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3. 秘密と変人

 放課後の学校に残る生徒の9割は、友達と青春を謳歌する陽キャたちだ。けれど、僕はその1割の中で、自発的に残っているわけではない人間だ。

 廊下の窓から賑やかな校庭を眺めながら、聞こえてくるのが人の声なのか幽霊の声なのか分からない雑音が混ざり合う中で、こうした青春を感じさせる場所は自分には無縁だろうなと、ふと感慨にふけった。


「あず、何か部活に入ってるの?」

「帰宅部」

「アニメで放課後すぐ帰る人みたいな感じ?」

「うん」


 部活に入ろうかと思ったこともあったけど、他の人と関わるときにうっかりカラコンが外れて、この変わった目がバレるのが怖くて、結局帰宅部を選んだ。

 それより、ちょっと驚いたのは、遥がさっきの言葉からアニメを見ているらしいことだ。元々、彼女はそんな二次元のものを見ないような人に見えていたから、まさか彼女も見ているとは思わなかった。



 校庭の横にある階段。

 色んな場所を歩き回った僕たちは、今ここで陸上部の練習を眺めている。


「部活に入ることを考えたことある?」

「あるけど、最悪の事態が起こるかもしれないと思うと、やっぱりやめとく」

「その猫みたいな目が見られちゃうのが心配なの?」

「な、なんで知ってるんだ!?」


 家以外の場所でカラコンを外したことなんてなかったはずなのに、どうして今日転校してきた、しかも今まで見たこともない彼女が僕の目の本当の姿を知っているんだ?

 もし彼女が言いふらしたら、また化け物を見るような目で見られることになってしまう……!そんな、化け物だと言われたり、いじめられたりする日々にはもう戻りたくないんだ……!


「安心して、これはあなたの秘密だって分かってるから、誰にも言わないよ。もし言ったら、次の日には車にひかれて死んじゃうから」

「そこまで自分の命を賭けて誓う必要はないけど……君はどこでそれを知ったの?」

「目の本当の姿はあなたの秘密だけど、どうしてあなたの目の本当の姿を知っているのかは私の秘密だよ」


 遥は両手で頬を支えながら、微笑んで言った。


 絶対に言わないって保証してくれても、安心できない。

 もしうっかり口を滑らせたら、絶対に面倒なことになっちゃう。


「たとえ世界中の誰かが君との約束を破ることがあっても、私だけは絶対守るから」


 遥がそんなことを言ってくれたなら……まぁ、とにかくこれからは怒らせないように気をつけて、できるだけ要望を満たさないと、この秘密がバレるかもしれない。

 これからもしかしたら遥の子分になるかもしれないと思うと、なんだか疲れそう……


「もう遅いし、帰ろっか?」


 やっと帰れる……


「なんか、やっと解放されたって顔してない?」


 バレたか。

 それでも、何もなかったフリをしないと。怒らせたら、その秘密を守ってもらえなくなるかもしれないしな。


「え?見間違いじゃないか?」


 遥はまるで拗ねているかのように唇を尖らせて顔をそむけた。その瞬間、緊張して冷や汗がじわりとにじみ出てきた。


「そっか、やっぱりあずはそんなに私と一緒にいたくないんだ」

「ち、違うんだ!誤解しないでくれ!そんな風に思ったことなんて一度もないよ!ただ、ただ単に人と長く一緒にいるのが久しぶりで、ちょっと慣れてなくて疲れただけで……」

「フッ――冗談だよ。緊張しちゃった?」


 こいつ、本当に面倒くさいなぁ――そう思ってはいるけど、口には出せない。


 遥の性格は気まぐれで、隣の席の僕としては、これからの学校生活も苦労しそうだな。


「私の前では、もう少しリラックスしてもいいんだよ。私はあなたを傷つけないし、裏切りもしない。それに、秘密を脅しの材料になんてしないから、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ」

「……時々、本当に君が何を考えてるのか分からない」

「女心はとってもミステリアスなんだよ?今、私が何を考えてるか当ててみる?」

「……退屈しのぎのおもちゃで見つけた、って感じ?」

「ふふ、違うよ」

「じゃあ、答えは何なの?」


 僕は諦めて相槌を打った。どうせ答えなんて全然予想できないし、何より今の彼女の考えには、まったく興味がなかったから。

 遥は指を唇の辺りに当て、何かを考えているように見せかけたが、すぐに頭を傾げて悪戯っぽい笑みを浮かべて僕をじっと見つめてきた。


「どうかな」


 ……この人が何を考えているのかマジで全然分からない。



「あのー、もしかしてずっと僕についてきてるの?」


 学校を出てから、遥はずっと僕の後ろをついてきている。

 細い路地に入ってみても、わざと遠回りしてみても、彼女は影のようにぴったりとついてくる。我慢の限界に達した僕は、とうとう振り返って問いかけた。


「そうだよ」


 遥は隠す気なんてまったくなく、素直にあっさりと認めた。


「えっと、なんで?」

「どこに住んでるか分かれば、週休に遊びに行ける」


 僕の意思なんて聞いてないのに、なんで勝手に僕が承諾するって思い込んでるんだ?


 断るのが苦手だから、了承するかもしれない。でも、こんな美少女といつも一緒にいたら、周りの人に『分不相応に美少女に近づく陰キャ』って思われそうで心配だ。


「それに、私の家の方向もこの道を通るみたい」


 遥は僕にGPS地図を見せてきた。

 彼女が言った通り、彼女もこの道を通るみたい。

 スマホに付けられた、あるVTuberのファンキャラクターのチャームに気づいた。

 僕もそのVtuberのファンなんだ。そのVtuberは歌がとても上手で、声も癒し系だし、配信もすごく面白い。落ち込んでいるときに配信を見ると、すぐに癒されちゃうんだ。


「そういえば、私たちまだ連絡先を交換していなかったね」


 すると、連絡先を交換した。親と姉を除けば、遥は僕が唯一追加した連絡先の人だった。携帯を持ってから今まで、登録している連絡先はたったの4人。そのうち3人は家族だ。

 連絡先を交換した遥は、なぜか嬉しそうな表情を浮かべている。


「あの、もう家に着いた」

「うん、バイバイ!」


 遥が楽しそうに歌を口ずさみながら去っていく後ろ姿を見ていると、なんだか心配になってしまった。夕暮れ時に女の子を一人で帰らせるのは、やっぱり危険な気がする。


「あの、もしよければ、僕が送っていく」


 他の人に見られて誤解されるのは怖かったけれど、それでも思い切って提案してしまった。

 しかし、遥は立ち止まって、隣の家を指差した。


「私も家に着いたよ」

「え?き、君、僕の隣に住んでるのか!?」

「ここ元々私の家だもん」

「でも僕の記憶では、あの家の住人って一人暮らしの男性じゃなかったっけ?」


 その家は確か男の人が住んでいたと思うし、父さんか母さんから、彼がよく海外に行っていると聞いたことがある。いつも家に引きこもっているから、近所の様子はあまり分からない。


「それは私のお父さんだよ。この家は数年前に買ったんだけど、いろいろあって昨日から私がやっと住み始めたの。普段はお父さんがここに住んでる」

「そっか……」

「どうやら運命が私たちを結びつけてしまったみたいだね」


 勘弁してくれよ。もし遥に憧れてる人たちに知られたら、嫉妬されるし、面倒なことになりそうだ。でも、隣に美少女が住んでるからって、家族に引っ越してくれって頼むわけにはいかないしなぁ……

 遥が家の中に入っていくのを見送りながら、運命の流れを受け入れるしかなかった。

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