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薬学会に所属する薬師達は、仕事には熱心だがそれ以外の生活が破綻している者が多いらしく、芋を茹でることもせず生で齧る者がほとんどと教えられたので、急遽全員分の昼食を作ることとなった。
幸い薬を作るために使われる竈が並んだ炊事場があったのでそこを借り、持ち込んでいる食材だけで何を作るか悩んでいると、なんだなんだと野次馬が集まってくる。
集まった野次馬らは「あのラウラに旦那が……」「あのラウラが結婚したのか……」などと呟いているので、よほど結婚と縁遠いと思われていたのだろう。
自分は初めて見た時から美人だとは思っていたが、魔憑きということを知らない異性の同僚達にもそう思われていたくらいには、女と見られていなかったようだ。仕事人間あるあるか。
「塩に香辛料に調味料、あとは鶏油に、皆からかき集めた芋――」
鞄から取り出した食材や調味料を卓上に並べていく。
長距離移動で何度か食事を取る必要はあったが、調理器具や食材のほとんどはエルテに預けたままだ。流石に街中に呼んだら大騒ぎになるだろうし、広い街なので一旦街の外に出てエルテから荷物を回収するでは時間がかかる。
時間としてはもう昼時だ。生で芋を食べるような彼らを待たせてしまうと、先に食事を終えられてしまう可能性がある。なので、とっとと作業を開始することにしたのだ。
「うし、決まった」
メイン食材が芋しかない。だが、野次馬に混ざっていた室長より花壇や温室で育てられていた植物の使用許可を貰ったことで、一気に使える食材が増えた。
彼らにとっては肉のような未知の食材より薬草として育てている植物の方が馴染みはあるようだし、ありがたく使わせてもらうことにした。
にしても、流石薬師というべきか、調理過程を眺めている彼らの反応はカルロやベルタとは違う。
植物の薬効を知り料理に使わないにせよ植物そのものを理解しているから、着眼点からして兄妹とは違うのだ。
「おい、あれビナレだろ」
「あの変な臭いする奴を使うのか!?」
「俺は別に臭いとは思わねえが、汁が手につくと中々落ちないんだよな……」
そんな声が聞こえてくるのを耳にしながら、愛用の包丁で食材を刻んでいく。
細切りにしたジャガイモを水にさらし、乾燥させたトウガラシと瓶で固まっていた鶏油を鍋に入れる。
そこにニンニクの代用としてノビルの地下茎を細かく刻んで放り込み弱火で火入れをし、香りが出てきたら水を切った芋を投入し炒める。
フライパンがない以上何かを煮出すためであろう厚底の大鍋を使っているが、常人離れした筋力をもってすれば、半寸胴サイズの大鍋すら中華鍋のように軽く振ることが出来た。
「塩に酢、水飴にスープを入れて――」
顆粒出汁を作るほどの技術はないが、焦げないギリギリまで煮詰めた濃厚ガラスープを携帯していたお陰で、足りない風味を補うことも出来るのだ。
「はいまず一品目、炒土豆絲、召し上がれ」
野次馬達はいつの間にかラウラが用意していた皿を持って待っていたので、彼らの皿に盛りつけていく。
炒土豆絲は、日本では馴染みが薄いが中国では一般的に作られるジャガイモの中華炒めだ。
特徴は、大量の油でさっと炒めるだけに留め、シャキシャキとした芋の歯ごたえを残すことだろうか。
飽きの来ないシンプルな味付けだが、ぴりりと辛い乾燥トウガラシの香りが食欲を増進させてくれる、食材の少ない状況では頼もしい芋料理である。
「うん、美味しい」
「ですねー」
まずは自分とラウラが食べていると、野次馬達も恐る恐る口に運び出した。
普段は使えないノビルの地下茎のお陰で、ニンニクほど強い香りではないが風味が増され、いつもより美味しく感じた。
「なんだこれ!?」
「味が濃い……本当に芋か?」
「それにこの舌にピリっとくる感じ、止まらねえ……」
