第四話 艦内へ
話は進み、ここは委任統治領であるパラオ諸島、沈みゆく太陽の中六十六、南雲、シゲの三人を乗せた駆逐艦「ゆきかぜ」はついにこの地に到着した。三人は「作戦」に際して護身用の拳銃と生体装置、そして正装と長刀を艦内の更衣室で身につけていた。その最中、現地の陸戦隊の隊長からの定時連絡が響き、六十六が連絡を取る。相手は自身を「船坂」と名乗ると、そのまま六十六と話し始めた。
六十六「船坂隊長。我々にはどう言ったご用件でお掛けを?」
船坂「貴方方の提示した作戦について、現状どうなってるか確認しておきたく連絡しました」
六十六「分かりました。目標の行動と陸戦隊の配置は?」
船坂「目標に行動は全くありません。無人偵察機で堂々と偵察しに来ているのに、対空機銃どころか小銃の発砲もない。部隊についてはすでに展開済みです、そちらは?」
六十六「はい。我々の服装についても問題はありませんし、航空支援についてはすでに「あかぎ」から戦闘機を発進する手筈を先程整えました。我々の生命反応が途絶えたその瞬間には、目標に威嚇射撃をさせる手筈です」
船坂「それについては良いでしょう。だが目標に直接出向くのはどうかしていると思います」
六十六「危険は承知の上です、それにそちらから護衛を二名程付けてくれますし、突入隊も編成している手筈でしょう?」
船坂「それはそうです。だがもしもそんな事があっては、我々陸戦隊の面子や海軍長官のポスト指名に多大な影響を与える。それを諸外国に知られてはどちらにせよマズイ事になるだけです!それを分かって言っているのですか?」
六十六「分かっているからこそです。とにかく、我々としては対話できる可能性を掛けてみたい!その点についてはどうかご理解して頂きたい」
船坂「・・・分かった。だがもしも死んでいたら、その時は全力で攻撃する、良いですな」
六十六「ええ、勿論「民間人の被害を出さない」程度には暴れて下さい」
船坂「それは、難しい要望ですな。一定の「覚悟」をしてもらいましょう」
六十六「了解致しました」
六十六は電話を切ると、着替えを済ませて南雲らと共に「ゆきかぜ」の後部甲板へと向かう、間も無く現地の哨戒艇の先導に続き問題の場所に案内されると、「ゆきかぜ」のヘリポートに一機のヘリが降り立った。中には二名の小銃を持った護衛とヘリボーンの補助に当たる人員が一人いた。
三人は何も言わずにそのまま乗り込むと、ヘリはそのままエンジンの唸りをあげて飛び立つ。そこから十分後、
「見えました」
と言うパイロットの声を聞いて三人が前方を見てみると、眼前に雄に二百メートルぐらい程のボロボロの航空母艦を陸戦隊の戦闘ヘリ達が囲んでいる光景であった。
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一方そのころ、空母の中ではとても落ち着いた雰囲気が漂っていて、とても六十六たちや陸戦隊に狙われている雰囲気にはとても思えなかった。そんな中この艦内にある会議室では、士官たちのとても緊張した雰囲気が漂っていた。
「これからどうする」
「飛行甲板は大破、おまけに外には見た事ない戦車がわんさか、これは流石の我々もお手上げだな」
「そうそう早くに諦めるんじゃない。まだ話し合える可能性もある」
「それよりも、ここは一体どこなんだ」
「わかったら苦労はしないさ、でもな“あの人”が言う事が正しければ、ここはフィリッピン近海にある南沙諸島だと思う」
「確かに似てはいるな」
「それよりも早く迎撃体制を整えなければいけないと思うが・・・」
「やるとしても、それは最終手段だな」
「仮にするとしても、前部の武装は軒並みやられているし、最悪の場合には艦爆や艦攻の銃座から取り外して使うしかなくなるぞ」
「だが大半の機体は損傷状態、火災は抑えられたが弾薬も食糧も今は無駄にできん」
「残ったのはたったの半数だけだしな、運び出せるだけ運び出したがそれでもあまり足りんのが現状、全く一体いつになったら休めるんだろうな」
「何を言う!それでも貴様帝国軍人か!」
「もう反論する気力もありませんよ」
「まぁ、そう思うのも無理ないさ、だってもう二日もマトモな飯を食べてないからな」
「食糧庫が燃えちまっているからな。主計課には頭が上がらん」
「もういっそ降伏でもするか?」
「一体ここが分からない以上、何されるかわからないそれに司令は部下ことを第一に考えてくれる人だからな、もしかしたら許可してかれんかもしれん」
「となると、やはり交渉になるか」
「いや、そもそも敵がどう出てくるか分からん。それに万が一交渉が決裂したら、もう後戻りができなくなる」
「やはり、迎撃体制を整えて徹底抗戦をするしかないか」
「それこそ閣下が一番許してくれなさそうなことじゃないか」
「じゃあ一体どうすりゃいいんだ」
「まぁ、まとめると方法は二つ徹底抗戦か降伏かその二つしかない」
「しかしながらな、相手の意思を感じさせなければ、下手に降伏はできん」
「じゃあここで餓死するか?」
「それは司令や艦長に面目ないからできん」
「一体どうすればいいんだ?」
「全ては二人にかかってる。もし無理になった場合は、死ぬまで戦おう」
「仮にそうなったとして、どう部下に説明する?」
その場にいた全員がうなった。そんな最中でも乗員たちはぽっかりと空いた穴から赤く輝く夕日を見つめ、誰もかれもがどこか虚しさを感じられる。
