公爵令嬢になったオレ
衝撃の事実から3年。
公爵令嬢として転生したオレは3歳になった。
当時は自分が置かれた状況が分からず、身体が赤ん坊ということもあって、オンギャオンギャ泣いてしまったが、落ち着きを取り戻すと怒りと後悔が湧いてきた。オレはあの日受験だったのだ。姉ちゃんのオタク道に付き合いながらも必死で勉強をした。実は頭が良い姉ちゃんにも教えをこい、オレはとにかく頑張った!
なのに!
「しけんうけゆまえにしにゅにゃんて、しのい!」
「お嬢様~、お早うございます。よくお眠りになられましたか?」
世の無常を嘆き叫ぶと、それを打ち消すかのような明るい声が響く。専属メイドのリリルだ。
「リリユ、おあよ」
「お早うございます、お嬢様。リリルです」
「…………リリユ」
「可愛いです、お嬢様!リリルです」
満面の笑みで訂正しなくてもいいじゃないか!可愛いは余計だし。
まだ3歳なんだ、大目に見てくれ。舌が短いんだよ!
「リリ!」
「はい、お嬢様!」
ムカツイたので名前を省略したら、愛称で呼ばれたと思ったのか、リリルは頬に両手を当ててキラキラと瞳を輝かせ、クネクネし始めた。
不気味だぞ!リリル…。
「リリ…」
「あっ、…失礼しました、お嬢様。さっ、顔を洗って、こちらに着替えましょう!」
「……………」
「お嬢様、今朝はフリルとリボンがふんだんに使われた薄薔薇色のドレスです!お嬢様がお召しになれば薔薇の精霊のごとき美しさですわ~」
相変わらずのテンションの高さ。
前世姉ちゃんの趣味により、幼い時は着せかえ人形、中学からは女キャラのコスプレしてたオレだけど、生まれ変わってもなお、その宿命からは逃れられないらしい。
アニメキャラなら毎日同じ服というのもざらだけど、ここは現実だ。公爵令嬢ということもあるのだろうか、朝着替えて、夜寝る前までに2~3回着替える。しかも同じ服はもう2度と着ない。
いくら成長期だってまだ着れるよね!
だがもちろん、オレの要望は通りはしないのだ。
「お嬢様のふわっふわなピンクゴールドの御髪に、ルビーのような赤い瞳。キャラメリアン王国一の美姫と誉れ高かった奥様にそっくりのお顔立ち。どのドレスもお似合いです、お嬢様!」
とりあえず落ち着いてくれ、リリル。
「リリ、きがえっ」
「ハウッ!…………ハア、ハア、申し訳ありません、お嬢様。ではこちらを」
もう面倒くさいので、リリ呼びでわざとコテンと首を傾けて言うと、ヒットしたらしく、リリルは胸を押さえながらも、落ち着きを取り戻した。
着替えて食堂へと向かうが、足が短いのでチョコチョコとしか歩けない。リリルは手を繋ごうとするが、男子高校生の記憶があるオレには、姉ちゃん以外の年上のお姉さんと手を繋ぐ行為は恥ずかしく、一人で歩く。たとえ、リリルや他の使用人達が微笑ましく見ていたとしても。
「愛しのアキューリア、我が娘!会いたかったよ。お早う!」
食堂に入った途端、今のオレの父親であるモルセッゾ公爵が走り寄ってオレを抱き上げる。
「…………おあよございましゅ、おとしゃま」
「うああああ、今日も私の娘が可愛い過ぎる!」
「…………………………」
このテンション高めの朝の挨拶は毎日のことで、オレはすでに諦めの境地だ。
「さあ、食事にしましょう。あなた、アキューリア」
今のオレの母親である公爵夫人が優しい笑顔でそう言う。
アキューリア・レア・モルセッゾ
それが今のオレの名前だ。
最初にその名前を教えられた時、違和感しかなかった。前世のオレの名前は高崎輝人。学校ではアキトって呼ばれてて、ご近所さんには、アキちゃんって呼ばれてた。
アキトとアキューリア。
似てはいるけれど、まだその名前にオレは慣れていない。
公爵夫妻からはこれ以上ないほどの愛情をもらっているけれど、前世の記憶を持って生まれたオレにはオレの記憶しかなくって、前世の家族を覚えているから、新しい家にもらわれてきた感が強い。しかも、普通の男子高校生が公爵令嬢って。
「アキューリア、どうしたの?口に合わなかったかしら?」
「ううん、とってもおいちい!」
3歳児なのにため息なんか付いたから、誤解されたらしい。慌ててニッコリ笑顔で言えば、皆ほわわ~んとなった。
とりあえず、早くうまくしゃべれるようになりたい…。