赤城から敵艦隊らしき影を見たとの報告が上がった」
加来「と言う事は・・・」
山口「ああ、直ぐに艦載機隊に出撃準備を進言してくれ」
加来「分かりました。所で司令、赤城の無線をどうやって知ったのです?」
山口「向こうの偵察機が伝えてきた」
加来「なるほど」
山口「だが、展開が間に合うかどうかは賭けになるやもしれん」
加来「司令が「もしもの時に備えて、対艦装備の機体も出した方がいい」と言ったのは知っています。確かに、展開速度は真珠湾の時と比べるとかなり落ちてますからな」
山口「そうだな、この作戦を気に変わってくれれば良いのだが」
加来「まぁ、とりあえずは発進準備ですか」
山口「ああ。すぐにでも発艦できる用意を整えてやってくれ。私はこれから、草鹿参謀長と話をしてくる」
加来「はい」
そう言うと、二人は士官室から出ていった。
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その頃赤城の作戦室では、司令長官の南雲忠一らをはじめとした高官が会議を始めていた。参謀長である草鹿龍之介は、現時点での報告を元に説明を急ぐ、
南雲「では参謀長。説明を」
草鹿「はい。本日〇五〇〇に、赤城から発進した偵察機が敵機動艦隊らしきモノを確認しました」
南雲「飛龍の方は何と言っている?」
草鹿「まだ連絡は取れていませんが、同様の物を見ている可能性があり、連携を急いでいます」
南雲「攻撃隊の発艦作業は?」
士官1「まだ完了しておりません。一応陸上爆弾で爆装している機体は既に発艦させていますが、効果は今ひとつかと思われます」
南雲「やはり、雷撃と対艦爆弾が必要か」
草鹿「配置換えは進んでいますが、おそらく敵艦隊に見つかっている可能性もあります。おそらく大丈夫だとは思いますが、敵の攻撃が来る事も覚悟しなければなりません」
士官2「しかし、もし敵弾が被弾でもしたら、今の状態では確実に大破しますぞ!ここはできた機体だけでも発艦させた方がいいのでは?」
士官1「それでは数が足りん。加賀や蒼龍の事も考えなければ、連携はできん」
南雲「それは最早仕方あるまい。そう言えば蒼龍勝手に発艦した艦爆隊はどうなった?」
草鹿「江草隊長の事ですか、まだ詳細は掴めていませんが・・・」
乗員「参謀長!緊急電です」
草鹿「なんだ、手短に頼む」
乗員「先程、蒼龍から連絡が来ました!どうやら江草率いる艦爆隊が敵艦隊を確認したそうです」
草鹿「そうか、でかしたぞ」
乗員「しかし、この事以上に重大報告があります」
南雲「その問題とはなんだね」
乗員「それは・・・」
南雲「どうしたのかね?早く言ってもらわなければ分からん!」
乗員「・・・それが飛龍が行方不明になりました」
草鹿「何を言ってる?!そんな馬鹿な話をする余裕などないのだぞ!」
乗員「それが、その報告は護衛艦から届いたものなんです」
その時、その場の空気が凍りついた。
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話は飛龍へと戻る。時間からして数分前、午前五時半ぐらいに、太平洋の真ん中であるにも関わらず、飛龍の二時方向前方から霧が発生し、一分と経たずに飛龍を飲み込んだ。
山口はその報告を聞くと一目散に艦橋に向かった。艦橋に着くと、そこには加来もいた。
加来「司令、これは一体・・・」
山口「わからん、だがこのままでは航空機の発艦は到底できんな」
加来「ですね、しかしこの霧は一体?」
山口「艦載機の武装はどうなっている?」
加来「全機が対艦装備で待機中です」
山口「わかった、護衛の駆逐艦はいるか?」
乗員1「全く確認できません!霧が濃すぎます!」
山口「通信は?」
乗員2「未だ回復しません!」
山口「機関はどうなった?」
乗員1「まだ復旧せず!」
加来「監視はそのままだ!一つの違和感も見逃すなよ!」
