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10. もしこんな目と霊能力がなかったら

「いーやこれはこれは、化け物さんじゃねえか?」

「近寄るなよ、この化け物!お前なんかと仲良くだなんて思われたくないんだ!」

「幽霊?それってあんたの妄想でしょ?可哀想」


 人々の冷たい言葉は、まるで錐のように脆い心を何度も何度も打ちつけていく。


 化け物と呼ばれ、妄想癖のある少年は、冷たい人々の中で奇異の視線を浴びながら、ただ一人歩き続けていた。

 進む道の途中で、少年は理不尽にも石を投げられ、嘲笑され、疎まれ、そして殴られることすらあった。それはただ、彼が『普通の人間』ではなく、猫のような目と霊能力を持つ『化け物』だからだ。

 時が経ち、少年は身長が高くなり、前髪も次第に伸びていった。かつて受けた奇異な視線も、やがて薄れ、ついには完全に消えた。それでも、体に刻まれた傷跡だけは、いつまでも少年に囁き続けていた――自分は『化け物』であり、決して他人と友達になることも、認められることもないのだ、と。


「まさか、僕たちみたいな化け物を本当に受け入れてくれる人なんているなんて、思ってるわけじゃないだよね?」


 振り返ると、後にはもう一人の自分がいる。


「僕たちは最初から普通の人間とは縁がない。もし受け入れてくれる人が現れても、その人が僕たちみたいに嫌われてる奴と一緒にいると、必ず噂されることになる。だから裏切られるのも時間の問題だ。なのに、どうして君は、受け入れられ、理解されたいって思い続けてるんだ?」


 少年は何も答えず、ただ黙っていた。もちろん、彼はそれを分かっていた。

 ただ、冷たい道にたとえほんの小さな火花が現れたとしても、誰もその火花が自分を温めてくれることを願ってしまうのだ。


 火花に近づくのを止めようとするかのように、もう一人の自分が手を伸ばし、その腕を掴んだ。

 少年は心の奥底にある純粋な思いに突き動かされ、その火花に触れて温もりを感じようと、必死にもがき束縛する手から逃れようとした。

 だが、激しくもがいた反動で、過去のもう一人の自分と共に足元が崩れ、底知れぬ深淵へと引きずり込まれていった。



 ビクッとして目を覚ました。


 悪夢から覚めた僕は、思わず荒い息を吐き出していた。

 悪夢なんて久しぶりだな……なんか疲れた。


「おやおや、可愛い弟くん、そんなに顔色悪いなんて、悪い夢でも見たのかしら?」


 てか、なんで姉さんはまた僕が寝てる間に部屋に入ってきて、椅子に座ってスマホのカメラ僕の顔に向けてんだよ?


「何してるの?」

「ストックを増やすのよ」


 シャッターの音が響いた瞬間、僕はすぐに手を上げて顔を隠した。


「ふふん、もう遅い!」


 姉さんが撮ったあの写真を削除するために、スマホを奪おうと手を伸ばした。けれど、姉さんはまるで僕の動きを読んだかのように、次々と避けていった。

 すると、歌を口ずさみながら楽しげな足取りで部屋を出て行った。

 ったく、朝からこんな騒ぎとか、マジで余計に疲れるわ。



 今日は姉さんが早めに学校に行く必要がないらしく、一緒に登校することになった。


 姉さんは見た目が良くて、性格も悪くないから、学校でも外でも人気がある。でも、僕たちが姉弟だって知ってる人はほとんどいない。それは、姉さんに一緒に出かける時はあんまりベタベタしないでくれって言ってあるからだ。変な目で見られたり、注目されたりするのが嫌だから。姉さんはその点に不満そうだけど、そういう視線を浴びないためなら僕は絶対に譲らない。


 家を出たところで、すでに待っていた遥と鉢合わせた。


「おはよう、あず……それと吉川先輩」

「おはよう、寺西さん」


 登校途中。

 遥は何とか僕に近づこうとするものの、そのたびに姉さんに阻まれてしまう。二人はまるで謎の攻防戦を繰り広げているかのようだが、表面上は仲良さそうに見える。

 平和な朝よ、どこへ行ったんだ……

 心が疲れ果てた僕は、足を速めてあの二人から離れようとした。



 廊下の掲示板の前には、ざわざわと人だかりができている。『azさんって誰?』――そんな会話が耳に入ると、思わず足を止めた。


 冷や汗が頬を伝う。

 顔を掲示板に向けると、そこに貼られていたのは、昨日の新聞部による遥へのインタビュー記事。

 新聞部が遥のゴシップ記事を出して、彼女が大切に思っている人物が僕だとかいう話題になることは、ある程度覚悟していた。それでも、記事の『azさん』が自分だとバレてしまい、そのせいで変な目で見られたり注目されたりするのが怖いという気持ちは、今になっても消えない。

 てか、なんで遥が僕を大事な人だなんて思ってるんだよ……まさか、自分を狙う奴らを諦めさせるために、僕を盾にしようとしてるのか?マジで迷惑だな……



「みんな、雨宮さんのことは心配しないでくださいね。彼女は体調の都合で一時的に休養が必要なだけで、しばらく学校に来られないだけだからね。今回の件はただの誤解で、藤原先生がすでに丸く収めてくださったので、罰とかは全然ないよ。だから、みんなも普段通りに雨宮さんと接してあげてね!」


 早坂先生が昨日の件のその後について、みんなに説明していた。藤原先生、あれが幽霊の仕業だったって誰かに話したのかな……まぁ、仮に真相を話していたとしても、僕がバレることはないだろうし、心配する必要はないよな。

 それよりも、今心配なのは、周りに他の人がいるときに遥が話しかけてきたら、どうやって怪しまれずに対応すればいいのかってことだ。

 子供の頃のように、他人から奇異の目で見られるのはもう嫌だ。だけど、どうすれば『azさん』の正体が僕だと気付かれずに済むのか、そして家族以外で唯一僕の秘密を知りながら受け入れてくれた人に離れていかれずに済むのか、答えが見つからない。


 思わず、朝の悪夢を思い出してしまう。

 過去の自分は、僕がまた他人を簡単に信じて傷つけられる過ちを繰り返すのではないかと心配して、他人と距離を縮めることを阻止していたような気がする。

 本当は心の中で、自分を普通の人として見てくれる誰かに出会いたいと望んでいた。でも、過去のことがその望みを心の奥底に押し込めさせていた。しかし、遥に出会ってから、その望みは次第に強くなり、過去を乗り越えたくなる気持ちが湧き上がってきた。


『お前みたいな化け物、俺たちには近づかないでくれ』


 だけど、頭の中で繰り返し響く、過去に誰かから言われた言葉がまるで鎖のように僕を縛りつけていて、どうしても振り払うことができない。

 僕みたいに生まれつき異常な奴が、他人と一緒にいるなんて本当にいいのか?

 ……分かんないなぁ。

 もしこんな目と霊能力がなかったら、こんなに悩まずに済んだのかな?


 机の上にメモが落ちてきた。

 すると、それを拾って開いてみた。文字は相変わらず乱雑だったけれど、『放課後、デートしよう』と書かれているのが読めた。


 遥の顔には、まるで僕がもう承諾したかのような期待が溢れている。


 ……まぁ、このチャンスにちゃんと話して、心を縛る鎖を解けるか試してみるか。

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