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2. お互いの呼び方

 放課後。


 休み時間や昼休みに、何人かが放課後に寺西さんを遊びに誘ったり学校を案内しようとしたけれど、彼女はすでにデートの予定があるという理由で断っていた。幸い、寺西さんは誰とデートするかは言わなかったので、僕が変な目で見られることもなかった。


 今、寺西さんは席で他の女の子と話していた。その中には雨宮さんもいたが、他の人の名前は覚えていない。全く接点がないから。

 よし、見つかってない今のうちに、近くのコンビニでマスクとサングラスを買いに行こう。じゃないと、あとで寺西さんと一緒にいるところを誰かに見られたら厄介だからな。


「あ、待ってくれ」


 そっと立ち上がったその瞬間、隣の席の寺西さんに気づかれてしまった。

 ヤバッ。

 これで他の人も僕に気づいちまった。下手したら、寺西さんの『デート』相手だってバレるかもしれない。


「寺西さんがさっき言っていた予定は、吉川さんとのことですか?」


 結局、やっぱり雨宮さんに見抜かれてしまった。

 どうすればいいんだ……美少女と関わって目立ちたくないのに……


「雨宮さん、僕の名前を覚えていてくれた?」


 寺西さんが答える前に、急いで話題を切り替えた。


「もちろんです、もう1学期も経っていますから。同じクラスの人の名前を覚えるのは普通じゃないですか?」

「えっと、普段は誰も僕のことを覚えていないから、ちょっと意外なだけなんです……」


寺西さんは立ち上がった。


「じゃあ、私たち先に行くね。また明日!」

「うん、バイバイ」


 明日、一体どんな噂が流れるんだろう……美少女と変な奴がデートしてるなんて、考えるだけで気が重くなる。でも、もう他の人に知られちゃったし、簡単には面倒から逃げられないな。


 廊下で、寺西さんはずっと僕の後ろをついてきて、何も言わなかった。

 振り返ってみると、彼女は頬を膨らませていて、とても不機嫌そうに見えた。


「えーっと、どうしたんですか?」

「まだあなたの名前、知らないんだけど」


 だから、これが寺西さんが不機嫌な理由なの?普通、名前を教えないことで不機嫌になる人なんているのか?


「吉川あずや」

「じゃあ、あずって呼んでもいい?」

「は?」


 初めて会った人に、こんなに親しげに呼ばれるのはちょっと変な感じだ。もし誰かに聞かれたら、関係がすごく良いと思われるだろうな……それに嫉妬されて、ひょっとしたら裏山に埋められるかもしれない。


「その……僕たちの関係、そこまで良くないですよね?」

「それなら、これから仲良くなりましょう!」

「そういう意味じゃないんだけど……」

「私と仲良くなりたくないの?」

「えーと……別にそういうわけじゃないです」

「じゃあ、まずは呼び方から仲良くなりましょう?あず」


 気がつくと、いつの間にか寺西さんのペースに巻き込まれていた。

 僕だって友達を作りたいけど、この猫みたいな目と霊能力がバレたら、きっと距離を置かれるだろう。どうせ最初から傷つくのが決まってるなら、他人と仲良くなる必要なんてない――そう思ってたんだけど、どうやら断る余地はないみたいだな。

 寺西さんが嬉しそうな顔をしているのを見て、僕は思わずため息をついた。仕方ない、寺西さんの好きにさせよう。


「寺西さん、そのデートって実は何かお願いしたいことがあるとかじゃないですか?」

「ん?違うよ。私が言ってるデートは本当のデートで、頼み事の口実じゃないからね」

「え?」

「それと、私に敬語を使わないでも大丈夫だよ。名前で呼んでくれればいいから」

「じゃあ……遥さん?」

「さんはいらない」

「……遥」

「はい!」


 まったく、彼女にはどうしようもないな……まぁ、別に嫌ってわけじゃないけど。


「初めてのデート、どこに行きたい?」

「……帰りたい」

「ねぇぇぇぇ」


 行きたいところを聞いてるんじゃなかったのか?

 僕は今、家に帰って最近追ってるアニメを楽しむ以外、他にはあまり行きたくないんだ。でも、遥に約束した以上、しょうがないか。


「じゃあ、行きたい場所とかある?」


 どこに行くかは別に僕にとってはどうでもいいんだ。少し過剰に熱心な美少女に付き合って時間を潰しているだけだし、つまらないって思われたら、明日には平和な一人ぼっちの学校生活に戻れるかもな……そう思ってるはずなのに、なんだか少しだけ寂しい気もする。

 中学に入ってからこんなに積極的に近づいてくれる人なんて初めてだし、ここで諦めるのもなんだかもったいない気がする。あの普通の日常には慣れてるはずなのに、どうして今になってこんな気持ちになるんだろう?


「うーん……学校を案内してくれるのはどう?」

「うん。てか、ちょっと距離近くない?」


 何度もわざと歩調を早めて、遥との距離を保とうとしたけれど、いつの間にか僕のそばにいて、しかもとても近くて、ほとんどくっついてしまいそうだった。

 廊下を時折感じる視線は、まるで『どうして美少女が目立たないオタクみたいな人と話しているんだ?しかも距離がそんなに近いなんて』と言っているようだった。

 このままだと、何か噂が流れるんじゃないか……


「私はただあなたに近づきたいだけなの」


 突然の甘えが心に直撃して、思わずドキリとした。

 僕は甘えられるのが一番苦手なんだ……今まで甘えてきたのは家で飼ってる犬だけだけど。

 それでも、僕は決して動揺した姿を見せてはいけない。そうしないと、ますますつけあがられてしまう。


「他の男の子に嫉妬されて、裏山に埋められるのは勘弁してほしい」

「心配するなら、やめておこうか」


 遥は不本意そうに頬を膨らませた。それでも、足を緩めて、僕と遠すぎず近すぎない距離を保っている。

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