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「おいしい、だね」

「あぁ、ツチブタ凄いな。もうこれ、焼いただけで売れるんじゃねえか……?」


 真っ先に焼いたのはエルテの好物、ツチブタである。エルテによると土の中に潜って巣穴を作る生物らしく、話を聞くとモグラのようである。

 背中に雑草が生えていたのは擬態のためらしいが、鼻の利く狼を相手に隠れることが出来るほどの擬態力ではないようだ。


 ツチブタは、異様に脂身が多い割にはさほどクドくはない。豚バラとトントロの間のような肉質で、網で焼くと火が上がるくらいには脂を含んでいる。

 塩を掛けて焼いただけで、上等な豚バラ肉のような味わいになる。若干脂が多く肉と脂のバランスが良いとはとてもではないが言い切れないが、そのジャンクさが芋という炭水化物に依存した生活をしてきたこの世界の住民に突き刺さる。


「で、これはバララドリだが……」

「すくない」

「……まぁエルテにとってはそうだよな」


 バララドリは翼を広げると人と同じくらいの大きさの鳥類である。

 いや京三の認識だとこれでも馬鹿みたいにデカいのだが、この世界の害獣基準では小型サイズだ。エルテのような巨体を維持するためにこんなサイズの鳥を食べていたら、一日何十羽も狩らないといけなくなる。

 どうやらエルテでなく子狼の好物らしく、子狼のサイズならば確かに充分な肉を食べれそうではある。

 細かく切り分けるのは面倒だったので羽根を綺麗にむしり取った後はそのまま半割にし、かまどの火が弱いところでじっくりと焼いていたのだ。

 焼けた半身をエルテに渡すと、一口で食べてしまった。ばりばりと骨を齧る音が響く。


「美味しいか?」

「おいしいだけど、すくない」

「……だよな。あ、でも旨いなこれも」


 臭みは全然なく、軽く塩を振っただけなのに、ハーブのような良い香りがする。恐らくこの鳥が普段食べているものの香りだろう。

 つまり、この鳥が食べているものを探せば、自生したハーブを見つけられるかもしれない。そこは子狼らに調べてもらうか。

 肉質は、鶏というよりは鴨、それもマガモや合鴨でなくカルガモに近い味わいで、若干の野性味があるが天然のハーブ臭が打ち消してくれる。これも、他の材料さえ揃えば普通に日本の高級レストランで出せるほどの鳥である。

 ここまで食べた物の味に影響される生物となると、家畜化したくなるのが人の性である。


「で、最後は――」


 脚を切り落としたところで解体用のナイフが欠けてしまった、トリデムシの丸焼きだ。

 欠けたナイフを研ぎなおすのも面倒だったので力任せに節を捩り切って、そのままかまどに投げ込んでいた。解体中はどう見ても旨そうには見えなかったが、こうして焼いてみると亀の甲羅のようにも思えてきて、なんとか失せた食欲が戻ってくるのを感じる。


「おいしい、だよ」

「エルテは食べたことあるのか? どうなんだ?」

「かたくて、ぱりぱりしてる」

「……そうか」


 まぁ、そうだよな。当然エルテならそのまま食べる前提であろう。

 皿に載せようにも甲羅は皿より全然デカいので、かまどから引っ張り出したそれを網の上にどかんと載せた。

 甲羅の上部は刃も矢も通さぬほどに固いが、裏面はそれほどではない。とはいえ生の状態だとナイフが入らないほどには固かったが、加熱のお陰かギリギリでナイフが突き刺さったので、そのまま亀を捌くように解体していく。


「…………グロい」

「ぐろい?」


 内臓と身が混ざり合って、ぐちゃぐちゃになってしまっている。

 そういえば焼いている時に何度かパンパン音が鳴っていたが音の正体が分からないので気にしないようにしていたのだが、恐らくトリデムシの中身が爆ぜた音だったのだろう。

 どのような構造なのか調べようにも、ニルスの手持ちのナイフでは敵わなそうなのでそれは次の課題にしよう。

 どうやって食べるべきか悩んだ結果、どことなくカニみそに見えてきたので、ぐつぐつと煮立つ甲羅にそのままスプーンを差し込んでみる。


「…………これは、ちょっと難しいな」


 内臓の味か、苦みが強い。カニみそのような濃厚なコクはなく、思ったよりアッサリしているがそのせいで苦みが際立ち、塩を掛けてもあまり効果があるとは思えない。

 珍味としてなら食べれないこともないだろうが、これをどうにかするには複数の調味料が必要だ。塩だけじゃ無理である。


「おいしい?」

「いや、……どうだろう、美味しいになるかもしれないが、このままだと微妙だな」

「そうなの? ならたべていい?」

「あぁ、ちょっと取り出すから待ってろ」


 かまどに突っ込んでいた甲羅を取り出し、エルテの前に並べていくと、熱さなど感じないかのようにばりばりと小気味のいい音を立てながら食べていく。

 なんか、えびせんとか食べてるみたいだな。エルテがかみ砕くたびに緑色の液体が飛び散っていくので、かなりグロいが。

 節は全部で30ほどある。焼いていたのは一部だったが、残りは明日にでも試してみるか。すぐに腐ることはないだろうし、今日はこれで終わりにする。

 エルテが食事を終えるのを待ち、再び胸毛に包まれて眠る。今日は様々な発見を出来たが、大体全部エルテの助力のお陰なんだよな、と胸毛の中で感謝を述べておいた。

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