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5

 一旦解散させると使ったものの片付けをし、その後は調理器具や食材として使えそうなものを実験室や倉庫から物色していると、ラウラが「そういえば」と口を開く。


「夕飯にはカルロ君達も連れてきますか?」

「ですね、一応待ち合わせ場所は決めてたけど、居ますかね」

「……目移りするものも多いから探すことになりそうですけど、あのくらいの年の子が行きそうな場所はなんとなく分かるので探せるかと思います。私が二人を拾いに行くので、ニルスさんは外出ますか?」

「ですね、エルテから荷物回収すればもっと色々作れるので、後で合流しましょう」


 突然ラウラが子供連れてきたら驚かれそうだよなと笑いながら話し、炊事場として使っている部屋に荷物を置くと、ラウラと別れて外に出る。


 広い街中だ。移動式の売店が立ち並ぶエリアもあれば、しっかりと建物の中で営業されている店が並ぶエリアもある。

 売店に目を奪われながらも、これだけ店があるのに食材や料理を扱う店がほとんどないことに驚きを隠せなかった。

 ただ、芋を売っている店にもいくつかバリエーションがあった。土から掘り出してそのままの芋、洗った芋、蒸かした芋など様々だ。

 それだけでなく芋売りのすぐ傍には芋茶を売る店もあり、焙煎具合によって数種類の茶葉が販売されている。

 気になったものをいくつか買いつつ街の外へ向かっていく。

 大きな街で騒ぎになったら面倒なので、門扉から離れたところでエルテを呼ぶ。走ってきたエルテは口元が血まみれで、どうやら普段来ない地方に来たので見慣れない動物や魔獣を見かけ、片っ端から食べてみたのだという。

 その中でも美味しかったものを教えて貰えたが、流石に街の外から製薬室の敷地まで魔獣の死体を背負っていく気にもなれなかったので後の楽しみにしておくことにした。


「あ、エルテも夕飯食べるか?」

「たべる!!」


 つい先程まで絶え間なく食事を続けていたエルテだが、そのまま食べる肉と料理は別腹という考えがあるのか、結局街の中まで着いてくることになった。

 自分はハンターライセンスだけで街に入ることが出来るが、人型になったエルテには身分証などない。

 だが、ハンターが保証人になり何かあった時は責任を取るという約束を結び、安くない入場料を支払うことでエルテも街の中に入ることが出来た。


「ここ、くさい」

「そうか?」

「なんか、いろんなへんなにおいがする」


 人間とは比べ物にならないほど高度な嗅覚を持つエルテにとって、街中はあまり心地いい場所ではないようだ。

 確かに若干下水臭はするし、排気ガスのような臭いがする建物もある。薪や炭以外の動力がある予感がしたのであとでラウラに聞いてみるかと建物の位置を記憶し、狩人時代に培った土地感覚で、地図を必要としないまま製薬室まで辿り着いた。

 街の中は人によって生み出された情報が多いので、森の中よりは随分と覚えやすいのだ。

 自分は物心つく前から森の中で生活していたので森で迷子になることは滅多にないが、小屋から徒歩3分程度のところを散策していたカルロが迷子になったのは記憶に新しい。エルテや子狼が居なかったら見つけられなかったところだった。

 森の中というのは、たとえ目印をつけていたとしても、たとえすぐ近くに自分の拠点があるとしても、いつ迷うか分からないほど複雑である。

 むしろ、ララコ村――エトロア森の脇にあるあの村から小屋までカルロ達が無事辿り着いたこと自体、奇跡なのだ。

 ヨーアンが獣避けと道を作ってたとはいえ、ヨーアンの死後管理されていなかったその道は獣道より険しく、10歳そこらの子供達だけで歩ける距離でもない。

 それでも二人が小屋まで辿り着いたのは、幸運もあったろう。だが、それだけではない。二人は、村に居ると殺されると思ったから――つまり、火事場の馬鹿力を発揮していたのだ。