どうやら存外好印象を持ってもらえたようなので、さっさと次の料理を作るとしよう。
芋を生で齧るか茹でて齧るかくらいしか経験したことのない彼らにとって、刻んで炒めるというのは初の体験だったようだ。
大量の鶏油をまとった芋は、食材の種類に比べて舌から受け取る情報量が多い。シンプルな炒め物でもこの反応なら、もう少し変わったものだって食べてもらえるかもしれない。そうなると肉類がないのは痛いが、代わりの食材が解禁されている。
「おっ、良いものみっけ」
棚を漁っているとおろし金のような形状の道具を発見したので、使わせてもらうことにする。
料理をしないのに調理器具がそれなりに揃っているのには違和感を覚えるが、それはここで作られるのが料理以上に細かい作業を求められる薬品だからであろう。
以前聞いたところによると、ラウラの所属しているここ、ドゥイチ薬学会の第三製薬室という部署は家庭用の常備薬を作るのが主体で、利益は低いなりにも利益率は高く、顧客の多い重要部署らしい。
しかし常備薬と言っても侮るなかれ、塗っただけで重度の火傷でも数日で治る軟膏や、腹痛が数分で収まる丸薬、慢性の腰痛すら治す湿布など、京三の生きていた現代日本ですら見なかったほど高性能な薬を作っているのだ。
料理やそれに付随する一次産業が消滅しても、他の産業がなくなったわけではない――森暮らしのニルスが知らなかったこの世界の文明を教えられ、甘く見ていたことを後悔した。
「あ、やっぱりこれ搾菜か」
花壇に生えていた小松菜のような植物――ラウラがトゥルペと呼んでいたカラシナに似たそれを齧ってみると、中国で漬物によく使われる搾菜であった。
搾菜はカラシナの地下茎が肥大化したもので比較的歴史の浅い野菜だが、似たようなものがこの世界にも存在したようである。
搾菜の地下茎の皮を厚めに剥きすりおろし、スープと一緒に鍋で煮る。
更に別の鍋で芋を茹でておき、しばらく時間がかかるので火入れと平行して次の作業に移る。
「で、残った搾菜の葉と芯だけど――」
一般的には地下茎を漬物に使われる搾菜だが、カラシナの変種ということもあり葉も食べられる。独特な苦みはカラシナにないもので、小松菜やホウレンソウに近いものがある。
そのまま炒めるだけでも美味しく食べられるが、流石に芋しか食べたことのない彼らには――
「いや、たぶん大丈夫そうだな」
いつの間にか増えた野次馬が、先程の大鍋に残された炒土豆絲を奪い合うように食べていた。
この様子なら、多少変な物を作っても食べてくれるだろう。室長曰く、今日この建物に居るほとんどの人が集まっているらしい。それはもはや野次馬なんてレベルではない。
「搾菜の芯と葉をさっと炒めて、塩に醤とスープで味付けて、はい二品目」
片手間にさっと作った搾菜のナムルは、芋を使っていないのであまり食べられないかと思ったが――
「苦っ……だが何故か止まらん……!」
真っ先に食べた室長がそう叫んだことで、皆が一斉に奪い合いを始めた。あっという間にからっぽになったそれの評判と言えば、これまた悪くない。
苦みが苦手で少ししか食べない者も居たが、全く手を付けない者は居なかった。やはり、薬師というのはラウラだけでなく、皆どこかしら変な人間らしい。
あっという間に駆逐される搾菜のナムルを横目に、茹で上がった芋の皮を剥きしっかりと潰し、搾菜の地下茎をすりおろしたものを加熱していた鍋に入れて混ぜる。
そのままくつくつと煮立たせ、塩やスープで味を調えれば、完成だ。
「三品目、芋と搾菜のポタージュ――ってあぁ、カップありがとうございます」
「いえいえー」
そういえばスープを飲む習慣がなければ深皿がないかもということを忘れていたが、調理過程から何を作っているか察したラウラがカップを人数分持ってきてくれていたので、そこに注ぎ入れていく。
「んー、芋だけじゃ出ないこの味、やっぱ良いなぁ」
「美味しいですねぇ……」
