ノクプレ
「いや、そうでもない。俺も故障なんて聞いたことも体験したこともなかった。丁度妹の一大事に様子を見に来れて良かったよ。学園には連絡したそうだね。修理が来るまで一緒に待とう。そういう優菜も割と落ち着いているな。」
「いえ、私は・・・」
「そう、畏まることもない。戸籍が変わっても俺たちは兄妹だ。昔のように接してくれたらそれでいい。今日中に治るとは限らないし、念のため荷物をまとめておくと良いかもしれないね。」
「しかし、兄さんは惑星アクアの未来を担う者です。」
そういうわけには参りません_と喉元まで指しかかったところ、今の状態では説得力に欠けると楷書体に刻まれた文字を思い出す。
「そうだ。実は前から誘おうと思っていたんだが、優菜は『ノック・WORLD』に興味はあるか?」
「兄さん『ノクプレ』だったの!?」
つい、敬語を忘れてしまった私を見て兄は微笑む。
『ノクプレ』とはフルダイブMMORPG『ノック・WORLD』を遊ぶプレイヤーの略称である。
地球で大ブレイクしているこのゲーム、気になりはしていたが、1アカウント分の価格が高価で、地球に留学していることもあり、中々手が出せなかった。
ちなみに、人口惑星でもゲームアカウントの作成は可能だが、居住星以外とはサーバーが完全に分かれており、高額料金設定も拍車を掛け、人工惑星プレイヤーは少人数の中、数は調整されているものの圧倒的多数のモンスターを相手にぼっちで..ソロプレイをせざるを得ない状況である。
「ふふふ。そんなに意外だったか?」
「いえ..正直、兄さんはいつも勉強や教養のレッスンばかりで、ずっと惑星の上の人たちと話し込んでいる様子でしたから、ゲームには興味ないかと思っていました。なんだ、兄さんにも息抜きをできる場所があったのですね。」
「やっと笑ってくれた。それならもっと前から話せばよかったな。実は優菜がどう思うか気になっていたんだ。こう見えて、妹の前では小心者なのだよ。私は。」
「大切な兄さんが好きなものを私が拒むはずがありません。そういえば『ノック・WORLD』といえば、大型アップデートのニュースが流れていました。なんでも人気の『ゲート・LIVER』が宣伝大使に選ばれたとか。そういえば、兄さんの指輪と似たものを、その少女が身につけていましたね。嗚呼、可愛かったです、のくたん。私も『ノック・WORD』を始めたら「のくたん」に会えるでしょうか。あの心が洗われるような太陽のような笑顔。パワーがあふれるような弾ける声色。こうしてはいられません。ここは、今までに貯めたポイントと貯金で。」
それまで麦茶を爽快に飲んでいた兄がむせる。
「大丈夫ですか!?兄さん」
「あ、ああ。言いそびれていたが、その大型アップデートに合わせてアカウント料金も大幅に値下げするようだ。既にプレイヤーとして登録している者は、ゲーム内通貨でその分還元するらしい。」