 小屋で生活を始めてからも数日はほとんど寝てばかりだったから、相当に疲労を貯めこんでいたのだろう。


「おお、待ってたぞ。これを見せたくてな」


 調理場と化している部屋で持ってきた食材を並べていると、室長が入ってきた。

 彼が手にしているのは、大きな壺だ。


「それ、何ですか?」

「最後に食べた『いももち』――だったか、あれの味に覚えがあって、家から探して来たんだ。随分前に買ったので固まってしまっているが、これも使えないかと思ってな」


 壺を受け取り、中を覗く。よく見えないが、水分が蒸発して結晶化した何か――である。

 とりあえず壺に手を突っ込み欠片を剥いでみると、それは見覚えのある黄金色をしていた。


「蜂蜜……違うな、メープルシロップか?」

「ハチ――かは知らんが、何かの蜜だ。すまないが、何の蜜だったかは覚えていない」


 口に放り込む。――唾液でじんわりと溶けて、甘味が口いっぱいに広がる。

 京三の記憶にあるメープルシロップとは違う。保管状況が悪かったのかそれともそういう蜜なのか苦みやえぐみを感じるが、それでも水飴をも上回る強い甘味がある。

 何せ、常用している水飴は、常食である芋から作り出されたものなのだ。元がほんのり甘い程度の生芋では、どれだけ煮詰めても甘味に限界がある。だが、これは違う。


「……これがあれば」

「また作れるのか!? あのいももちを!?」

「えぇ、作れます。もっと他のものも」

「おぉ……それは嬉しいな。だが、それだけで足りるのか?」


 壺の中で結晶化しているシロップは、あまり大量にあるとは言い難い。4人程度ならともかく、ここに居る数十人分の料理に使えばあっという間になくなるだろう。

 だが、今はそれでも構わない。養蜂はともかく樹液を煮詰めるだけで作れるメープルシロップなら、植樹の技術がなくともある程度の量産は可能なはずだ。


「作れるだけ作ってみます。もし気に入ったら、どこで仕入れたか教えてください」

「あぁ、任せておけ」


 色んなところで変な物を買ってくる室長の趣味は、きっとほとんどの人に理解されなかったことだろう。

 しかし、この世界において万人が持ちえない欲求を、彼は持っている。それは、未知に触れようとする知識欲だ。


「芋けんぴ……いや、大学芋かな」


 この甘味を活かすならば、まずはシンプルな料理から試すべきだ。


「お待たせしました、二人連れてきましたよ」


 芋を切っていると、ラウラがカルロとベルタの二人を連れてきてくれたので、これ幸いにと交代する。

 カルロは突然連れて来られた製薬室の至る所に置かれた謎の道具に興味津々だったが、視線がどこかに行くたびベルタに度々小突かれていた。


「カルロ、この芋、60度くらいの湯で1時間茹でておいて」

「60……分かった!」


 この世界に存在する万能食材である芋は、特殊な性質を持つ。それは加熱温度によって甘味や塩味が変化する性質だ。

 恐らく神が都合よく作り上げただけのその性質だが、京三の知識を用いて試行錯誤することである程度のコントロールが出来るようになっていた。


「お兄さん、どうしてそんな低い温度にするんですか?」


 温度計などないので、体感で教えるしかない。カルロもなんとなく10度刻みくらいなら認識出来ているが、「これには意味がある」程度でこれまで細かい説明はしていなかったので、ベルタがそう聞いてきた。


「この芋の特性は、生だと甘くて焦げると塩っ辛い、までは分かるよね?」

「はい。でも60度くらいだと――」

「そう、生に思えるでしょ? でもそれが、でんぷんが糊化する温度なんだ」

「コカ……?」

「確か、ほくほくする時のやつだよな? でもそれなら沸騰してても良いんじゃないか?」

「そうだよね。でも、芋がホクホクする温度と塩味が出る温度は、実は違う温度なんだ。今狙ってるのは、ホクホクさせつつ塩気を出さないギリギリのライン――どういうことか分かる?」

「……火を入れつつ甘さを維持出来る温度が60度、ってことですか?」

「大正解!」


 二人の学習能力と応用力はやはり10歳程度の子供とは思えないものだ。一度説明しただけのこの世界にない言葉を理解出来るカルロもだし、これまで食べた料理から何を作っているか想定し、その結論を導き出せるベルタも。

