every diary file saw
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【12月16日、自宅、晴れ】
『今日は特に何もなかった。皿洗いをして、洗濯物を干した。病院にもらった薬を飲んだからか、眠い』日記を閉じる。部屋の電気を消して寝ようとした時、何者かに止められる。小さい羽が生えた生物が飛んでいる。驚いて尻餅をつく。その生物は一つ咳払いをすると話し始める。「ボクは、リー。キミは毎日書くことが一緒でつまらない」思いついたことを呟く。「そう。ボクは妖精。喜んで。ボクが見える人には幸せなことが起きる」まだ状況が理解できず茫然とする。「想像してごらん。運勢が良くなって、良いことだらけの毎日を送る自分」思わず微笑んでしまう。「嬉しそう。そのかわり、キミに力を貸してほしい」首をかしげる。その時、母が部屋の方に来て、心配する声を出す。「キミのお母さんか。ちょうど現れたみたいだ。早速実戦してもらった方が早い」気づくと、真っ暗闇の空間にいた。「驚くのも無理はない。でも、キミには戦ってもらわなきゃならない」前に小さい羽が生えた生物がいる。今度は見るからに悪そうな外見をしている。「あれを倒してほしい。ボクがキミに力を与えた。思い描けば、倒せる」急に無理な事を言われても困る。必死に倒すことを思い描く。不思議と力が溢れた手を伸ばす。光線が飛び出て、それに命中する。真っ暗闇な空間がなくなっていき、元の部屋に戻る。「お見事!あれはコアクマといってどこにでも突然発生して空気を悪くしてしまう。キミにはアククウカンに入ってコアクマを退治してほしい。気になることは山積みかもしれないけど、これからよろしくね」リーが消える。手の中に謎のアイテムがある。母が大丈夫か確認している。母に大丈夫と返事をする。母は安心して戻っていく。日記を開ける。『寝る間際に、妖精に会った。ちょっと信じられないけど、どうやら本当らしい。よく分からないけど、少しだけ明日が楽しみになって来た』日記を閉じる。謎のアイテムを机に置き、部屋の電気を消して、ベッドに入る。
【12月17日、公園、くもり】
今日は、認定日だ。退職した人への支給を受ける手続きをするために近所の職業安定所へ歩いて行く。道を歩くのは楽しい。カラフルな色合いの家、公園、街路樹の並木など見える景色が変わっていくので飽きない。それは、目的地に関係のない事だと思っていた。それなのに、前へ出す一歩が重く感じる。これは、明らかに目的地へ向かって行くことへの抵抗が生む重みなのだろう。手続きを終えて職業安定所を出る。帰り道の途中、公園に立ち寄る。書類を出し、目を通す。「ふむふむ。いい額だ」驚いて尻餅をつく。「そんなに驚かないで。昨日も会ったじゃないか」辺りを見回しながら立ち上がる。犬を散歩させる人が遠くにいる。「誰にでも救いの手を差し伸べるいい制度だ。特に何もしていないキミも生活ができる」反論できなかった。「まあ、キミもいろいろ考えているのだろう。毎日書き続けている小説とか」今から7年前、大学3年生の頃から、地道に小説を書き続けている。幼少期から自分の頭の中で作られている一つの物語があった。その物語は年を重ねても頭から離れず、小説にすることでその物語を終わらせることにした。「最近悩んでいるようだから、何だったらボクも協力するよ」首を振る。この小説は、自分から生まれたものだから、自分で終わらせようと決めていた。それでも、小説を書くことは初めての経験で、結末をどうするか悩んでいるのも確かだった。その時、犬が吠えだす。「もしかしてコアクマが発生したのかも?」走る。突然真っ暗闇の空間に変わる。「アククウカンだ!昨日の事思い出して、さあ!」目の前のコアクマは昨日よりも気のせいか大きく感じた。武器を向けてこっちに来る。反射的に倒すと思い描く。かけていたメガネが宙に浮く。メガネ目掛け光線を撃つ。