休憩用に置かれた椅子に二人で座り、ポタージュ片手にほっと一息。若干野次馬らがうるさいが無視し、彼らの感想だけを耳に入れる。
「芋の味がする……のに芋じゃない……」
「芋が飲み物になるのか。これなら俺でも作れるか……?」
「これなら毎日でも飲みてえよ……俺がこれまで食ってた芋は何だったんだ……」
三品目も反応は上々である。やはり、慣れ親しんだ芋の味が彼らには一番なようだ。
今回持ち込んでいる濃厚ガラスープは二種類しかない。
とにかくガラを大量に使い副素材は臭み消し程度にしか使っていない中華風のスープに、森で見かけた香味野菜や香辛料と共に煮込んだ洋風のスープで使い分けており、今回のポタージュには洋風のものを使っている。
どちらも主素材は森に住む大型鳥類の骨だが、副素材の量によって随分と風味が変わるものだ。
これにここで育てている野菜も加えれば、料理の幅がさらに広がる――とはいえ薬を作るために栽培しているので、今回のような機会でもなければ気軽に使えることはないだろうが。
「この少し苦いのが、トゥルペの茎なんですか?」
「です。折角なので使えるものを使いたいなと。牛乳でもあれば良かったんですけど……」
「あー、牛って、前に言ってた家畜の話ですよね、少なくとも私は聞いたことないんですけど、他の人なら知ってますかね、ちょっと聞いてみます」
ポタージュを飲み切ったラウラが、近くに居た同僚から聞き込みをする。
別に牛でなくとも哺乳類であれば乳は出るはずなのだが、残念ながら森の中に乳搾りに向いた獣は住んでいないのだ。
一応山羊や羊に似た巨大動物なら見かけたが、あまりの暴力性に乳を搾るどころではない。乳のために狩り殺すのでは話にならないので、家畜化に適した穏やかな性質を持つウシ科の動物に会いたいところであった。
「なんか、こちらのエトさんが知ってるそうです」
ラウラに連れてこられたのは、眼鏡を掛けた物静かな男性だ。
「あ、あの、自分昔は第一製薬室に居て、その、役立たずと追い出されたんですが……そこで、動物を使った実験をしてたんです。その、そこに、乳で子を育てる動物が飼われて、いました。自分は関わること、なかったので、詳しい名前とかは知らないですが……」
「……それ、四足歩行で身体が大きかったりしません?」
「し、しますします、何かの、治療薬の実験だった、はず、です。昔に流行った、病気とかだったかな……」
家畜を使った治験は、あちらの世界でも一般的に行われていた。
だがマウスのような繁殖力の高い動物ならともかく、巨大な家畜を使って実験をするのは少々コスパが悪い。となると、その生物でないといけない理由があると考えられる。
「牛痘とかかな」
「さ、さぁ……? す、すみません、力になれなくて」
「いえいえ、家畜が居るとしれただけで嬉しいです。ここの栽培技術みたいに、知ってる人が知ってることが分かれば――」
家畜化に向いた、乳搾りに向いた動物はこの世界にも居るはずだ。自ら品種改良を行う知識など持ち合わせていないが、既に育てている者が居るならば改良された品種の可能性だってある。
しかし当然今の段階では交渉など出来ないだろうから、このままただの狩人、ただのハンターではいられない。交渉するに値する立場にならなければいけないのだ。
「一応言っておきますが、重婚はこの国では認められてませんよ」
「しません」
「そうですか」
突然耳打ちをしてきたラウラは、一体何を考えているのやら。
確かに栽培技術を知るという意図がなかったわけでもないが、それが目的でラウラと婚約したわけではない。純粋に彼女に惹かれたからだ。
「そういえば、ここってどんなものを飲んでるんですか?」
視線がカップに落ちたところで、ふと思い当たる。ラウラが用意してくれたのは一般的な取っ手のついたマグカップだが、水を飲むには少々不釣り合いだ。
だが、この世界の常識で考えると、チャノキや嗜好品となる珈琲豆などを栽培しているとも思えない。