乗員1「了解!」
山口「最善を尽くせ!見つけたらすぐに報告、後はこちらで・・・」
乗員2「司令!機関室から連絡が」
山口「治ったのか!」
乗員2「はい、航行は充分可能な状態にまで復元できたようです」
山口「でかしたぞ。通信の方はどうなってる?」
乗員2「未だ回復せず。機械については問題ありません」
山口「そうか」
乗員2「はい、原因は不明でこのままだと作戦実行に支障が・・・」
山口「そうか、修復に務めるよう頑張ってくれ」
乗員2「最善を尽くします」
加来「司令、一つ提案があります」
山口「なんだ?」
加来「正確に言えば私の憶測なのですが、この霧のせいで無線が入らないのだと思います。現におかしくなったのは、この霧が包まれてからという報告もあります」
山口「確かに一理ある。少し心配だが移動して調整してみよう、ついでに航空機を発艦できる場所を確保せねばな」
加来「司令、てことは」
山口「ああ。加来君、至急機関室に連絡してくれ、この霧が晴れるまで機関を暖機運転、晴れ次第すぐに艦載機隊を出撃する」
加来「はい!おい、早く連絡を入れてくれ、今すぐに総員戦闘配置だ」
一同「はい!」
その時だった。
「おい!みろ!霧が晴れてきたぞ」
誰かがそう言ったかと思うと、山口と加来はすぐさま双眼鏡で晴れているかを確認した。すると確かに目の前から少しずつ霧が晴れていくのを見た。山口は
「全速前進!このまま最大速力で突っ切る!」
と機関室に伝えると、飛龍の煙突から再び黒い煙が上がって動き始める。その間も観測員は
「距離2000、1000、500、450」
と報告を続けていた。だがその時、
「おい、なんか閉じようとしてないか?」
と言う声が聞こえてきた。前を見ると霧の出口らしき場所がゆっくり閉じようとしていた。
「増速急げ!」
と加来が言うと、先程よりも多くの黒煙があがる。本来なら機関を痛める可能性もあったが、その場にいた山口や乗員達は構ってもいられなかった。
「距離、300、200、150、100、もうすぐ!」
そして、ついにその瞬間が訪れた。光が飛龍の目の前からどんどんと広がっていく、広がるにつれて誰しも心の中で安堵が広がった。
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その頃本隊の方はと言うと、偵察機の報告を元に攻撃隊を発艦させていた。たが、出撃を待つ航空機で溢れかえっており、もしも攻撃を受けて仕舞えば一溜まりもない状況でもあった。
乗員「司令、全機出撃準備を完了しました」
南雲「ご苦労、・・・草鹿参謀長、敵本隊の動きはどうなっている?」
草鹿「はい。江草率いる艦爆隊は、あの後上空に敵の攻撃隊が発艦しているのを確認しました」
南雲「対応についてはどうなる?」
草鹿「戦闘機隊は既に出撃させました、対空警戒も既に始まっています」
南雲「たがこんな時に敵が襲ってきたらどうする?もし爆弾でも喰らえば、燃料や弾薬の引火は避けられんぞ」
草鹿「すでに江草が報告した時点で蒼龍の艦載機隊は出撃しています。作業が完了すれば、必ずこの赤城と加賀の艦載機で・・・」
南雲「そんなことは今はどうでもいい、とにかく作業が終わり次第出撃する、そういうことだろう」
草鹿「ええ、そうです、ですが・・・」
乗員1「司令!蒼龍の艦載機が敵空母に壊滅的被害を与えたと報告が」
南雲「なに?!草鹿君すぐに航空隊を出撃するよう伝達してくれ、加賀にもな」
草鹿「まだ換装作業が済んでいませんが、どうするんです?」
南雲「今はできてる機だけ一刻も早く出撃させろ!最悪、陸上爆弾でも構わん!」
乗員1「敵機来襲!デスパデータ雷撃機です!距離二五〇〇!数四十!」
南雲「すぐに完了してある機体を片っ端から出撃させろ!戦闘機はできてるものから発艦だ!総員対空戦闘準備!もたもたするな!」
