王宮でお茶会
オレが公爵令嬢に生まれ変わって7年。
オレは7歳になった。
5歳の時に広い庭に遊具を作ってもらってから2年。その数は増え続けている。
滑り台を数種類と、鉄棒、うんてい。逆上がりをしてくるくる回ったら皆驚いていたので、護衛騎士の三人に教えたら騎士団に広まった。
整備、点検を兼ねてくれるなら騎士団の訓練に使っていいと公爵の許しも得たのだ。
公爵邸を護る森の一画にはアスレチック場も作り始めている。
余りだったのか短いロープがあったので、縄跳びをしてみた。二重跳びは一回しか出来なくて練習してたら、またまた皆にポカーンとされたので、縄跳びも教え、職人さんと騎士団の人達で大縄跳びしたり、綱引きも教えてやった。たくましい騎士さん達の綱引きは圧巻だった。
そんな楽しい日々を過ごしていたオレだが、とうとう公爵令嬢としての役割を果たさなければいけない時が来た。
「お茶会、ですか?」
「ええ、王妃様主催のお茶会があるの。アキューリアにも会いたいからぜひ一緒に、って」
オレと同じピンクブロンドの髪をした公爵夫人が、ふんわりと微笑んで恐ろしいことを言う。
お茶会!しかも、王妃様主催の!?
「今まであの人が貴女を溺愛するあまり、外には一切出さなかったけれど、アキューリアももう7歳。親しい方達にはお披露目しなくちゃね。お姉様も会いたいと言っているし」
公爵夫人の言う「お姉様」とは、王妃様のことだ。二人は従姉妹の関係らしく、幼い頃から姉妹のように育ったらしい。今までもオレ込みのお茶会の誘いはあったようだが、全て公爵が却下していた。
「お父様のお許しが出たのですか?」
「出てないわよ。というか話してないわ」
「えっ!?」
話してないとはいったいどういうことなのか?
「話しても反対されるだけですもの。後で話せばいいわ」
「後で…」
「大丈夫よ、アキューリア。だから今から行きましょうね!」
「はっ、…えっ、………いまっ!?」
ニッコリニコニコ公爵夫人から放たれたそれに馬鹿みたいに叫ぶしかない。
「はっ、まさかこれ!朝からのはっ」
「ふふふっ」
オレの言葉に公爵夫人は更に微笑みを深くする。
今日は朝食の後、リリルに促されたまま湯浴みをし、薔薇の花片のように生地を何枚も重ねたふんわりとした可愛いピンクのドレスに、いつも以上に丁寧に何度もクシを通したピンクブロンドの髪はハーフアップにされ、若草色の大きなリボンを付けられている。気合の入ったこれはいったい何なんだ?と思ったけど、お茶会のためのものだったのか。
オレが断れないように。リリルも共犯か…。
「さあ、行きましょう、アキューリア。
「………はい、お母様」
初めてのお茶会が王妃様とのだなんてハードル高すぎだけど、味方になってくれる公爵は今、何も知らぬまま執務中だ。後で何だか面倒くさくなりそうだけど、公爵夫人を止める術はオレにはない。
ガンバレ、オレ!
「アキューリアには初めての邸の外ね」
「外っ!?」
馬車が走り出すと共に言われた言葉に気付く。
公爵邸の外に出るんだ。初めて!
煌びやかで堅牢な門を初めて見る!
それからはもう窓に張り付き通しだった。
異世界に転生してずっと公爵邸の敷地内で暮らしていた。不便なんてもちろんなかったから、公爵や公爵夫人が外に出ている事を理解していなかった。
公爵邸の門の外に世界が広がっている!
そして王宮はでかかった…。
うわぁ、うわぁ、で口をポカーンと開けながら、公爵夫人の後を付いていった。
そして行き着いたその先に居たのは、
とてつもなくゴージャスなお姉様がいた。
ロニアーナ・ドラ・キャラメリアン
キャラメリアン王国の王妃様。
深紅の薔薇のような赤い髪を結いあげ、それに反するようなつり上がり気味の青い瞳は好奇心を隠す事もなく興味津々と輝き、赤い唇は弧を描いている。透き通るような白い肌、落ち着いたワインレッドのドレスは首元まで隠しているけれど、胸がデカイ!
お姉様だっ…、というか女王様?
はっ、ハートのクィーンか?!
場所が庭園なだけに有名な童話を思い出してしまう。
そして、その隣にいるのはハートのジャックではなく…。
「いらっしゃい、モルセッゾ公爵夫人とそのご令嬢。待っていましたよ」
「ご招待いただきありがとうございます。モルセッゾ公爵の妻、ベロニアでございます。こちらは娘の…」
「………あっ、アキューリア・レア・モルセッゾです。本日はお招きいただきありがとうございます」
慌てて挨拶を返すが、思考は王妃様の隣に向いている。
こちらは王妃様と違って薔薇というより燃え上がる炎のような赤い髪、真昼の空のような明るい青の瞳。親子としか思えない王妃様によく似たその顔には、だが王妃様とはまったく正反対の表情が浮かべられている。
睨まれている!
というか、あの子は。
「今日はイグニスも一緒なのよ」
「…………」
「お久しぶりですね、イグニス第二王子様」
第二王子様、来たー!