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ゲート・イン・ゲーム    作者: 牧野薪
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故障

XXXX年8月15日。


夏休みという学校行事が定着してから約100年余り。

科学技術は飛躍的に進歩し、灼熱の炎天下の地球でも、機器に指示を送らなくてもいつの間にか快適な温度に切り替わる現代だ。


にも関わらず、収納スペースの中からレトロショップで面白半分に購入した半袖Tシャツを取り出し、ペーパーノートブックで仰ぐという古典的な動作をしているのか。


その便利快適冷房装置さまいつもありがとうが故障してしまったのだ。


しかもTシャツ中央には、漢字で「半袖」と楷書体で大きく書かれている。

半袖Tシャツを使用していた時代の人間も「半袖」と書かれた半袖Tシャツを着ていたとは考えにくい。そして、未来に生きるこの私がこのように「半袖」の半袖Tシャツを着ているとは想像もしていないだろう。


同級生で友人の巧に自撮り写真を送ったところ、「『待って、おなか痛い(笑)』」というメッセージが返ってきた。胃腸の調子が悪いのだろうか、心配だ。


「つづいてのニュースです。ゲーム制作会社『ゲート・イン・ワールド』が大人気フルダイブ型MMORPGソフト『ノック・WORLD』の大型アップデートを発表しました。今回のアップデートでは、職業ジョブ追加、スキル追加、そして50種の新フィールドを予定しており、また新たに全人口惑星と地球(Earth)のサーバーを同一化し、これまでに不可能とされてきた居住地の枠を超えてユーザー同士の交流が図れるとのことです。これに合わせて、キャンペーン、大規模イベントの開催を発表し、大型アップデートの宣伝大使として「ゲートLIVER」で大人気の『ノクターン・ミク』さんと『KAGURA+』さんが就任しました。ゲーム内では就任式が行われ__」


スクリーンには、紺色に赤のメッシュが入った髪に青と黒を基調とした衣装の少年が映し出された。肩に背丈半分程の長さの銃を背負っている。黒いマスクをかけ、フードを深めにかぶっており表情を読みにくいが、その少年の目元は三日月形に微笑んでいる。


片手を垂直に上げ、少年がVサインをすると、どっと拍手が沸いた。背景に表示されているコメント欄は「地球文化体験講義1」で挑戦した流しそうめんより早く流れ、もはや目で追うことは不可能だった。


もう一人は、ピンクのツインテールに大きなピンクリボンを胸元にあしらったトップスに、フリルが多くついたミニスカートを身につけている少女が笑顔でこちらに向けて手を振っている。かわいい。ものすごく。観客席から「のくたん!さいこー!!」「のくちゃまー♡」という歓声がちらほら聞こえる。


しばらくスクリーン上の少女を眺めながらゆるんでいると突如、来訪者用のベルが鳴った。

しぶしぶニュースから目をそらし、空中をタップしてドアカメラを開く。

その先には、明るいベージュの髪に銀縁の眼鏡をかけた兄が映し出された。


カメラに向かって手を振っている。

その手の振り方が先ほど見かけた少女と似ている気がした。


「気温の暑さ」を人類が忘れ去っているいま。

この恒星太陽から地球に与えられし灼熱の如く燃え上がらんばかりの部屋を味わい、冷房機器さまの今までの御栄を味わっている最中の私に、もはやおもてなしをする気概は残念ながら残っていなかった。


ゲートを開き、エレベーターロックを解除する。


兄はガラス張りのエレベーターに乗り込み、速度を徐々に早めて横に移動していく。


カメラに映し出されるその様子だと、どうもエレベーター内の冷房は作動しているらしい。



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