11. 黄金色に染まる季節に隣の変人と友達になった
授業中、遥がまた教科書を忘れた。一緒に見せてほしそうな顔をしてたけど、僕はため息をついて教科書をそのまま渡した。どうせ普段から先生には僕のことを気づかれないし、机の上に教科書がなくても問題ない。
その後、遥は何度も色んな理由をつけて僕に近づこうとしたが、その度に僕はうまくかわしてきた。
新聞部のあの記事のせいで、今は普段以上に遥との距離に気をつけなければならない。過去をまだ乗り越えられていない僕には、他人の視線に立ち向かう勇気なんてない。だから、周りに誰かがいる時は、こうするしかないんだ。
でも、こんな風に対応していたら、遥はどんどん不機嫌そうな顔をするようになって、頬を膨らませる回数も増えていった。さらには、周りの人たちまで『どうしてそんなに不機嫌なの?』と尋ねるようになったけれど、幸い、彼女は原因を口にしなかった。
もしも話していたら、僕はきっと『寺西さんを不機嫌にさせた罪』で、遥を好きな連中から死刑宣告を受けていたかもしれない。
この間に積もり積もった不機嫌は、放課後にはほとんど肉眼で見えるほどに、怨霊よりも強力な暗いオーラへと変わり果てていた。その無意識に放たれたプレッシャーは、誰も近寄れないほど強烈だった。
先生が教室を出て行くと同時に、隣の遥がこちらに顔を向けて、礼儀正しいけれどなんか作り物じみた笑顔を浮かべてきた。
うん、どうやらこの後、厄介なことになりそうだ。
遥は携帯を取り出し、何かを入力した。すると、すぐに彼女からのメッセージが届いた。
『今度のデート、ゲーセンに行こうか?』
今日はわざと遠ざけたから、遥が僕を嫌ってデートをドタキャンするかと思っていた。けど、嫌われていないと分かって、思わずほっとした。
*
モグラたたきの前で、少女がハンマーを振り上げて「このっ!アホめ!」と叫びながら、穴から顔を出したモグラに全力の一撃――が、空振り。
全然当たらないことに苛立ちを募らせた少女は、まるでモグラを叩けなければ心が晴れないかのように、さらに激しくハンマーを振り下ろし続けた。
横で見守る僕は、冷や汗をかきながら、ふと胸に不安がよぎった。
まさか、全然叩けない苛立ちで、ターゲットを僕に切り替えてハンマーを振りかざす……なんてこと、ないよね?
時間切れ。
結果、遥は1匹もモグラを叩けなかった。初めての挑戦だとしても、さすがにこの結果はないだろう……
えっと、遥のこういう才能に驚いている場合じゃない。さっさと謝らないと、あのハンマーの次のターゲットが僕の頭に向きかねないからだ。
「あのー、今日ずっと避けてて、本当にごめん」
しかし、遥は険しい表情でハンマーを握りしめたまま、無言でこちらに歩み寄ってきた。
そのハンマーが振り上げられるのを見て、僕は目を閉じて覚悟を決める。僕が悪いのは分かっている。だから逃げるつもりはない。それに、もし避けたら怒りをさらに買って、僕の秘密をバラされるかもしれないからだ。
だが、予想していた痛みは襲ってこなかった。代わりに、何かが軽く僕の頭に触れる感覚がした。
目を開けてみると、遥はただハンマーで僕の頭を軽く叩いただけだった。
「分かってるよ、あなたがあの記事に出てた『azさん』が自分だってバレたくなくて、私と距離を置こうとしてるんでしょ?でも、私が怒ってるのは、そんなに他人の目を気にすることだよ」
「だって僕は化け物だから、君みたいな眩しい存在と一緒にいることなんてできないんだ……」
「バカ!あなたなんか全然化け物じゃない!他の人がどう思おうと、私にとってはあなたは普通の人間なんだから。もし誰かがあなたの悪口を言ったり、いじめたりしたら、絶対にその人を許さない。だから、安心して私と一緒にいてよ。もう、私を避けないで。いい?」
遥の顔には怒りの影はもう微塵もなく、寂しさを帯びた柔らかな笑みが浮かんでいた。
でも、やっぱり分からない。
こんな目立たなくて陰気で、それに変な目と霊能力を持ってる僕みたいな変人に、どうして遥は近づいてきて、受け入れてくれるんだ?