激しく飛んだメガネはコアクマを切り裂く。戻って来たメガネを掴む。辺りはいつもの公園に戻る。「いいね!その技、今思いついたのかい?」頷く。「カッコよかった…。折角だから、名前を付けようよ」考える。「まるでブーメランのようだから、名づけて“グラスブーメラン”なんてどう?」グッドポーズをする。「よし。ついでに、昨日の手から光線を撃つ技名も決めよう。“ハンドショット”でどう?」グッドポーズをする。「よし。決まりだ。この調子で明日からもよろしくね」夕食を終え、自分の部屋に行く。日記を開ける。『今日は、手続きをした。帰り道の途中、またコアクマと戦った。二度目の戦闘だからか、前より敵が大きい気がした。新しい技も思いついて倒せたから良かった。何だか強くなった気分で悪くない』日記を閉じる。
【12月18日、自宅、晴れ】
今日は、部屋の掃除をしている。机の上や棚に堪った埃を払う。掃除は心も綺麗にすると言う。確かにその通りだと思う。ただ、自分の場合、母に言われて仕方なく掃除しているので、心が綺麗になっているのか疑問である。次は自分からやるように言われ、分かったと返事をする。今までの事を考えると実現する日は果てしなく遠いように感じられる。結局、同じように母に言われてから掃除するか、母が自分で掃除してしまう。母の心は、とても綺麗になっているはずだ。「終わった?大変そうだったね」母が作ってくれたコーヒーとお土産の炭酸煎餅を食べる。「キミ、美味しそうに食べるね。ボクも食べていい?」頷く。「美味い!人間はこんなに美味い物を食べているのか!ウラヤマシイ…」気になった事を聞く。「まあ、妖精界にも食べ物はある。でも、妖精は森の澄んだ空気とかしか食べない。それもほんの少しで十分。だから、人間の食べ物は贅沢なご馳走なんだ」今日は、さらに近所のガソリンスタンドで灯油を買いに行く。寒くなって家で炊くガスストーブ用の灯油だ。18リットルの容器2つ分買う。これを両手に持って一度に家まで運ぶのだ。灯油の比重は0.78~0.83なので、容器が1キログラムとすると片手で大体16キログラム持っていることになる。だから、一苦労する。運び終えた後は、手が麻痺したようになり、全身が疲弊する。「疲れてるね。
そんなんじゃ、コアクマとの戦いで負けちゃうぞ!」そう言われても疲れてるから仕方ない。「それに、小説の結末を考えることもできない」確かに、今日は小説が全く進んでいない。少しずつでも進めないと一生終わることがなくなってしまう。その時、テレビの画面が乱れる。母が故障かと疑う。「コアクマが出た!あれを使って!」リーが謎のアイテムを指さす。慌てて掴み、ボタンを押す。瞬く間にアククウカンへと移動する。今回のコアクマは、両手に武器を持っている。「昨日決めた技名を叫ぶんだ!」“ハンドショット”と叫ぶ。コアクマが光線を武器で弾く。続けて“グラスブーメラン”と叫ぶ。コアクマが避けて、向かって来る。「危ない!」聞こえたけど動かなかった。コアクマが切り裂かれる。戻って来たメガネを掴んでかける。テレビ画面が元に戻る。「キミ、才能あるよ。もう3体も倒した。明日、話がある。裏山に来て。約束だよ」夕食を終え、自分の部屋に行く。日記を開ける。『今日は、掃除をして、灯油を買った。そして、またコアクマを倒した。明日はリーから話があるらしい。一体何だろうか。早く寝よう』日記を閉じる。
【12月19日、裏山、晴れのちくもり】
