13. オカルト研究会
雨宮さんとの約束だから、たとえ気乗りしなくても、放課後に彼女についていくことになった。
向かった先は体育用具倉庫の近くにある、目立たない倉庫。
彼女の説明によると、ここがオカルト研究会の部室だという。こんな人目につかない辺鄙な場所、普段はほとんど誰も通らないだろうな。
ドアを開けると、中にはローテーブルの前に誰かが座っているのが目に入った。
「あっ」
雨宮さんはその人の背中を目にした途端、無意識に表情を硬くなってしてしまった。
その人は音に反応して振り返った。
久しぶりに会ったが、その爽やかなショートヘアと、まるでロリのように可愛らしい顔を見た瞬間、すぐに誰だか分かった。
「白野会長?」
彼女は姉さんがブラコンを発揮するたびに唯一止めることができる人物であり、風嶺高等学院生徒会の会長、白野琴音。
「あずやくん?本当に久しぶりね。君の姉さんからよく話は聞いてるけど。っていうか、何度も言ったよね?姉ちゃんって呼んでいいのよ」
「えっと、それは無理かも。姉さんが嫉妬して暴走しそうだし……」
「大丈夫、大丈夫。私がちゃんと止めるから」
この人は僕が尊敬している人だけど、年下に姉ちゃんって呼ばせたがるんだ。会うことはあんまりないけど、すごく馴れ馴れしくて、いつも僕たちが仲良しみたいに振る舞ってる。
「あなたたちは仲がいいの?」
遥は僕の耳元で小さな声で尋ねてきた。
「そんなに仲が良いってわけじゃないと思う。白野会長はうちの姉さんと知り合いで、よくうちに遊びに来るから、何回か見たことはあるけど」
なぜか、遥はその言葉を聞いてほっと息をついた。
呆然としていた雨宮さんは、話が終わるまでぼーっとしていた。ようやく我に返ると、ぎこちない笑顔を浮かべながら倉庫に足を踏み入れた。
「あの、会長がどうして来たんですか?」
「あ、そうだ。今日はオカルト研究会の処置について伝えに来たんだ。夏休み前に部員が2人辞めちゃって、人数が足りなくなってるんだよね?だから、早く新しい部員を見つけないと廃部になって、この倉庫も他の使い道ができちゃうよ」
なるほど、雨宮さんが突然僕に声をかけてきてオカルト研究会に入ってほしい理由はそういうことか。
でも、事情の理由が分かっても、僕の考えは変わらない。僕は絶対に霊的なことに関する部活には入らない。
「はい、分かりました」
白野会長は僕たちを一瞥し、何か深い意味がありそうな視線を送った後、頷いて、爽やかで頼りがいのある笑顔を見せた。
「じゃあ、頑張ってね。何か困ったことがあったら、いつでも生徒会室に相談しに来ていいから」
そう言って白野会長は立ち上がった。
去り際に「お姉さんが邪魔しに来る心配はしなくていいよ、私がちゃんと止めるから」と言い残して倉庫を後にした。
今自分が何をしているのか姉さんに報告する習慣を叩き込まれたけれど、今回は私事を片付けているという口実でわざと隠している。とはいえ、姉さんがこっそり僕のスマホに盗聴アプリや位置情報の追跡アプリを仕込んでいる可能性もあるから油断はできない。
もし姉さんに僕が2人の女の子と一緒にいることがバレたら、間違いなく強引に連れ戻されるだろうし、最悪、遥や雨宮さんにも迷惑をかけるかもしれない。
でも、頼りになる白野会長がしっかり保証してくれたおかげで、少しだけ安心できた。
「さあ、お二人ともいつまでも入口に立っていないで、お入りください」
足を踏み入れると、薄暗い中の様子が視界に広がった。
天井から吊るされた古びたシャンデリアが、薄暗く揺らめく光を放っている。床の中央には低い丸いテーブルが置かれ、その下には深い青色の柔らかなラグが広がっていた。壁際には3つの本棚が並び、びっしりと詰まった本の背表紙には、どこか不気味な雰囲気が漂っている。それらはきっと、超常現象に関するものだろう。
もともとはおそらく廃倉庫だったであろう場所が、整然としながらも薄暗く不気味な空間に仕上げられている。そのためにどれほどの労力が伺える。
「すみません、この部活の現状を見られちゃって」
「大丈夫ですよ。でも、ここ本当に綺麗ですね。雨宮さんが一人で全部整えてるの?」
「うん。だって、私は綺麗好きだから。それと、ちなみに私もオカルト研究会の会長なんですよ」
この薄暗い光の中で、かすかに猫と犬の幽霊が雨宮さんの前で遊んでいるのを見かけた。
僕がそれらの存在に気づいていることに気づかれないよう、素早く視線をそらした。
「お茶を入れますね。ご自由に見ていてください」
雨宮さんが離れた後、猫の幽霊が遥の足元に寄ってきた。くんくんと匂いを嗅ぎ、続けざまに頭を擦りつけて甘えるような仕草を見せている。幽霊には嗅覚なんてないはずだけど、たぶんそれが猫の習性なんだろう。
それにしても、遥は人間だけじゃなく、動物の幽霊にまで好かれるなんて、本当に魅力があるんだな。