「あ、そういえばニルスさんって白湯ばっか飲んでましたよね、ちょっと持ってきます」
そう言って席を立ったラウラは、1分程度で戻って来る。彼女が手にした缶には、深緑色の粉末が入っていた。
「普段皆が飲んでるのは、これですね。芋の葉を乾かして、あと人によっては炒ったりしたものを砕いてお湯とか水に溶かして飲みます」
「……お茶まで芋かー」
「たまーに黒くなるまで炒って苦くなったのを好んで飲む人が居ますが……室長とか」
「それ、皆自作してるんですか?」
「んー、自作までしてる人は少ないかもです。庭のない人は芋も買ってますし、普通にそこらへんで売ってますよ」
「……なるほど」
そういえば、森近くにあったあの町では皆が自分の家に芋を育てられる程度の庭を持っていたが、ここまで大きい街になると庭のない家の方が増える。
アパートのような構造で複数人が住むのを想定されている場合など、いくら芋の生育が速いとはいえプランターで育てることは出来ないだろうし、どこでも誰でも育てられる芋だろうが買う必要がある。
そして、芋売りだけでなく茶売りも居る――それは嬉しいニュースである。
「……思ったより、土壌はあるのかもな」
小さく呟いた。食事が完全に芋に依存しているからといって、栽培技術が失われたわけでも、食事や嗜好品という概念が失われたわけでもない。
いいや、もしかしたら一度は消えたかもしれないが、それでも現時点でここまで残されているのだ。それならば、嗜好品として料理を広めていくことも出来るのかもしれない。
呟きを聞いていたラウラは、コクリと頷いた。
「ですね。ここの人みたいになんでも食べる人は稀だと思いますが、食べ物や飲み物を買うという感覚は私達にもありますから」
「良い話を聞けました。ついでに、こんなに人が居るなら聞いておきたいんですけど、芋以外を食べたことある人って居るんですか?」
問いかけてみると、聞こえる範囲に居た人たちが一度目を合わせ、全員が手を挙げた。
「……ニルスさん、その質問だとこうなります。ここの人たち、薬の原料になるものなら毒草だろうが食べてますから」
「あー……」
言われてみると、そうなのか。この世界の人間にとって、食事とは即ち芋を食べることである。
食事以外で口に入れるものは薬か茶かその原料か――そうなると、確かに自分の作った料理は食事でなく、食事以外に該当する。
食事として何を食べているか聞きたかったが、何と質問すれば良いか分からないのだ。認識の差とは、つまりこういうことである。
「でもまぁ、一番変なのを食べてるといえば室長だよな」
「だなぁ」
数人がそんなことを言うと、残されていた料理をさらっていた室長に皆の視線が向く。
室長本人はそんなこと気にも留めず食事を続けているので、ラウラが説明してくれる。
「ここの庭で育てられてる薬草――ニルスさんにとっての食材は、大体室長がどこかから持ってきたものなんです。地方で変わったものを見かけると買ってくるという性質がありまして」
「へぇ……?」
「室長の持ってきた謎の薬草にどんな薬効があるのか調べて、使えそうなものは頑張って増やして薬にして売る――それが、第三製薬室の日常です」
ラウラに説明され、ようやく合点がいった。
はじめてラウラに振舞った料理が普通に食べられていたことや、ここで突然料理を作り出しても皆が試食をしてくれた理由がだ。
突然知らないものを食べるというのは、彼らにとっては日常的なことだったのである。
「ちょっと、考え事したいので料理に戻りますね」
「どうぞどうぞ」
黙って頭の中で考えるより、身体を動かしていた方が思考を進めやすいのだ。立ち上がり、四品目の用意を始める。
寸胴鍋で沸かしていた湯にぶちこんであった皮付きの芋を回収し、皮を剥いて潰す。粗熱を取るためにバットに広げ、その間にタレの準備だ。
「醤油が欲しくなるな……」
