第一話
2018年8月16日 横須賀
ここにある海軍基地からほど近い大きな家である男がとある場所からかけられた電話に返事を返していた、男の名は山本六十六、日本国の海軍長官を務める男だ。
電話の相手は彼の親友である南雲真一、日本海軍の精鋭「第一航空機動部隊」の司令を務める男である。
いつもは賭け事の誘いに関することばかり話していふ彼らだが、今日はどこか様子が違う。六十六も最初はすぐに切るつもりで受話器をとったつもりだったが、ただならない南雲の様子にその考えをすぐ改めた。
六十六「お前からかけてくるとはまた随分珍しいな南雲。何かあったのか?」
南雲「やはりお前にはお見通しか・・・」
六十六「お前とは長いからな」
南雲「そうだったな。それよりも六十六、俺から親友として少し頼みがある」
六十六「なんだ?その頼みとやらは、くだらん博打じゃ俺は満足せんぞ」
南雲「そんなことでわざわざ俺が電話するか?まぁいい。今回の頼みのはお前んとこの陸戦隊どもからだ」
六十六「海軍陸戦隊か?悪いがあそことはもう何も繋がりはないぞ。それに権利問題でこっちはウンザリしてる。相談なら他でやれ」
南雲「確かにそうだが、今回だけは勘弁してくれ。何よりお前の方からコネを回したくて相談してるんだ」
六十六「コネ?どうしてわざわざ?」
南雲「今回の件には俺たち海軍も一枚岩噛んでいるところがあってな、ここじゃ言えない」
六十六「で?俺にどうして欲しい?」
南雲「お前のコネで、艦隊を派遣させて欲しい」
六十六「どの艦隊だ?」
南雲「第一遊撃機動艦隊だ」
その時、六十六は余りに唐突でつい受話器を落としそうになった。
第一遊撃機動艦隊は汎用駆逐艦を中心とした艦隊で彼の息子が指揮する艦隊だからだ。
六十六「どうしてわざわざそこなんだ?艦隊なら他にもいくらでもいるぞ」
南雲「お前の息子の方がまだ扱いやすいからさ、それに最近事務続きで会えてないだろう?」
六十六「それはそうだが・・・」
南雲「なっ。良い機会だろう?」
六十六「ああ、わかったわかった。それでいつ出発する?」
南雲「今すぐだ、場所は横須賀でそこで例の“アレ”でフィリッピンまでだ、そこからは息子に送ってもらう」
六十六「例の“アレ”?」
南雲「それはついてから話す」
そう言うと南雲は電話を切った。南雲のせっかちさに呆れながらも、六十六は準備を始める。その時後ろから
「あなた?」
と美しい声が聞こえた。六十六が振り返ると、彼の妻であるそこには山本トキが立っていた。
六十六「トキか、一体どうしたんだ?」
トキ「いや、今日はやけにお急ぎの様なので・・・」
六十六「ああ、海軍の南雲から急ぎの用事がな」
トキ「そう、いつもはこんなこと少ないのに・・・」
六十六「まぁ、そんな時もあるさ」
トキ「ねぇ、あなた?」
六十六「何だ?」
トキ「私に隠し事は無しですよ」
六十六「どうしてそんなことを・・・」
トキ「もしかしたら、ひいお祖父様の事じゃないかなと・・・」
トキがいったひいお祖父様とは、六十六の祖父である山本義正の父でかつての連合艦隊司令長官である海軍大将山本五十六のことであり、彼が幼い頃に戦傷によって亡くなったが、六十六にとっては海軍への道を志すきっかけとなった人物である。
六十六「いや、決してひいじいさんのことで呼ばれてはないよ、南雲からの誘いさ」
トキ「だと良いんだけど」
六十六「まぁ、とにもかくにもだ、そう言った事情が私にはあるから急がないといけないんだ、じいさんのことは帰ってからじっくり聞くよ」
トキ「わかった、必ずですよ」
六十六「ああ」
六十六がそう返すとトキは静かな笑顔で六十六を送り出した。
六十六が屋敷から出ると、海軍の制服に身を包んだ青年が立っていた。青年は名前を「杉田」と名乗ると、六十六を自身の車に乗らせた。
杉田「乱暴をお許しいただきたい」
六十六「いや構わん、でも君は教えてくれるのだろう?」
杉田「細かい事はお気になさらず」
六十六「分かった。で?これからどこに?」
杉田「南雲司令によれば「分かりやすい場所」との事です」
六十六「了解した。楽しみにしておくよ」
杉田「分かってもらえて光栄の限り・・・」
杉田はそう言うと、颯爽と車を走らせる。六十六は景色を眺めながめつつも、南雲に投げかける言葉を考えるのだった。