今日は、リーとの約束の通り、裏山に来ている。裏山には、国交による平和記念に建てられたお堂がある。普段は入れないが、春分の日と秋分の日の前と後の日に中に入れるようになる。何でかは分からない。とにかく前に一度入ったことがある。中には、今までの歴代の市長の銅像が一周する形に並んでいて、歴史を感じることが出来る。それ以上に全員に見守られている感じがして、とても有り難い感情を抱く。2階建てになっていて、2階から辺りを一望できる。外壁には四聖獣が描かれていて、有り難い印象を受ける。ここは隠れたパワースポットと呼べる場所だ。そのすぐ側には塔が立っている。この塔は常に中に入ることができる。何の因果かこの塔も春分の日と関わりがある。それは、塔の中で上を覗くと、日光によって発生する虹の輪っかが最も長くなる事である。これは一見の価値がある。お堂と虹の塔の他に、裏山には数えきれない墓がある。大小さまざまな墓があるが、中でも昔この地域であった台風の被害者らの墓が最も大きい。裏山を一周し、疲れたので、広場で一休みしていると、リーが現れた。「約束を守ってくれてありがとう。早速話をする。キミとボクが出会ってから10日後、つまり今日を入れて7日後に、コアクマが完全体になる。キミも気づいていると思うけど、毎日コアクマは強くなっている。何でかは分からない。とにかく完全体を倒せば戦いは終わりだ」何でかは分からないけど嫌な予感に襲われる。その時、墓地が怪しく光る。「それじゃ、よろしくね」アククウカンに移動する。墓地からコアクマが現れる。それほど大きくないと思っていると、すべての墓地から現れたコアクマが合体して、特大のコアクマに成長した。コアクマが掌で叩くのをやっと避けたけど、起きた風で吹き飛ばされる。足で踏みつぶされそうになった時に、気づいたらコアクマのもう片足を狙いバランスを崩していた。その後、一回転して踵落としを決めた。気づくと裏山を覆うアククウカンが晴れていた。「さすが、キミだ!それにまた新しい技を思いついたみたいだ。踵落としじゃカッコ悪いから、“ティアドロップ”でいい?」グッドポーズをする。家に帰り、風呂に入る。長く外にいて冷えていた分、熱く感じる。風呂と言うのは寝る次に疲れが取れると思う。夕食を終え、自分の部屋に行く。日記を開ける。『今日は裏山に行った。リーから話があった。完全体のコアクマを倒せば戦いは終わるらしい。不安もあるけど、新技ティアドロップもあるし大丈夫だろう。とにかく疲れたから寝よう』日記を閉じる。
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【12月20日、デパート前、くもり】
今日は、母を仕事場に車で送る。夕食の時は、父と母と一緒に食べる。その時に、父と母の仕事場での話を聞くことが多い。母の仕事は、デパートの食品売り場にあるレジやサービスカウンターのパートである。デパートの食品売り場だけあって、様々なお客が来るようだ。レジで待ち時間が長くて文句を言う客、丁寧さを求める客、予想外の事を聞いてくる客などだ。これらのお客様の対応をする事が母の仕事である。母はこの仕事を始めて12年のベテランなので、大体上手く対応できる。一方で、同じ職場の新人社員は対応が上手くできない時があるらしい。この時、母を含むベテランに仕事が回って来るのだ。他にも、時期ごとの催しに関係する新しい対応が求められたり、仕事のシフトで出勤時間が変動したり、ストレスが多い職場のようだ。それでも、帰宅すれば美味しい料理を作ってくれて感謝である。さらに、朝になれば、仕度を整え、職場に向かう。当然のことのようで、しんどいことをやってのける凄さがあると見ていて思う。デパート前に着く。母がはー、とため息をつく。しんどいんだろうけど、何か言うのも変な気がするし、と考える。気づくと、辺りはうなだれる人々が溢れる。一応持ってきた謎のアイテムを使う。アククウカンに移動する。特大のコアクマが武器を投げてくる。横に飛んで躱す。コアクマが武器を投げてくる。横に飛んで躱す。何度も鬱陶しい、と思う。地面に突いた手から光線が地面から噴き出しコアクマを貫く。辺りが元に戻る。気が楽になる。母を見て、頑張って、という。行ってくる、と母が車から出ていく。家に戻る途中、リーが現れる。「また新技を出してたね。キミ、天才?そうだな…“グランドピラー”って良くない?」グッドポーズをする。夕食を終え、自分の部屋に行く。日記を開ける。『今日は、母を仕事場に送った。今日も大変そうだった。何がともあれ、一日が無事に終わって、布団で寝れることはこれ以上ない至福の時だ。さあ、寝よう』日記を閉じる。