 そんな話をしていると、何かやってることを聞きつけて作業場にやってきた薬師が数人聞き耳を立てていた。彼らも仕事柄、このような話は理解しやすいのだろう。


「その、60度ってのはどのくらいの温度なんだ?」


 代表して質問をしてきたのは、室長だった。


「水を沸かした時、鍋底に小さな泡がぽつぽつ出てくるくらいです」

「ふむ……」


 室長は口元に手を当て、鍋を覗き込んだ。

 電子調理器のないこの世界で低温を維持するのは難しく、今は大体70度くらいだろうか。差し水で温度を調整出来るよう、少なめに水を張って沸かしている。

 水からでなくとも、100度の沸き立ったお湯に同量程度の水を入れるだけでも作れるので、実はそこまで調整が難しいわけではない。むしろ、芋を入れて湯の温度が下がってから1時間60度の温度を維持する方が難しいのだ。


「確か芋の性質を調べた論文があったな」

「でもあれ、粉々にして水に溶かしたんじゃなかったか?」

「薬に使われないからそこまで調べたことなかったな……」


 薬師達がそんな話をしている。一応、彼らにも聞こえるようにカルロに説明しておこう。


「芋が甘味と塩味を完全に切り替える温度が75度。それも一度中心温度をその温度にするんじゃなくて、調理過程の最初から最後までにおいて、一番長く留めた温度を基準とするんだ」

「えっと、ってことは、60度で1時間茹でた後に30分炒めても、甘いままってことか?」

「そういうこと。今回はそれ狙いだね」

「……たまに兄ちゃんが変な茹で方してたの、そういうことだったのか。なんか変な呪いかけて甘くしてるのかと思ってた」

「呪いて……」


 原始的な宗教観ではあるが、呪術師や祈祷師というものが、ある程度の規模の町なら当然のように居るらしい。薬師に治せない病の治療であったり、死者の埋葬をする職業のようだ。

 流石に人を呪い殺すような術はないらしく、そのあたりは幾分か現実的である。

 料理人という職業が存在しないこの世界において、ニルスが行っているのは呪術に近いものなのだ。それは、比較的料理が身近になったカルロにとっても同じである。


「いつも使ってる水飴は、そうして作ったんですか?」

「うん、糖化って現象を利用して、甘味を抽出して固定してる。勿論この水飴も製作時間より長いこと料理に使えば塩味が出てきちゃうけど――」

「たしか、作るの半日くらいかかってましたよね」

「そう、だから基本的に、この水飴が塩辛くなることはない。まぁ、煮込み料理とかだと話は変わって来るんだけどね」


 京三の知識には、数時間どころか数日煮込み続けるようなレシピだってある。

 そのような料理をこの世界で再現するには、甘味が変化する不思議食材産ではない甘味が必要だ。メープルシロップや蜂蜜のような、天然由来の強い甘味が。

 芋について調べるのは最優先事項であった。塩が取り出せた以上、甘味も取り出せると考えたからだ。

 塩を作れるようになってから水飴の完成までに随分時間を掛けてしまったが、一度レシピを完成させれば原料は無限に増えるので、いくらでも量産出来た。

 メープルシロップが手に入るようになっても、芋から作れる水飴にはまだしばらくお世話になることだろう。


「じゃ、こっちはシロップ作るかな」


 メープルシロップ――いやカエデではない樹木かもしれないのでメープルシロップという呼称が正しいかは分からないが、シロップが結晶化したメープルシュガーを小鍋に入れ、水も入れて火にかける。

 メープルシュガーが溶けてきたら再びメープルシロップに戻るが、大学芋を作るためには芋に纏わせた糖分が固まらなければいけない。

 糖度が100度近い砂糖がない以上、糖分が固まる糖度――凡そ80度程度の糖度まで持っていくには、溶かしただけのシロップでは糖度が足りない。なので、メープルシロップに追加でメープルシュガーをぶち込んだ。


