32歳の葛藤と挑戦
冬のまろやかで冷水のような大気。
このたった一行を、納得行かなくて何度も書き直した。
一瞬、思考がどこかへ飛んでいき、カクヨムで大量のPV数を稼ぐ自分を想像する。すぐにその妄想を理性でかき消し、執筆のことを考える。
何をテーマに書こうか。オチはどうしようか。
思いつくたびに頭の中の審判がダメだと取り下げる。
少し風が吹いただけで、まろやかな大気は刺々しい氷柱に変わった。
その冷たさに眉根をぎゅっと寄せながら早足で歩く。
私が仕事を続けるなら、シナリオを扱う仕事がいいと思う。
人の心情を深ぼるための、文脈のあるシナリオの仕事がいいと思う。
あー、つらい。
シナリオを考えるのもそうだけど、脳内の言葉をこうやって文章に書き起こすのが苦痛、しんどい、めんどくさい。
脳内とスマホを打ち込む指のタイムラグと推敲のもどかしさにムシャクシャして、信号待ちをしながら貧乏ゆすりをする。
頭の中で考えたことをそのまま文章に書き起こすソフトがあればいいのに。
あるかもしれないけど、2023年2月現在、普及してはいない。
AIチャットが普及し始めたからそろそろかもしれない。いや、それは関係ないか。違う機能だもんな。
駅につく。ホームへ向かう。ちょうどきた電車に乗って、どかりと席に座る。
ーー働くの辞めたい。
会社を辞めたい、とかではなくて、仕事をするという行為自体を辞めたい。
全身から力が抜ける。
私はシナリオを書くのは嫌いじゃない。
でも、仕事となると途端にハードルが爆上がりする。
バアン!とすれ違った電車の空気圧にびくっとした私は、現実に引き戻される。
私は何をしたいんだろう。
金はほしい。高くはないが低くもない今の生活水準を下げたくない。
気分でウーバーを頼めるくらいには小金持ちでいたい。
ぐる、と職場の先輩からの批評が頭の中でとぐろを巻いた。
「和多さんは、ちょっとスキルが低いかな」
いや、そんなことは言われてない。言われてないが、私の脳内にいるイマジナリー先輩はそう言う。
自分が自分をそう思ってるからだ。
つらくなって貧乏ゆすりをする。
このまま永遠に電車に乗っていられればいいのに。
時間が止まって、電車だけが動いている。
そんなのがいい。
いや、結構それはそれでつらいかも。
スマホがブーブーと鳴ったのでビクッと身構える。
メールだった。仕事で使っているteamsと通知バイブが同じなので毎回身構えてしまう。
ここまで書いて、集中力が切れる。
今日の私。