「はいはい、そんなネガティブなこと考えないで。あなたが避けてたせいで傷ついた私を癒してくれないとダメなんだからね?さて、一緒に思いっきり遊ぼう!」
疑問を口にする前に、遥はあたりを見渡し、次のゲームを探し始めた。
今口にしたら、雰囲気がさらに気まずくなりそうだな……まぁ、後で聞いたほうがいいか。今は遥に付き合って、僕のせいで傷ついた彼女の心をちゃんと癒すのが先だ。
幸い、わざわざ人目が少なくて普段あまり誰も来ないゲーセンを来たから、周りの目を気にする必要もないしな。
昔、家から出たくないって駄々をこねてた時に、姉さんに無理やり連れて来られたのがきっかけでこの店を知ったんだ。このゲーセンは長く営業しているらしく、置いてある筐体もどれも古びている。
そういえば、休みの日はほとんど外に出ないから、ゲーセンで遊ぶのも久しぶりだな。下手になってなきゃいいけど。
「これをやろうか?男の子って、こういうの好きだよね」
遥は前のバスケゲームを指さした。
「君、男の子を一括りにしすぎだよ」
「でも、青春アニメの男の子って、ゲーセンでこれをよくやってるじゃない?」
「これ青春アニメじゃないだろ」
ツッコんだものの、結局は付き合ってあげることにした。
正直なところ、僕はスポーツは全然得意じゃない。10回投げて、何とか2回だけ入った。でも隣を見ると、遥は得点ゼロのまま。毎回投げるたびに、リングに当たっては弾かれる。
「なんで全然入らないの……もしかして、このリングに妨害魔法でもかけられてる……?」
「もう少し高く投げてバックボードに当ててみたらどうかな?もしかしたら跳ね返ってリングに入るかも」
僕はスポーツは得意じゃないけど、体育の授業で他の人がやってるのを見てて、この方法をよく目にしたんだ。さっきのもバックボードを使って入った。
遥が傷つかないように、僕はわざとペースを落として、外れるように投げた。元々入れるのは難しいけれど、今では全然入らなくなった。
シュートを決め始めるまでは手を抜いてあげよう――そう思ってたけど、時間が切れるまで結局遥はゼロ点の運命から抜け出せなかった。
彼女のゲームの腕前、なんか想像以上に弱い?
悔しそうに眉をひそめて頬を膨らませた顔を見て、何も言わない方がいいと判断した。
遥はどうしても僕に負けたままで終わりたくないらしく、別のゲームをやりたがった。
しかし、何をやっても驚くほど弱くて、まるでこれまでの人生で一度もゲームをやったことがないかのようだった。僕もそこまで得意ではないし、かなり手を抜いていたのに、それでも遥が僕に勝つことは一度もなかった。
負け続けているのに、遥はずっと楽しそうだった。だけど、その無邪気な笑顔を見るたび、どうして彼女が僕なんかに近づいてくれるのかという疑問が頭をよぎった。
僕より、もっと一緒に時間を過ごす価値のある人なんてたくさんいるはずなのに。僕には、彼女に何かを与えられる自信もない。それでも、どうして僕を選んでくれたのだろう?
お互いに変人同士なのに、僕にはどうしても彼女の考えが読めないんだよな……
「ねぇ、あず」
遥が急に僕を呼んだ。指先をUFOキャッチャーに向けながら、黒い瞳がキラキラと輝いている。
「あのウサギのぬいぐるみがほしい!お願い!」
なんで自分よりちょっとだけゲームがうまい僕が取れるって思ってるんだ?