乗員2「了解!」
南雲「飛龍は今どこにいる?早くこの事を伝えなければ・・・」
乗員1「それがですね、先程から応答しているのですが、全然繋がらないんです!」
南雲「敵機は!」
乗員3「距離一〇〇〇を切った!高度がどんどん下がっていってる!低空で侵入してきます!」
草鹿「もう既に突入されたか!戦闘機隊は何をしてる?!」
乗員3「どんどん撃ち落としていってます!既に対空砲の射程距離に入りました!」
南雲「射撃開始!一機も近づけさせるな!」
乗員3「了解!」
乗員1「観測機より報告します!敵機動艦隊に命中弾多数!一隻を炎上、一隻を大破させました!」
草鹿「よくやった!だが油断はするな!」
乗員1「分かっています!」
草鹿「司令、もしかしたら敵の爆撃隊の攻撃を受けるやもしれません。退避した方がよろしいかと」
南雲「うむ。分かった」
乗員2「蒼龍より報告!距離五百キロ先に更に別の艦隊を確認しました!」
南雲「何だと?!艦種は?」
乗員2「ヨークタウン級です!手前の艦隊も全てヨークタウン級!」
草鹿「ヨークタウン級が勢揃いか、名古屋の敵だ!全力で挑め!」
乗員3「敵機直上!急降下アアアアアアアアアアア!」
南雲「何だって?!」
勇猛果敢に彼等が乗る赤城を初め、多数の弾幕を潜り抜けた、敵の爆撃隊が一直線に空母に向けて突っ込んできた。
「全速回避!急げええええええ!」
と言う声ももう遅く、赤城に向かって多数の爆撃機が爆弾を投下した。
投下された爆弾は赤城の甲板を突き破ったかと思ったのもつかの間、赤城は無数の炎に包まれ、そこから機体の破片や残骸、甲板の木片が空高く舞い上がり、艦橋へと襲いかかってきた。南雲は咄嗟に草鹿を突き飛ばすと、飛んできた機体の破片により頭を強く打って意識を失ってしまった。
起き上がった草鹿は意識を失った南雲を担くと、そのまま状況報告を聞く。
草鹿「みんな無事か?!」
乗員1「私は無事です!司令はご無事で?!」
草鹿「意識不明の重体だ。応急処置はできるか?」
乗員1「今はそんな時じゃありません!それに今医務室に向かっては、格納庫の誘爆に巻き込まれる可能性も・・・」
観測員1「蒼龍被弾!炎上しています!」
観測員2「加賀被弾!飛行甲板大破しました!」
乗員2「第一次攻撃隊!現在帰投中!間も無く接敵します!」
乗員1「参謀長!赤城の炎上が更に拡大!もう手がつけられません!」
観測員2「敵機更に接近!雷撃隊です!」
草鹿「機関はどうなった?!」
乗員1「駄目です!先程の爆発で機関が損傷!回避不可能!」
草鹿「残ってる迎撃火器を全力指向!一機でも落とせ!加賀はどうなった?!」
観測員1「尚も炎上中ですが、弾薬の誘爆には至っていないようです!ですがあの分では、次の攻撃に耐えられない可能性があります!」
草鹿「護衛隊を加賀の周りに集めさせろ!マトモに動けるのは最早加賀しか・・・」
観測員2「新たな敵機を確認!加賀の方に向かって行きます!」
草鹿「トドメを刺すつもりか、残ってる火器を加賀の方に向けろ!加賀だけは守り通せ!」
乗員2「了解!」
観測員1「参謀長!敵雷撃隊が接近!回避できません!」
草鹿は絶望感を感じずにはいられなかった。栄光ある第一航空機動艦隊が、自身の眼前で燃えて消えていくのを信じたくはなかった、だがそれでも敵の攻勢が止む事はない。とうとう迎撃も間に合わず、赤城は数本の航空魚雷を左舷に喰らった。草鹿が加賀の方を見ると、炎上する加賀の目の前に巡洋艦「三隈」が立ちはだかり、大破しながらもその身を挺して加賀を守っていた。そして敵が襲いかかろうとしたその時、不思議なことが起きた。
「敵機が反転していきます」
その言葉を聞いて、草鹿は一気に肩の力が抜けるのを感じた。だがそれに伴う犠牲は、実に大きなものであった。
今回から本格的にスタートいたします。2026年よろしくお願いします。




