第二話 旅立ち
杉田の車がようやく到着すると、六十六はそこが海軍横須賀鎮守府である事をすぐに理解した。
着いた頃には11時を回っているのを確認すると、六十六はすぐに車を降りて、早速南雲を探して鎮守府内を練り歩く事にした。それを杉田は守る様に前に出ると、六十六から話しかけられた。
六十六「運転で疲れては無いか?」
杉田「いえ。長官の為ならば・・・」
六十六「なら無理は言わん、この後用が済んだら休みなさい。君は気づいてない様だが、目にクマができてるぞ」
杉田「お気遣い感謝します。ですが、これも仕事ですのでお気になさらず」
六十六「じゃあ聞くが、お前の所属はどこだ?見た所海軍の制服に身を包んでいるが・・・」
杉田「仰る通り、私は海軍第343海軍航空隊所属です。何を聞く事があるでしょうか?」
六十六「・・・違うな」
杉田「え?」
六十六「杉田君。本当は違う所属だろう?」
杉田「何故、そう思ったのです?」
六十六「目付きに光が見えない。気持ちを外に出さないように教育する「海軍陸戦隊」の連中が、過酷な訓練の過程で到達する目だ」
杉田「・・・仰る通り。私は海軍陸戦隊第一航空機動旅団の所属です」
六十六「で?陸戦隊が何用で?」
杉田「山本長官。今回の件は、我々陸戦隊に譲ってはくれないでしょうか?」
六十六「・・・悪いがそれは無理な話だ。君だって陸戦隊と海軍の関係は知っているだろう?」
杉田「ええ。元々海軍管轄だった我々が、戦後の反対意見を押し黙って独立させた軍ですから・・・」
六十六「その通り。君も事は穏便に済ませたいだろう?だからこそここは認めてほしい」
杉田「残念ですがそれもできない」
六十六「では、私を掻っ攫って人質にでもするのかな?」
杉田「いえいえ、そんな酷いこと出来るわけありません!」
六十六が何か言おうとしたその時、彼の携帯電話が鳴り響いた。六十六が出てみると、それが南雲からの電話であった。
六十六「南雲か?今どこにいる?」
南雲「お前どこにいる?横須賀鎮守府か?」
六十六「ああ、海軍陸戦隊第一航空機動旅団所属の杉田とか言うヤツと一緒にいる」
南雲「そうか、いやぁ無事でならよりだ!」
六十六「どう言う事だ?どうして陸戦隊がお出迎えしている?」
南雲「いやぁ何、こっちとしても陸戦隊連中と仲良くしたいと思ってよぉ」
六十六「全く。・・・所でお前はどこに?」
南雲「三笠公園だ。そっから例のアレで行きたいと思っていたのに、どうしてそんな所に・・・」
六十六「こっちのセリフだ。真面目な話だから鎮守府内を練り歩いているかと思ったが、その様子じゃあいつも通りだな!」
南雲「いゃあ悪い悪い」
六十六「今からそっちに行くから、待ってろ!」
南雲「へいへい」
そう言うと六十六は電話を切り、杉田を車へと引きずって乗せると、三笠公園へと真っ直ぐ向かった。
三笠公園に着くと、すぐに南雲が出迎える。
六十六「こことはお前らしいが、その前に一言言ってくれんもんか?」
南雲「悪かったな」
六十六「で?結局“例のアレ”ってなんだ?」
南雲「航空機だ。試験中のな」
六十六「試験中だと?!」
南雲「まぁこっちで開発中の試作機なんだが、かなり特殊でな」
六十六「どんなんだ?その航空機は?」
南雲「簡単に言えば飛行艇だ。米国に内緒で独自開発している代物だよ」
六十六「どこにある?」
南雲「三笠の隣にある。米軍に足はついてない」
六十六「さぞ素晴らしいものなんだろうな!」
南雲は無言のまま、六十六と杉田を案内する。そこにあったのは、とても前時代的としか言いようのない代物が鎮座していた。
六十六「こ、これはなんと言うか・・・」
南雲「試作ジェット飛行艇「富士」。こいつの名前だ」
六十六「こんな前時代的なモンをよく通せたな!」
南雲「そう言うな、見た目はアレだが最新式のコンピュータを載せてあるし、航続距離もこっからシゲのいるフィリッピンまで往復できるぐらいある」
六十六「本当に大丈夫か?」
南雲「パイロットはそこにいる杉田がやる。まぁ俺が手引きしたんだがな、陸戦隊連中の中でも腕は確かだ。それに、コイツはコンピュータ制御で着水も楽にできるしな」
六十六「だとしても、乗りたくはない外見だな」
南雲「何言ってんだ?これに今からのるぞ?」
六十六「嘘だろ?!」
南雲「急ぎ用だから我慢しろ!」
六十六「わ、分かった」
南雲「それから杉田、飛行艇の操縦経験は?」
杉田「あります」
