支えてくれるひと
毎日の練習がきつくて「辞めたい!!」と何度思った事か!!
でもその度に「あなたはまだやれるでしょ!!」なんて言って俺を止めてくれる人が居る。
初めての出会いは入学式の時だった。その人を見た時からとても目についた。
モデルかと思うようなスタイルに「ダサい」と有名なウチの制服を着こなして、黒くて長い髪が腰まで伸び、満開の桜を背にしながらまだ少し肌寒さの残る風に、その長い髪をさらりと流しグランドを向いていた。そんな姿が俺の目に焼き付いたのだ。
「綺麗だな」
そんな独り言を発していたことにすら気づかない程、俺はその人の事を見つめていた。
驚くことにその人は俺のクラスの人だった。でも話しかける事なんてできるはずもなく、入学式が終わってクラスに入っても周りに誰も知り合いのいなかった俺は、自分の席に座ってただじっと前を見ていた。
少し過ぎてから先生が入って来ると、まずは自己紹介の時間となって一人一人席を立ちながら自己アピールをする。この時に自分の今後の学校生活が決まると思うとかなり緊張する。出来る限りスクールカーストの下の方にはなりたくない。
そんな事を考えているとその人がスッと立ちあがった。その時に俺は「あ、この人は!?」と気付いたわけだけど、まさかこの後にあんなことになるとは思いもしなかったんだ――。
「一年!! 早くボールもってこい!!」
「はい!!」
放課後のグランドに大きな声が響く。
俺は入学初日からサッカー部に入部した。俺の他にも初日から入部した人が居て、その人たちと共に顔合わせが済んだと思ったら、その時点から新入生扱いが終わりを告げた。
それはめずらしい事じゃない。この時点から最下級生になったという事。つまりは先輩たちからしごかれる立場になったという事だ。
一緒に入った中には、スカウトされて入った人もいたみたいだけど、そういう事は関係なしに、何かあれば一年生全員が呼ばれ、いわれたことをこなさなければならない。
サッカーとはよく、『実力主義な世界』と呼ばれるがそれは試合の中でのこと。試合が無ければ実力があっても変わらないのだ。
ともあれ同じように雑務をこなしていると、そこに女子生徒が三人で歩いてくるのが見えた。その中の一人はなんとあの人だった。
「あれ? あなた……」
「え?」
その人は俺の顔を見ると少し首を傾げた後に、少し時間を置いてから何かに気付いたように表情を崩した。
「同じクラスだよね? わたし安積真理」
「え? あ、うん。俺は里仲恭吾だよ」
「そっか。同じクラスにもサッカー部に入る人いたんだね!!これからもよろしく!!」
ニコッとしながら右手を差し出してきた。俺はそれに一瞬びっくりしたが、本当に触って良いのかとびくびくしながら右手を差し出した。
彼女は俺の手をギュッと握り、ぶんぶんと数度振ると、「わたしマネージャ―だから」と言いながら、他の人たちと一緒にグランドの方へと向かって行った。多分一緒にいた人たちは同じくマネージャーさんなんだろう。
――そうか安積真理さんかぁ……。
意図せず彼女の名前とファーストコンタクトを取ってしまったが、それだけで仲良くなったわけじゃない。彼女もまた、顔を見かけた事のある俺にあいさつしただけだろう。
そう思っていたのだけど――。
「ちょっとそれ貸して」
「え? いいよ。これは俺たち一年の仕事なんだから」
「いいから貸して!!」
「は……はい。」
安積さんは俺や同じ一年生が、なにかを先輩から言いつけられるたびに、それが誰であろうと手助けしてくれた。
入部して2か月が経つ頃には、一年生として一緒に入部した人たちの半分が辞めてしまっていたこともあって、初めの頃よりも残った一年生の雑務は多くなっていた。それを何も言わずにスッと近づいて来ては手伝ってくれるようになって、俺たちは彼女の事を段々と頼るようになっていた。
そんな彼女でも――。
「こらぁー!! ここに置いたの誰!?」
「あ、ご、ごめん!!」
「いくら先輩でも、怒りますよ!!」
