8/14
家臣たちの驚嘆
小田原城に戻った氏直を待っていたのは、家臣たちの驚きと敬意の視線だった。松田康長が膝をつき、声を震わせて言った。
「殿、この勝利……まるで戦の神が降りたかのようだ。これまで見たこともない戦い方だった」
氏直は兜を脱ぎ、穏やかに応えた。
「神ではない。ただ、敵の弱点を見抜いただけだ。だが、これで終わりじゃない。次に備えろ」
勝利の余韻に浸る間もなく、新たな急報が届く。
「殿、韮山城が陥落しました! 北条氏堯様が守っておられたが、秀吉の別働隊に攻められ、持ちこたえきれず……」
広間に重い沈黙が落ちる。韮山城は伊豆を守る要衝であり、その落城は小田原の南東が開かれたことを意味する。氏直は目を閉じ、一呼吸置いて立ち上がった。
「予想していたことだ。秀吉の軍勢はまだ勢いを失っていない。だが、ここからが本当の戦いだ。準備を急げ」