しかし、そのキラキラと輝く瞳に目が合うと、断ることができず、仕方なく重い腰を上げることになった。
何度も失敗を繰り返し、残りメダルがあと一回だと知った瞬間、喉が鳴った。今度こそ、獲得口に一番近いぬいぐるみを取ってやる。
慎重に進むボタンを押し、目を離さず、ぬいぐるみの真上で爪がぴったり止まった。手を放すと、遥と一緒に祈るように見守った。ぬいぐるみは無事に掴まれ、獲得口に向かって運ばれていった。
しかし、あと少しというところで、ぬいぐるみが落ちてしまった。息を呑んで、思わず呼吸を止めた。ぬいぐるみが縁で揺れ、しばらく動いた後、ようやく運良く落ちた。
やっとゲットした……額の汗を拭いながら、思わず肩の力が抜けた。
遥は僕が渡したぬいぐるみを受け取ると、ぎゅっと抱きしめ、幸せそうな表情を浮かべた。
「ありがとう!」
彼女が幸せそうに楽しんでいるのを見て、僕はふと、さっきまでの努力が無駄じゃなかったと思った。価値があったんだと――そう思った瞬間、自然と頬が少し緩み、家族以外の前では久しぶりに心からの笑顔が浮かんだ。
「あ、やっと笑った」
「……」
久しぶりに他人の前で笑顔を見せるのが少し恥ずかしくて、僕は思わず顔をそむけた。
「あなたの笑顔、すごく素敵だね。これからもたくさん笑ってほしいな」
「うっせぇ」
「あら、もしかして照れてるの?」
「……そんなことない」
遥の顔には逆にちょっとうっとうしい笑顔が浮かんだ。
夕日がゆっくりと沈み、温かな光が道に注ぎ、影を長く引き伸ばしていった。道の両脇に並ぶイチョウの葉は、夕日の光を浴びて黄金色に輝いている。僕たちは足をゆっくり進め、心が少しほっとするような、穏やかな時間が流れているのを感じている。
「遥」
こんな雰囲気の中で、ついに心の中にあったあの疑問を口に出す決心をした。
「うん。どうした?」
「どうして、こんな変な目をしていて、霊能力があって、性格も暗くて目立たないような僕に近づいて、受け入れてくれるの?」
「だって、あなたは私にとって大事な人だから」
自分でも確信しているけど、遥とはこれまで一度も会ったことがない。知り合ってたった3日で大事な人になるなんて、さすがに展開が飛びすぎじゃないか?
「なんで?」
「なんていうかね……昔、今みたいに黄金色に染まる季節に、ある騎士みたいな男の子が寒がりな子に、寒い冬を乗り越えるためのカイロをあげたんだ。その優しさが胸に染みて、その子は勝手に彼を最初で、一番大事な友達だと思ってる」
「その男の子って、まさか僕のことじゃないよな?でも、僕は誰にもカイロなんてあげたことないし……?」
地面に落ちたイチョウの葉を踏みながら、遥は振り返って微笑んだ。
「とにかく、私があなたに対して嘘なんて一切つかないってことだけは、分かってくれればそれで十分だよ」
「……君、本当に変だな」
「じゃあ、こんな変な私と友達になってくれる?」
「君みたいな変人以外、僕の事情を知った上で友達になってくれる人なんていないだろうな……」
今さらこんな質問をしても、彼女ならもう僕の答えを分かっているだろう。
疑問は解けなかったけれど、それはもうどうでもいい。
僕みたいなやつを受け入れてくれる変人がいるなら、疑いを抱くよりも、もっと大切にしなきゃいけない。
「これからもよろしくな、変人さん」
「うん!」
遥は、黄金色のイチョウの葉よりも温かく輝く笑顔を浮かべた。
次回は2024/12/17更新予定です。
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