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プロローグ
東京のとある大学の研究室。薄暗い室内に響くのは、パソコンのキーボードを叩く音と、古い文献をめくる紙の擦れる音だけだった。宮崎悠真、32歳。城郭研究者として名を馳せつつある若手学者だ。眼鏡の奥の目は疲れ切っていたが、その瞳には情熱が宿っていた。
「北条氏の小田原城……この縄張りの複雑さ、無駄のない防御線の配置。戦国時代でもトップクラスの設計だ。もし現代の技術と知識で再構築できたら……」
悠真は幼い頃から城に魅せられていた。歴史書を読み漁り、全国の城跡を訪ね歩き、大学では建築学と歴史学を掛け合わせて研究を続けてきた。特に北条氏の城郭技術に心酔し、彼らの滅亡を「惜しい歴史のif」と感じていた。
その夜、研究室で徹夜を続けていた悠真は、机に伏したまま意識を失った。原因は過労だったが、彼自身は気づかなかった。目の前にある小田原城の縄張り図が、まるで現実のように広がっていく感覚。そして、次に目を開けたとき――そこは見慣れた研究室ではなかった。