【12月21日、デパート、くもり時々晴れ】
今日は、母を仕事場に車で送る。昨日と今日で母は連勤なのである。連勤という言葉は、人のテンションを下げる力がある。それに対抗してテンションを上げることは容易な事ではない。好きなゲームをしたり、好きな動画を見たり、好きな事をして、何とかしてテンションを上げなくてはならない。とにかく現実に立ち向かう為には、テンションを上げる必要がある。テンションを上げるものは、人によって様々だろう。プラモデルを作ることかもしれないし、料理をすることかもしれないし、勉強することかもしれないし、小説を書くことかもしれない。その中でも、ぶつかる壁がある。プラモデルを作ることの場合、完成した後色をどのように塗るかである。料理をすることの場合、毎日作る献立を決めることである。勉強することの場合、難しい問題の解き方が分からないことである。小説を書くことの場合、書き進めてきた物語を締めくくる結末をどのようにするかである。どうしようか。その頃、デパートでお客と新人社員が口論になっている。謎のアイテムを取り出し、アククウカンに移動する母。高速で動き回るコアクマの攻撃を軽やかな跳躍で躱す。目にも止まらぬ速さで回転して発生した風の刃がコアクマを切り裂く。お客と新人社員がお互いに謝り場が鎮まる。母が新人社員に言葉をかける。リーが呟く。「あの人もやるな。あの技は“ボディウィンド”と名付けよう」とりあえず書いてみようか。気づくともう夕方になっている。あれ?今日はコアクマとの戦闘がないぞ。母が帰宅する。今日も疲れた、と言って夕食の支度を始める。その時、母の鞄の中に謎のアイテムが見えた気がした。気になり、見ようとしたら、父が帰宅する。父と会話になり、見ることができない。夕食を終え、自分の部屋に行く。日記を開ける。『今日は、母を仕事場に送った。最近、毎日会っていたリーにも会わなかったし、母の鞄の中に見えたあれは、やっぱりあれじゃないのか。もやもやする。こういう時は、早く寝よう』日記を閉じる。
【12月22日、神社、雪】
今日は、目の前にリーがいる。昨日いなかった事について尋ねる。「まあ、正直に言うと戦えるのはキミ1人じゃないということだ」驚く。そこで、母の鞄の中に見えたあれを思い出す。単刀直入に尋ねる。「気づいた?そうだよ。キミのお母さんもボクが力を与えたから戦えるんだ」とりあえずもやもやが解消された。リーを見ると、何か考えている様子だ。「ちょっと今日は一緒に行動してくれる?」頷く。仕度を整え、外へ出る。リーについていきながら考える。リーに会った時の事だ。急に現れて、空気を悪くするとかいうコアクマと戦うことになった。不思議な力を与えられたから難なく倒せているけど、普通に考えて怖いことになっている。一体コアクマって何だ。怖すぎる。リーも妖精と言っているけど、本当にそうなのか怪しい。第一、戦う代わりに運気がアップすると言っていたけど、運気が上がっている気が全くしない。あれ?リーがいない。後ろを見ると、リーが慌てて飛んでくる。「ちょっと来て!泥棒だ!」驚く。「とにかく来て!」リーについていくと、スーツを着たサラリーマンの男性が歩いている。「あの人だ!」普通の人に見えるけど、仕方なく尋ねる。否定するサラリーマンの男性。「嘘ついても無駄だぞ!この人が財布を盗むのを見た!」一応鞄の中を確認してもらう。驚くサラリーマンの男性。見知らぬ財布があるようだ。「早く持ち主に届けよう」リーについていくと、主婦の女性が歩いている。「この人の鞄から盗ったんだ」財布を渡す。女性はとても感謝してくれた。お礼に買い過ぎたというネギを頂いた。「良かったね。やっぱり運勢が上がっているみたいだ」果たしてこれを運勢が上がっていると言っていいのか。