そういえば、今朝のあの件、まだ何がどうなっていたのか分からないままだった。今のうちに聞いておこう。
「あの、雨宮さん。今朝、僕に何か言いましたか?」
聞こえてはいたものの、実はその時起きていたことがバレないように、聞き取れなかったフリをすることにした。
「ああ、私がお礼を言ったことですね。前日のお昼休みに寝ていた時、突然自分の体が支配されるような感覚があったんです。意識が消えそうな時に、暖かい光が現れて守ってくれたおかげで、外のことを感じ取ることができたんです」
つまり、藤原樹の善意のある魂の部分が怨霊と1つになった後、彼女の沈みかけた意識を守ったってことか。
霊能力があるなんて知らない人が、あの時僕が怨霊に言った妙なことを見たら、きっと変に思っただろう。
「たぶん、その時私は幽霊に憑依されていたんだと思います。でも、吉川さんが私の体を占めていた幽霊を説得してくれたんです。だから、本当に感謝しています。そういえば、吉川さんって本当に幽霊が見えるんですか?その時言ったことが、まるで私が幽霊に憑依されていることを知っているみたいに感じました」
これはまずいな、どう説明すればいいんだ?雨宮さんはまだ僕が霊能力を持っている確かな証拠は持っていないはず。とにかく、彼女の疑いを晴らさないと。
「実は、雨宮さんが藤原先生を訪ねた件を手がかりに、私たちがあなたが憑依されていると推測したんです。雨宮さんを助けられて本当に良かったですよね、あずやくん?」
「……うんうん、そういうこと!」
遥……まさか、僕のためにカバーしてくれた……
予想外だったけど、僕はそのまま嘘をついた。
「そうなんですね……」
なぜか、雨宮さんは少し落ち込んでいるように見えた。
ほどなくして、麦茶を持ってきてくれた。
席につくと、早速本題に入り始めた。
「それでは、まずはオカルト研究会の紹介をさせていただきますね。ここは、主に超自然的なものを研究して、その成果をSNSに投稿する活動をしています。たまには関する動画を撮ってアップしたりもします。ほら、これがこの部活のSNSアカウント」
雨宮さんはこの部活のSNSアカウントを教えてくれた。適当にいくつかの投稿を見てみると、内容のほとんどが超自然とは全く関係なく、雨宮さんの日常に関するものばかりだった。例えば、今日は何を食べたか、今日あった面白い出来事、さらにはどうやっておしゃれをするかのレクチャーまで載っている。
おいおい、これってオカルト研究会のアカウントなのか、それとも雨宮アイナの個人アカウントなのか?
「えっと、でも内容が超自然とは関係ないみたいですけど……」
ちょっと羨ましいな、遥が相手を気まずくさせることを恐れずに質問できる勇気を持っているのって。
「ああ、実は部員が足りなくて活動が難しい状態で、アカウントをそのまま放置しておくのも良くないかなと思って、気がついたらこんな感じになってしまいました……」
このままここにいると、思わずツッコんじゃいそうな気がする。帰りたいなぁ……
「今聞いてもらったように、この部活はあと少しで廃部になっちゃうんです。だから、もしよければ加入してほしいんです。どうしても無理なら、まだ部活に入っていない人を知っていたら教えてください!」
幸いにも、断る選択肢がまったくないわけじゃないんだな。
どうせ興味もないし、加入するつもりもないから、断ろうと思ってる。
失礼にならないようにどう断るか考えていると、遥がふとこちらを見た。その笑顔は、普段他の人に向ける礼儀正しいものとはどこか違っていて……ほんの少しだけ不気味に感じた。その瞬間、胸の奥で嫌な予感がざわめいた。
「あずやくん、一緒に入部しようよ、ね?」
「……すみません、興味ないですから」
「名前だけ残して、必要な時に顔を出してくれれば全然大丈夫です」
その2人が一緒にキラキラと輝く目で僕を見つめているのを見て、放課後に見学に来るって約束したことを後悔してしまった。
心の中で葛藤していたのはほんの少しだけだったが、結局自分の考えを貫けずにいた。
「はあ……名前だけ残すなら…」
「やった!今すぐ入部届を取りに行きます!」
まるで僕が後悔するのを恐れているかのように、雨宮さんはすぐに立ち上がった。その勢いで、膝が思い切りテーブルの下にぶつかり、ガタリと音を立てた。
「大丈夫か……?」
「平気平気!」
しかし、すぐに彼女の足のつま先が本棚の角にぶつかり、痛そうな様子だった。
そんな彼女を見て、仕方なく彼女に座って休むように言って、代わりに入部届を探すことにした。
まったく、僕は厄介事を司る神にでも祝福されたのか?じゃなきゃ最近こんなにいろんなトラブルに巻き込まれるわけないだろう。
こうして、2人の新入部員が加わり、オカルト研究会は今回の廃部の危機を乗り越えることができた。
次回は2024/12/25更新予定です。
(=ω=)