「おぉ……」


 ぺろりと舐めると、久方ぶりに感じる強い甘味に思わず頬を緩ませた。

 常用している水飴の糖度は低く、65度程度。それに対し、このシロップの糖度は大体85度程度だろうか。甘味を測る指標は糖度だけでなく甘味度と呼ばれるものもあるが、砂糖を基準値としているので砂糖がない状況では使いづらい。

 メープルシュガーをそのまま舐めても、ここまで強い甘味を感じることはない。それは結晶化したメープルシュガーの甘味を感じるために唾液で溶かす必要があるのもそうだし、温度だってそうだ。人は温度が高い方が甘味を強く感じる性質にある。


「醤油が欲しいけど――」


 大学芋には香りづけに少量の醤油を入れるのが鉄板である。だが、醤油の代用品として使っている肉醤はそれなりに癖が強く、ほんのり隠し味程度に入れるには主張が強すぎる。だから今回は諦め、純粋な甘味で勝負する。

 シロップが準備出来ると、次は揚げ油を用意する。

 普段料理に使う鶏油でなく、もっと癖のないものだ。植物性油脂があれば良かったのだが、残念ながら未だに精製まで至れていない。

 それに、植物性油脂の作り方などテレビで数度見た程度だ。圧力をかけてすり潰せば油が取れるんだったか、油分を多く含む部位を火にかけるだけで作れる動物性油脂と違い、仮に適した素材を見つけたところで、知識と器具が必要になる。


「……太白ごま油でも作れたらなぁ」


 京三は、太白ごま油で作る大学芋が一番おいしいと考えていた。

 通常は焙煎をしてごまの風味を強くするごま油だが、焙煎せずに生のごまから作った透明のごま油を太白ごま油と呼び、強い風味がない分ほんのりと香りづけることで菓子などにも使えるのだ。

 揚げ油の準備をしているあたりで、芋が茹で上がった。芋を手に取り空中で串切りにし、そのまま油に投入した。

 じゅわっと音が鳴り、あたり一面に油が飛び跳ねる。

 近くて見ていたカルロが慌てて避難し、揚げ油を用意している時点でそうなることを予見していたベルタは既に隠れていた。


「あっちぃ! 兄ちゃん熱くないのか!?」

「いや熱いよ」

「今そんな顔してないよな!?」


 そう言われると、「慣れたから」と答えたくなる。だが、ニルスが慣れたのではなく京三が慣れているのと、ニルスは常人より体が頑強なだけなので、そうとは答えないでおいた。

 からりと上がった芋の油をさっと切り、シロップの小鍋に移してゆする。シロップをまとわせると重ならないようバットに並べ、あおいで冷ませば完成だ。


「はい、大学芋」


 作業開始からしばらく時間はかかったが、集まっている野次馬薬師の数は昼時ほど多くない。お土産を配りに行っていたラウラがいつの間にか調理場に現れていたので、配膳をお願いして自分は大学芋を齧りながら次の芋を揚げ、シロップを纏わせる作業を繰り返す。


「やっぱいいなぁ……」


 ほんのり甘い芋を糖でコーティングした大学芋は、甘味のない世界に革命を齎すだろう。

 甘くするだけなら水飴でも出来る。だが成分上、水飴はカチカチに固まるほど煮詰めることが出来ないのだ。

 故に、甘い芋がありながらもこれまで大学芋を作れないでいた。だが、メープルシロップさえあればこれからも作ることが出来る。

 しかし、当然ながら室長の持ち込んだメープルシロップは有限だ。大量の大学芋を作っているうちにシロップが底を尽きてしまった。だが――


「これは……凄いな」


 メープルシロップの甘味を知っていた室長が芋を食べながら目を瞑り、天井を仰ぎ呟いた。

 持ち込んでいる水飴では作れず、かつ甘味を際立たせる料理として大学芋を選んだのは正解だったようだ。代償として手に入れたばかりのメープルシロップを失ったが、この際仕方ない。