どう見ても男性は混乱していたし、泥棒とは思えなかった。じゃあ、どうして財布が女性の鞄から男性の鞄に移ったのか。考えていると、神社に着く。「あ!コアクマだ!」見ると、神社の後ろに特大のコアクマがいる。謎のアイテムを使い、アククウカンに移動する。“グラスブーメラン”を躱したコアクマが着地する。それに合わせて“グランドピラー”を放ち、消滅するコアクマ。「はや!つ、強くなったね。それより、見て」そこの神社は、不定期に祠を開放する。いつ開放されるか全くわからないので、祠を見れると、運が良いという噂だ。「これを見れたら運がいいんだろう?キミ、運勢が確かに上がっているね。良かった、良かった。日も暮れてきた。さあ、家に帰ろう」巫女が来て不思議そうに祠を見ている。家に帰り、ネギを母に渡す。ちょうど欲しかったらしく喜んだ。夕食にネギ入りの鍋が出た。夕食を終え、自分の部屋に行く。日記を開ける。『今日は、リーについて神社に行った。今日は不思議な事が二度も起きた。泥棒を捕まえられたり、神社の祠を見られたりした。でも、何だかリーの様子がおかしかった。何か隠してるのかもしれない』日記を閉じる。
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【12月23日、スーパー、晴れ】
今日は、病院に行く日だ。定期的に病院へ行って、薬をもらう。薬は、身体的な症状を治すものと精神的な症状を治すものがある。もらう薬は、精神的な症状の方だ。かれこれ退職して9か月が経つ。今まで経験した仕事は、肉体を使う仕事が多かったけど、病院で調べてもらった結果、合っていなかった。思い返すと、上手くいかないことが多かった気がする。そういう時は、相談して助けてもらえばよかったけど、それも上手くできなくて、自分で何でも解決しようとした。その結果、我慢することが多くなって、溜めこんだものがある時爆発するように溢れ出た。同じ過ちを繰り返さないように、今は見つめ直す時間なのかもしれない。病院から帰り、母は昼寝を始める。パソコンを開けて、小説の続きを書き進める。小説の話は、英雄が出てきて、奇跡を起こす内容だ。英雄は強くて、どんな困難に直面しても負けないで立ち向かう。この小説を書くことで、自分の精神が安定している部分もあると思っている。但し、順調に書き進めなくなると話は変わる。小説の内容は話せないので、誰にも相談することはできない。何とか自力で書き進めるしかない。その点で、今は時間がある。少しずつ書き進めて結末まで到達した。あとは、その結末を終わらせるだけだ。スーパーへ買い物に行く。買い物中の人たちがあちこちで商品を奪い合い出す。母も気にし出す。謎のアイテムを取り出す。アククウカンに移動する。特大のコアクマが両手の武器を投げると同時に跳躍する。同じように跳躍して武器を躱す。“ハンドショット”をコアクマは武器で防ぐ。後ろに下がったところに“ティアドロップ”を放つ。コアクマが消滅してスーパーは元に戻る。リーが現れる。「キミ、強いね。まるで英雄みたいだ。これなら、完全体も敵じゃないかもしれない」夕食を終え、自分の部屋に行く。日記を開ける。『今日は病院に行った。英雄の話が少し進んだ。それから、リーに英雄みたいと言われて少し嬉しかった』日記を閉じる。
【12月24日、居酒屋、雪】