魚醤や肉醤に関しては、食材と塩だけで作ることが出来る。だが、醤油は大豆と塩だけではいけないのだ。
「麹菌……なんて説明すればいいんだ?」
醤油作りに欠かせないのは、麹などの特殊な菌類。
料理に関する勉強を40年以上続けていた京三だが、一から醤油を作った経験はない。専門家に任せた方が良いと考えていたからだ。
故に知識としては知っていても、それを再現することも、説明することも出来ない。
ともかく、ないものねだりしても仕方ない。今あるものを工夫するだけでも、料理のバリエーションを増やしていくことは出来るからだ。
「醤と水飴を焦げないように煮詰めて――」
作り方を知っていて再現出来たのは、醤に水飴だ。
醤油や砂糖がなくとも、この二つがあればそれなりに日本料理は作れるのである。
当然、食べ慣れた日本人にとってはおかしな味付けに思えるかもしれない。だが、海外で食べる日本料理風の――中華料理や韓国料理、果てはベトナム料理などの文化と混ざり合った謎の料理――を食べてきた経験を活かせば、悪くないものが出来る。
何事も経験だ。日本から出ずに正しい日本料理ばかりを食べていたら、きっとこの世界でこれほどまでに料理をすることは出来なかったかもしれない。
100点満点ばかりを摂取してはいけないのだ。必要なのは、10点だろうが、その場その状況において出来る限りの工夫を凝らしたと感じるもの。
日本料理を学ぶ風土がない、日本料理に使う調味料や食材すらない状態で再現しようとしたそれらの日本風料理から学んだことを、今こうして異世界で活かせるのだ。
「タレ完成。で、粗熱取れた芋を片栗粉と混ぜて――」
芋と片栗粉を粉っぽさがなくなるまで潰し混ぜたものを適量手に取りコロコロと丸めていると、ラウラが隣に立った。
「これ、前もやってたあれですよね? 手伝いますよ」
「ですです。じゃあお願いします」
以前作ったのを覚えていたのか、二人でコロコロと芋を団子状に成形していく。
全部丸め終わったら、次は油を引いた鍋に団子を入れ、潰すように鍋肌に押し付ける。
既に芋には火が通っているので、焦げ目がつくよう多めの油に強火で加熱する。途中でひっくり返し両面に焦げ目を付けたら、タレの鍋に放り込んだ。
さっとタレをくぐらせたものを皿に積んでいく。
「四品目、いももちです」
北海道の郷土料理であるいももちは、もち米が量産出来なかった時代に生み出され、現代に至るまで日本中で親しまれているファストフードである。
同じ名前の料理が日本中至る所で生まれているが、今回作ったのはジャガイモをベースとした北海道のもの。
これの良いところは、米がなくても餅を楽しめるというところだ。
「なんだこの食感は!?」
「芋とは思えん柔らかさ……!」
試食係達は手がべたつくのも気にせず食べていくので、次へ次へと焼いていく。
時折自分もつまみながら焼き続け、100個以上焼き上げたところでようやく団子がなくなった。
「ふぅ……」
いつの間にかラウラが入れてくれた芋茶で一息付いていると、室長が近づいてきた。
「他にもこんなものが作れるのか?」
「えぇ、材料さえあれば」
「材料……この敷地内にあるものなら何でも使ってくれて構わないが」
「……何でも?」
「何でも」
どうやら、室長を落とすのには成功したようだ。
ラウラが小さく「良かったですね」と耳元で呟くので、小さくガッツポーズをした。
「ちょっと休憩したら、……そうですね、回収したいものもあるので、日が落ちる前にはまた作り出そうと思います。その時も皆残ってますか?」
「まぁ、そうだな、家庭がある奴以外は帰らんだろう。家庭があっても帰らん奴も居るが」
室長の目はラウラを見ていた。
確かに、言われてみるとラウラも婚約はしているから家庭のある者に入るのか。
とはいえこの世界で料理は女の仕事――のような風習は一切ないようで、男女関係なく家に居る者が食事の準備をするのが一般的らしい。