「今度はちゃんとするからさ!! ごめん!!」
間違った事や、いわれた事、ルールに従わない事をすると先輩だろうと先生だろうと容赦なく雷を落としていた。その姿を同じマネージャーの先輩は苦笑いしながら見ていたけど、なんというかこの頃から安積さんはチームメイトから信頼をされていたんだと思う。
「え~!? 赤点!? ダメじゃない!! 部活に出れなくなっちゃう!!」
「マネージャー教えてくれない? 助けてよ!!」
「もう……仕方ないなぁ~」
テストの後には成績の悪かった部員の為に、勉強を教えてくれることもあった。安積さんはその容姿もさることながら学業の方もとても優秀なようで、テスト順位の発表の際はいつも上位に入るのが常連だった。
周りに気くばりもできて、ダメな事はダメと言って断る。困っている人には周りから言わなくても率先して手助けをする。そんな姿をよく目にするようになった。
そんな学校生活が2年続く。
俺たちが最上級生に上がった頃には、誰がそう言い始めたのか知らないけど、安積さんはチームメイトや同じマネージャーから「姐さん」と呼ばれるようになっていた。
本人はそう呼ばれる事が嫌みたいだけど、俺はそれまでの安積さんを見て来たからか、とても合っている気がしていた。
そんな彼女が2度涙を流したことが有る。
一度目はなんとレギュラーにもなれず、ベンチ要員のままでいた俺に「好きよ。付き合って」なんて言葉で告白してくれて、俺がびっくりしながらもオッケーを出した時。
――自慢じゃないけどね。
安積さんが、先輩や同級生、そして年下の子達からまでも告白されている事は知っていた。そしてそのすべてにおいて、同じ言葉でお断りしていたらしい。らしいというのは同じサッカー部のやつから聞いた話が混ざっているから。その断り文句も凄くはっきり言っていた。
「ごめんなさい!!」
「え? マジ!? どうしてだよ!!」
「わたし、好きな人が居るから。その人以外興味ないの」
「…………」
これはたまたま目撃した安積さんが告白されている場面だが、相手にはかわいそうだけど、なんだか少しほっとしてしまう自分がいた。
この時はまだ自分がその『好きな人』だなんて思ってなかったけどね。
ずっと後のことになるけど、どうして俺を好きになんてなったの? なんて聞いた事がある。その時彼女は少し照れたように頬を染め、微笑みながら俺を見て――。
「あなたがあなただからよ」
「は?」
「あなたが、人一倍頑張ってきたところを見て来たから。レギュラーになんてならなくても腐ることなく、誰よりも居残りしてまで努力してきたのを見て来た。それでいて、他人に当たり散らすこともなく……ううん。周りに気を配りすぎるくらい自分を殺して、お世話してる姿がとても眩しく思えたのよ」
「あ、ありがとう」
聞いた俺の方が恥ずかしくなるくらい、彼女の言葉はまっすぐだった。
そしてもう1度は、俺たちが出られる最後の大会で、全国大会の一歩手前で負けてしまった時だ。
この時は誰憚ることなく、ワンワンと泣いていた。それにつられる様に俺たちも一緒に泣いた。
そこまで行けたのも、チームの為、皆の為を思って動いてくれてた人たちがいたから。そしてそれを引っ張っていたのは紛れもなく安積さんだ。
今だから言える。
「姐さんよく頑張ったね……」
そうして彼女はまた俺の胸の中でワンワンと泣き出してしまった。
――それから数年後。
「ちょっと!! いつまで寝てるのよ!! 起きないと遅刻するわよ!!」
「あぁ~うん……」
「ほら!! しゃきっとして!!」
俺の隣には妻になった真理がいる。
「ありがとう真理」
「何言ってるのよ!! 当たり前でしょう?」
今も『姐さん』だった頃と同じように、毎日支えられている――。
お読み頂いた皆様に感謝を!!
ちょっとてこずったのですが、無事に参加することが出来ました。
多分……内容は大丈夫……でしたかね? 男前ねえさんだったかな?
ちょっと作風的に現実恋愛か迷ってしまったので、ジャンル違いかもしれませんがご容赦をm(__)m