昨日の夕食のとき、父が明日出張に行く、と言っていた。父の仕事は、賃貸住宅の管理である。担当する物件の入居者や退去者と関わることになる。鍵の紛失から水もれ、害虫駆除まで様々なトラブルの連絡を受ければ解決しに向かう。また、長時間の会議も連日のようにある。ストレスの多い仕事である。日々の業務に追われる中で、突然出張に行くことになったりする。話を聞くだけで逃げ出したくなりそうなほど大変だ。父も冗談で辞めたいと言っている。冗談であってほしいと思う。冗談だとしても、大変な事に変わりはないはずだ。それでも、家族を守るために辞めずに頑張ってくれている。本当に有り難いと思う。毎日、帰宅してから数時間しか一緒にいないので分からないけど、重圧や責任による疲れを取り除く為に酒を飲んだりして休んでほしいと思う。また、次の日も社会に立ち向かう1人の英雄として戦うために。母が夕食の用意ができた、と言う。分かった、と返事をする。あれ?また、コアクマと戦闘していない。その頃、居酒屋で父は酒を飲んでいた。フー、とため息をつく。酔った客が掴み合いの喧嘩を始める。父は謎のアイテムを取り出し、アククウカンに移動する。腕が極太のコアクマが拳を繰り出す。父は避けると同時に腕を掴んで、背負い投げをする。勢いよく叩きつけられてコアクマが消滅する。酔った客が肩を組み仲直りする。リーが現れる。「重圧をはねのけるような一本背負いだ。“ワンインパクト”と名付けよう」父は、名づけ始めたのか、とツッコむ。「キミの息子が気に入ってたから」父は、酒を飲み干すと、お金を払って居酒屋を後にする。「これで残るは完全体だけか。キミたちと別れるのは辛いけど、仕方ないよね。生きるためなんだ」夕食を終え、自分の部屋に行く。日記を開ける。『今日は父が出張に行った。またリーに会わなかった。明日が完全体と戦う日だけど、何か嫌な予感がする。明日になれば全部はっきりする。早く寝よう』日記を閉じる。
【12月25日、繁華街、晴れ】
今日は、繁華街に来ている。父を迎えに来たのだ。街はクリスマスで賑わっている。テレビ塔前に大きな公園がある。そこに一台のバスが停まる。中から、父が降りて来る。荷物を受け取る。父が疲れたよ、と言う。母がお疲れ様、と言う。母が家にご飯あるよ、と言う。父が早く帰って酒を飲もう、と言う。その時、繁華街の人たちが苦しみ出す。上空からリーが降りて来る。リーを包むように大量のコアクマが集まる。大きな翼を広げたリーの姿はアクマと呼べた。「キミたち、今までご苦労だった。ボクは妖精じゃなくてアクマだったんだ。気づいてた?」頷く。「ボクも知ってた。日記に書いてたもの」読んでいたんだ。「キミたちの戦いのお陰でエネルギーを得られた。残念だけど、お別れの時間だ」父と母が謎のアイテムを取り出す。やっぱり母も持っていた。まさか父も持っていたとは。謎のアイテムを取り出し、アククウカンへ移動する。「この戦いですべて終わる。ボクも全力を出す。キミたちも全力を出してよ!」アクマは大きな翼で激しい風を起こす。吹き飛ばされそうになるのを堪える。“ハンドショット”、“グラスブーメラン”、“グランドピラー”を放つ。アクマに命中する。「そんなんじゃ、勝てないぞ!」“ティアドロップ”と、母の“ボディウィンド”、父の“ワンインパクト”がアクマに命中する。「まだまだ!さあ、キミたちの全力の技をボクに放って!」アクマが大きな翼を広げて受け止める体勢を取る。父と母と目を合わせる。手を繋いで高速で回転する。共鳴して生まれた巨大な力が全身から溢れる。気づくと、アクマが倒れていて、そこにはリーがいた。リーに駆け寄る。「…家族全員の力を合わせた大技…あれは、“ファミリーホーリー”と名付けよう…いいかい?」グッドポーズをする。「今までだましてごめんね…キミたちの勝ちだ…」リーはそのまま動かなくなった。そして、ゆっくりと消滅していった。父が帰ろう、と言った。母がそうね、と言った。家に帰る。やっぱり家が一番落ち着く。夕食を終え、自分の部屋に行く。日記を開ける。『今日は、繁華街に行った。父の出張の迎えに行くためだ』日記を見返す。ここ最近はリーとの出来事が多く書かれている。日記を開ける。『リーのお陰でこの10日間は英雄気分が味わえた。この体験で小説が終わらせられそうだ。ありがとう。さようなら』日記を閉じる。謎のアイテムを机にしまう。これは、“リーフラッシャー”と名付けよう。それでいいよね?グッドポーズをするリーが見えた気がした。