14. 美少女の初めての料理
次の日の昼休み。
姉さんは友達と約束があるらしく、仕方なく今日は僕と一緒にご飯を食べるのを諦めた。そして遥は、他の人からの誘いを断るのも意外ではなく、むしろ当然のように僕と一緒にご飯を食べようとしている。
今日は遥がお弁当を2つを持ってきた。確か彼女は割と少食だったはず。こんなにたくさん持ってきて本当に食べきれるのかな?
「これ、初めて自分で作ったお弁当なの。気に入ってくれるといいな」
ところが、そのうちの1つのお弁当は僕のためだった。
人生で初めて美少女が手作りのお弁当をくれるなんて……思わず夢なんじゃないかと疑いたくなる。
でも、僕って太りやすい体質だから、普段の食事量は普通の男子高校生よりちょっと少ない。でもこれで弁当を2つも食べたら、絶対体重増えるじゃん――あの期待に満ちた目を見てしまったら、断るわけにもいかず、仕方なく受け取った。
お弁当の蓋を開けた瞬間――中に封じ込められていた、恐ろしい死の気配が一気に溢れ出した。お弁当の中には、大半が何か形の分からないもので、さらに黒いものまで混じっている。その見た目だけで、これは食べ物だなんて到底思えなかった。なにこれ?呪物?
僕は眉をひそめながら、食べても大丈夫そうなものがないかと探した。しかし、ご飯以外、どの副菜も安全に食べられるように見えるものは1つもなかった。
遥の期待と少し不安が混じった表情を前に、僕は運命を受け入れて、その黒い塊の1つを箸でつまんだ。
落ち着け、見た目が悪いだけで、味は普通かもしれないだろう……
自分を必死に説得しながらも、やはり不安な気持ちでゆっくりとその黒い塊を口に運んだ。
口の中でまるで爆弾が爆発したかのように、超強烈な黒胡椒と焦げたような、ふわふわした味が広がった。思わず咳き込んで、水筒を慌てて手に取って一気に水を流し込む。
「ごめんね……やっぱりダメか……」
遥はうつむきながら、まるで子供が悪いことをしてしまったときのような申し訳なさそうな顔を浮かべていた。
そんな彼女を見ていると、さすがにツッコむ気にはなれなかった。初めての料理なら失敗するのも無理はないし、せっかく美少女がお弁当を作ってくれたのに、文句を言うなんて失礼すぎる。
「料理の美味しさって、味じゃなくて作った人がどれだけ心を込めて頑張ったかにかかってると思うんだ。その気持ちだけで、もう十分美味しいよ。弁当を作ってくれてありがとう」
「……慰めてくれてるのは分かってるけど、それでも嬉しいよ。決めた!これからのしばらくは、味もちゃんと美味しくなるようにお弁当を作るから、試食係になって私がどれだけ上達したか見届けてくれる?」
せっかく慰めてやったのに、なんで仕返しされるんだよ?こんな弁当をしょっちゅう食ってたら、いずれ毒で死ぬか、毒耐性がついちゃうんじゃないか?
遥に自分の料理がどれだけ危険かを気づかせるため、謎の黒いものを一つつまんで、弁当箱の蓋にのせて渡した。
「それをやる前に、まずは自分の料理を食べてみたらどうだ?」
「分かったわ」
遥は自分の料理がどれほどヤバいか全く気づいていないらしく、むしろ何故か自信満々。
もし彼女が本気で自分の作った料理を美味しいと思っているのなら、僕たちのどちらかが味覚障害にでもなっているのだろう。
しかし、その自信も長くは続かなかった。その謎の黒いものを口に運んだ瞬間、表情はまるで梅干しを口いっぱいに詰め込んだかのように苦々しく歪む。そして、すぐに僕に背を向けて激しく咳き込んだ。
「どう?」
「……分かったよ、もう二度と料理なんて作らない……自分で作ったものがこんなにまずいなんて、思いもしなかった……」
「えっと、別に君を落ち込ませたいわけじゃないんだけどさ。ただ、料理が得意な人に教わるのもいいんじゃないかなって思って。闇雲にやるより、誰かに習った方がきっと上達も早いと思う」
そもそも、誰も彼女を見てくれたり教えてくれたりしないとしたら、僕がこういう、もしかしたら毒入りかもしれない弁当を食べさせられる回数が増えるんじゃないかって心配なんだ。
あまり食べたいとは思えないけど、遥が頑張って作ったものだと思うと、結局はちゃんと食べ切るんだろうな。
「分かった!いつか絶対にあずに褒められる料理を作ってみせるんだからな!」
「自分で美味しいって思えるならそれで十分だし、僕の意見なんて気にしなくていいよ」
「あずの意見は私にとって一番の励みなんだから」
「まさか、君も人の意見を気にするんだな……」
「私が気にするのは、あずの意見だけだよ」
「えっ?」
それってどういう意味だ?もしかして、わざと僕に勘違いさせて、それをネタにからかおうっていうのか?もしそうなら、絶対にその罠にはまるわけにはいかない。
「……そうなんだ」
「せめてちょっとは恥ずかしがってよ……こんなの不公平だよ、私だけが恥ずかしいなんて……」
その恥ずかしそうな反応と、白くて美しい顔に浮かんだ微かな赤みを見て、思わず冗談じゃないと感じた。
えっと、僕、どう返事すればいいんだ?
「……じゃあ、今ちょっと恥ずかしがってみる?」
「バカ……ただの冗談だよ」
やっぱり冗談か。
まったく、もう少しで勘違いするところだった。
遥は自分の弁当を開けた。僕がその一瞬の隙に視線を向けると、思わず目を見開いた。その中には、僕が予想していた呪物のようなものではなく、むしろめっちゃ美味しそうに見える料理が並んでいた。
「おい、なんで君のその弁当の方が普通に見えるんだ?」
「これはお母さんが作ったんだよ」
「くそっ、なんかちょっと羨ましい……」
「もし私が作ったお弁当が美味しくないって思うなら、交換する?
「……まぁいいよ、だってこれは君が頑張って作ったんだろ?ちゃんと食べるから」
呪物のような弁当と、見た目が美味しそうな弁当の二択なら、誰でも迷わず後者を選ぶだろう。だが、遥の努力を無駄にしないために、仕方なく無理して食べ続けるしかなかった。
その時、前から感じた視線に、なんだか居心地の悪さを覚えた。
「あのー、なんでそんなにニコニコしながら僕ずっと見てんだ?」
「ただ、あずって本当に優しいなって思って。その優しさ、ずっと独り占めしたいなぁ」
「えっ?どういうこと?」
なんで遥が急に勘違いされそうなこと言うんだ?また僕をからかおうとしてるのか?
「別に。さあ、早く食べなよ。じゃないと昼休み終わっちゃうよ」
遥は僕の疑問には答えず、黙って弁当を食べ始めた。それを見て、僕はその言葉が冗談だと受け止めるしかなかった。