そして、所々にいる兵士が空に見える月を見てその目は涙を流していた。そしてどこかは彼らには分からなかったが、外から独特なプロペラ音が響く。
その時、ある五、六人乗員が艦長命令により、そのプロペラ音の正体を知るべく、小銃を持って甲板へと出ていった。
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ヘリが空母の真上に到達すると、護衛はすぐに眼前の飛行甲板を舐め回すようにみる。周りに漂う空気には、腐敗しているような酸っぱい臭いと焦げ臭さが充満し、周囲に見える飛行甲板は、前部や後部が大きく抉れ、中が見えてしまうほど大きく穴が空いていた。
安全を確認した護衛は、今度は六十六達が甲板を見るように促すと、南雲が艦橋の辺りに小銃を携えている五、六人ほどの人影を見た。人影は、目の前に得体の知れない航空機が滞空しているにも関わらず、手元の小銃を一発も撃たない。それどころか、まるで慣れているように手招きする様は、南雲も不審に思った。だが三人の覚悟はとても硬かった。六十六が一言
「降ろせ」
と言うと、ヘリはどんどん飛龍の甲板の上に降下していき、ついに甲板上に降下用のロープが垂らされる。それを確認した後、まずはヘリのにいた補助員のサポートを受けつつ、護衛二人がヘリから降下した。二人は手元の89式小銃を握りしめつつ人影に幾らか話していると、安全が取れたのか三人に来るように指示する。
「皆さん、覚悟はできましたか?」
と言うヘリのパイロットの問いかけに三人は無言で頷くと、今度は三人が一人ずつヘリから降下していった。
降り立った三人は、捧げ銃をする乗員に敬礼をすると、護衛と一緒に乗員の一人に連れられて艦内へと入っていった。その間も、乗員と六十六の間で幾らか話が飛び交った。
六十六「失礼ですが、とうしてこうも艦内が暗いのですかな?」
乗員「攻撃に遭いましてね、その折に機関が故障してこうなったのです。そのせいで非常灯もつかなくなってしまいまして・・・」
六十六「その感じを見ると、我々のような部外者とはかなり話し慣れていそうですが・・・」
乗員「まぁこちらにも色々「事情」と言うものがありましてな」
六十六「そうですか」
南雲「所で、この艦の名前は?」
乗員「航空母艦「飛龍」です。その服装では、知っているかと思いました」
南雲「君たちはどこからきた?」
乗員「自分にもさっぱりです。昨日までどこにいたのか、我々にもさっぱり、分からなくなってしまいましてね」
南雲「でも飛龍と言う事は、1942年六月のミッドウェーの事は覚えているのですか?」
乗員「ええ。最初の頃は右往左往するだけで、位置がさっぱりわからないのですから・・・」
短いながらも、三人は彼らの間には「筆舌に尽くしがたい事があった」のだとと言う暗黙の了解が彼らを縛る。
それから暫く歩くと三人は飛龍の会議室らしき場所に案内されたが、護衛は門前払いを喰らう。三人は抗議しようとするも
「無駄に信用を落とすのはマズイ」
と考えた末に諦めた。しばらくすると、乗員達が一杯の水が入ったコップを出してきて、三人は無言で水を頂いていると、安全が確認できたのか、門前払いを喰らっていた護衛二人が入ってきた。
護衛1「長官!ご無事で?」
六十六「遅かったな。ご覧の通り大丈夫だ」
南雲「だがどうして門前払いなんか・・・」
護衛2「我々が気になったのか、多少のボディチェックを受けましてね。なんとか無事に終わりましたが、私の小銃が「危険だから」と言って持ってかれてしまいました」
南雲「小銃を持ってかれるとは、まぁ何とも」
護衛2「今頃はじっくり調べられていますよ、きっと」
護衛1「所で、長官達は何も調べられなかったのですか?」
六十六「ああ。見ての通り装置や拳銃は無事だ、盗られたものはない」
護衛1「他に調べられたものは?」
六十六「無いな」
護衛1「ならよかったです。所でこの飛龍ですが、これからどうするのでしょう?」
六十六「まだ確定はしてないが、最悪の場合は我々ごと吹き飛ばす覚悟もやむおえん事は確かだ」
護衛1「遺書を遺しといて正解でしたな」
南雲「笑えん冗談だぞ、それは」
護衛1「まぁ、確かにそうですが」
シゲ「しかし、七十年ぐらい前の船ってこんなに煌びやか何ですか?南雲司令?」
南雲「俺も詳しくは知らんが、葛城の士官室はかなり凄かったな」
シゲ「へぇ」
六十六が話の流れを変えようとした時だった。会議室の扉が開くと、中に飛龍の乗員と共に二人の士官が入ってきた。三人にとっては、その事一番予想できることだったが、いざ実際に目にしてみるとその威圧感に押し潰されそうになった。
「焦らなくても、あなた方を殺しはしません」
乗員の一人がそう言うものの、三人は全く言葉を発することができなかった。士官の一人が乗員達を帰らせると、二人は三人の向かい側の席に座った。
「要件は一体何かね」
と士官の一人が問う。六十六は静かに
「投降を促しにきた」
と答えると、その士官は静かに頷く、それを聞いた三人はとにかく安堵した。それも至極当然のことである、何せ三人の目の前にいる士官は、旧二航戦の司令であり、ミッドウェーで戦死した海軍中将「山口多聞」と、飛龍最後の艦長で同じく戦死した海軍少将「加来止男」が、今まさに、三人の目の前で鋭い目つきをしながら話を聞いているなら、尚のことであった。




