7
「はぁー、転生ですかぁ」
「……はい、黙っててごめんなさい」
屋上にある薬草園のベンチに並んで座ると、これまでのことを正直に話した。
二人でお茶をすすり、空を眺める。
「別に、まぁそうですね、言いづらかったと思いますし、私としては別に」
「……別に、ですか」
「えぇ、別に気にしません。黙っていたのも当然ですし、それに、ニルスさんは知らないんでしょうけど、先祖返りの話ならどこの地方にもあるんですよ」
「へ?」
変な声が漏れた。
あれ、ひょっとして俺が超の付くほどの田舎暮らしだったから知らなかっただけなのか!? カルロとかも実は話せば分かってくれたやつなのか!?
「ニルスさんのようにハッキリと自分の体験のように思い出せるか、そうでないかの違いはありますが、現象としてはそれなりに知られています。まぁ、その、どちらかというと神様に直接お願いされた――の方は少しビックリですが」
「…………ビックリで済むんですね」
「そうですねぇ。確かに神様がどうこうって伝承が残されている地域はありますが、最近はめっきりそういう話は減ってるんですよね。神話の時代は終わり、人の時代になったのでそういう不可思議な現象が観測されなくなった、という説を聞いたことありますが、まだ私たちのことを見ていてくれたんですねぇ……」
「…………」
死後のことなので記憶が定かではないが、心配されていたと認識している。料理という文化を滅ぼしてしまった責任を果たし、出来る限りのことをしたいのだと話してたんだっけ。
それでも、芋を無くせなかった。作ってしまったものを人から奪うことが出来なかった。
それ故、神は願ったのだ。もう一度人の手に委ねよう、と。
無神論者であった京三が、神のことをどこまで信じていたのか、料理を広めるという行為にどこまで本気で応じようとしたのか、他人であるニルスは知らない。
けれど、これだけは言える。
「食事は、そこに幸福を生むんです」
「幸福……そうですね、分かる気がします」
立ち上がったラウラは、くるりとこちらに向き直って小さく笑った。
「料理に求められるのはただの栄養摂取などではなく、幸福を得るための行為であり、儀式としての側面も持っている、と聞いたことがあります」
「ニルスさんが『いただきます』って言ってる、あれですよね」
ふと思い出したかのようにラウラが言うので、頷き返す。
「はい。所説あるようですが、食べる、飲むという行為に『いただく』という言葉を当てたのは、敬意を表するためとされています。料理に関わった者への敬意、食材に対する敬意、それらを統合し、そう言いました。もっとも、俺の時代にそこまで考えてる人は稀でしたが」
「……それは、どこの世界でも似たようなものですね、人のものとなったこの時代、神仏への信仰は薄くなったので、無神論者も増えました。それは、神頼みをしても叶わないと思うようになったからですね」
祈っても、叶わない。それはどこの世界でも同じであろう。
神は個人に関与しない。それが現代を生きる者なら誰しもが考えること。
出来るけどしないのか、出来ないのか――それを知る人間は居ないだろう。けれど、地上を生きる人間にとっては、そのどちらだって構わない。
結局、救いを求めて救われなければ、そこに神は居ないと考えてしまうものなのだ。
――けれど。
「きっと、見てますよ。俺が、――彼が聞き入れたのも、そう信じたからです」
「……ですね」
ラウラはくるりと回ると、もう一度ベンチに腰掛けた。
今度は、先ほどまでよりずっと近い。肌が触れるほどの距離で、こちらに身体を預けるようにして。
「私に出来ることなら、手伝いますよ」
「……よろしく、お願いします」
そう、道はまだ長い。けれど、道筋は見えた。ならば、もう駆け抜けるだけだ。
――料理という文化を、この世界、この時代に根付かせる。そのために京三はここに来て、そしてニルスは生きている。
待ってなよ、神様。きっと、良い報告をしてみせるから。
ラウラの肩を抱き、空を眺める。きっとそこから見ているのだと信じて。