南雲「なら好都合。おい、さっさと乗るぞ」
こうして南雲を筆頭に六十六と杉田が中に入ると、そこには見たこともないほど広々とした貨物スペースらしき場所に不都合な大量の電算機があった。
六十六「これは・・・」
南雲「なっ、すごいだろ?爆弾槽もいいが、自衛用火器が少なくてな、思い切って貨物スペースにしてみた。今は計算機がズラッと並んでるけどな」
杉田「すごい・・・」
六十六「コイツを貸切で使うのも、何か勿体無いなぁ」
南雲「そう言うな、ここだけの話だが露助がKGBやら何やら寄越してコイツを探らせてるがな、コイツは結局試作機止まりの機体なんだよ」
六十六「試作機止まり?!」
南雲「ああ、正式採用もんは別に用意してもう実証段階に入ってる。不採用だからと言ってすぐ捨てずに取っておいて正解だった」
六十六「そうだな・・・」
杉田「あのお二方、そろそろ出たほうがよろしいのでは?」
南雲「そうだな。よし杉田、操縦を頼む」
杉田「はい!」
南雲「ロク、こっからは少しばかり揺れるぞ」
六十六「撃墜はされないんだろうな!」
南雲「安心しろ、フィリッピンとの密約は通ってある、撃墜はされん」
六十六「それなら、良かった」
六十六は呆れながらもそう答えると、座席にゆっくり腰掛けると、それを確認した杉田が
「発進準備に入ります!」
と機内無線で話しかけると、ジェットエンジンが唸りを上げ始めた。そしてエンジンが充分に暖まったのだろう、機体が大きく揺れながらゆっくりと前進を始める。
六十六はこの時点でかなり後悔していたが、もう止める事は出来ずに機体は加速を続ける。次の瞬間、ふわりと浮いた様な感触を六十六が感じると、二人の乗る機体は空へと飛び立った。
飛び立ってしばらくした頃、六十六は南雲にどんな事で呼ばれたのかを問いただした。
六十六「さて、お前はわかってるだろ?さっさと教えろ」
南雲「まぁそう急かすな。今回お前をわざわざ読んだのは、陸戦隊からだ」
六十六「杉田君が陸戦隊所属だから薄々勘付いていたが、やはり本当か」
南雲「ああ、そしてこの一件は、お前やお前の曽祖父に関係することだ」
六十六「五十六ひい爺様がか?それって一体?」
南雲「・・・大東亜戦争での都市伝説のこと、お前は聞いた事があるか?」
六十六「ひい爺様から色々聞いた事はあるな、天狗が戦闘機乗りを助けに来たりとか。・・・まさかとは思うがそれ関係の話か?」
南雲「ああ、そのまさか!」
六十六「そんなくだらん事のためだけに、陸戦隊はわざわざ呼びつけに来たのか?」
南雲「まぁそう焦るな、今回の話はちゃんと裏付ける証拠があるからよっ」
六十六「で?それって何だ?」
南雲「「幽霊空母伝説」って知ってるか?」
六十六「いや、聞いた事ないな」
南雲「俺も最近になって知ったんだけどな、「大東亜戦争中の1944年に正体不明の艦載機群が突然現れて米軍の艦隊を次から次へと襲って言った」って言う話だ」
六十六「馬鹿馬鹿しいな」
南雲「ああ、俺も最初はそう思っていた。だけど改めて当時の戦闘記録を無理言って漁ってみたら、これが不思議と大当たりしているんだ」
六十六「機体数は何機ぐらいだ?」
南雲「大体は二、三十ぐらいでやって来たらしい。だから潜特型じゃ絶対有り得ない」
六十六「小型の空母が船団護衛ついでに攻撃していたとかは無いのか?」
南雲「それがこの記録のある場所は、大体が太平洋沖海戦があった場所で、付近に船団護衛してる空母はいなかったんだ」
六十六「じゃあ、その正体は一体?」
南雲「それを今から確かめに行くんだ。お前の息子の「ゆきかぜ」に乗って、パラオまでな」
六十六「・・・まぁ分かった。とりあえずはお前の言う事には従う、だが嘘だったらどうする?」
南雲「俺たちの首が飛ぶ」
六十六「は?」
南雲「いやぁ悪い。実はな、俺も陸戦隊の要請に従って一航戦をフィリッピンに待機させちまってな、もしこれが嘘なら俺たちの信用はガタ落ちってことになる」
六十六「おい!そう言う事は早く言え!」
南雲「まぁそう言うな、隠居って事にすりゃあ政府から支援金が支給されるからよっ」
六十六「馬鹿野郎!今がここだから良いが、会議中に言ったら真っ先に飛ばされるぞ!」
南雲「冗談だ。心配すんな」
六十六「お前だからだ!全く、こうなったらとことん付き合ってやる!」
南雲「その言葉忘れんなよ!」
二人は笑い合いながらも、会議を進めていくのであった。