「室長さん、気に入ってもらえました?」

「あぁ、……あぁ。すぐにでも仕入れの手続きをしよう。ただ、製薬室として仕入れるわけではないから値段は安くないが、構わないか?」

「……一応聞いておきますが、この壺一つでいくらくらいですか?」

「30万くらいだったはずだ」

「うん、まぁ、そのくらいなら良いか」


 それはメープルシロップの値段とはとても思えないが、量産に難があるこの世界においては仕方ないだろう。まだ効率を上げていく段階にないのだ。

 魔獣図鑑のために800万貯めるという計画はあるが、すぐに手に入る調味料を優先させておく。使う分も解体頑張って、とっととお金貯めないとな。

 それに、鍛冶屋のオヤジに頼んでいた調理器具作りもほとんど終わりに近づいている。試行錯誤の段階には時間も金もかかるが、オヤジがひとつ完成させてしまえばあとは職人が量産出来るのだ。

 ふたつめ以降はそこまで代金も請求されないので、しばらく多額の出費予定はない。カルロには悪いが、ここは少しだけ我慢して貰おう。


「みんなの反応は?」


 お代わり欲しそうに黙って近づいてきたラウラの口元に大学芋を近づけつつ聞いてみた。


「あむ、はふ、んむ、あまぁ……。上々です。芋餅もそうでしたが、甘いものの方がウケ良さそうですね」


 そう言うと再び「んあ」、と口を開けてきたので、また口に放り込んだ。餌付けしてる気分だ。


「なら……次も甘いのにしよっかな」


 残った大学芋を食べながら何を作ろうか考える。カルロに茹でてもらった芋はまだ残っている。芋よりシロップが先に尽きたので、茹で上がった芋がそのまま残されているのだ。

 低温調理をしたことでサツマイモほどでないが甘味の残る芋なので、ここから加工することでほかの料理を作ることも出来る。


「甘露煮とかどうですか?」

「それだ!」


 ベルタに提案されたので、採用しよう。

 若干時間がかかる料理なので調味料の準備をしたら自分は別の料理に取り掛かれるよう、煮物の準備をしながら材料を頭の中に並べる。

 まだ温かい芋を切って重ならないよう並べる――ことは出来ない。大鍋小鍋と様々な大きさの鍋はあるが、フライパンのような平たい鍋はないからだ。

 持ち込んでいるフライパンは4人分を作るので精一杯のサイズなので、この際ひっくり返すことは諦め、乱切りにして鍋の中に放り込んでいく。

 醤と水飴、小鍋にほんの少しだけ残ったメープルシュガーに水を加え、火にかける。既にほとんど火が通っている芋なので、煮汁を煮詰める程度で十分だ。

 通常は芋の下茹でなどせず煮る料理だが、先に低温の下茹という手順を踏まなければ、ここの火入れで塩味が出てきてしまう。万能食材の扱いは案外難しいのだ。


「40度くらいのお湯で煮れば……いや維持が難しいか」


 時折行う60度茹では、でんぷんの糊化を狙った温度だ。だが、もっと低い温度でも芋の甘味を固定することは出来る。たとえば、まったく意味のない40度茹でなどがそうだ。

 しかし、たとえば水に漬けておくだけで甘味が固定出来るわけではない。温度の変化が重要なようで、未だ完全にこの芋を理解出来ているとは言い難い。京三はあくまで料理の専門家であり、科学者などではないからだ。

 そもそも、最低限料理を作るために性質を調べているのであって、この芋の性質を完璧に理解しようとはしていない。


「んー……」


 くつくつと煮立ってきた煮汁をぺろりと舐め、これが煮詰まった時にどのくらいの味が入るか考える。これは知識でなく慣れや感覚の領域なので、教えるのは難しい。醤を少量加え、カルロに交代する。


「火はこのまま、3分に1回くらい鍋底からかき混ぜておいて。煮汁がなくなるまで、出来るだけ芋を崩さないように」

「おう!」


 細かい料理の手順は比較的簡単なものから教えているが、このように単純作業を変わってもらうことも多いので、説明を簡略化しても伝わるのはありがたい。本当に10歳そこらか?

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