4‐3
会計を済ませ店を出ると、隣にあった建物がいつからかスーパーになっており、このスーパーも昔は何が建っていたのかあやふやになっていた。それに気が付いてから辺りを見回せば、町並みが大分様変わりしていることを改めて実感する。ふと気が引かれたスーパーで、裕也はガムとコーヒーと体脂肪を落とすと銘打たれたお茶とを買った。あれだけ食べておいてと自分でおかしくなったが、その自嘲はお茶と一緒に飲み込んでしまった。そして口臭予防と眠気覚ましの意味を込めてガムを口に入れると、再び温泉を目指して車に乗った。
それから目的の日帰り温泉に到着するまでの間、裕也は再び洋楽アルバムをかけ、口ずさみながら運転を楽しんだ。年に数日あるかないかという心労から解放されている時間を目いっぱい味わいながら。
やがて車は小高い山の上の温泉施設を目指して登って行く。ところが、いざ頂上の温泉の駐車場に着くと満腹も相まって、一気に眠気が強くなってきてしまった。ガムを噛んだり、風呂に入る前に車を降りて景色を楽しみながら歩いたりしたのだが、どうにも眠さが増すばかりでとても入浴どころではなくなってしまったのだった。
このままでは帰りの運転にも支障が出ると思った裕也は温泉に入ることは諦めて、車の中で仮眠を取ることにした。スマホの目覚まし機能に二時間後に鳴るようにアラームをセットする。コーヒーを一口飲んで、眠り過ぎないように自分に言い聞かせた。運転席の座席を倒して目を閉じる。するとまるで意識が解けるかのように、あっという間に寝入ってしまった。
◇
それから二時間後に裕也は目を覚ました。
少なくとも裕也はそう思い込んでいた。だからこそ、驚いたのだ。
ここに着いたのが昼食の後だったので、大体十三時半ころ。そこから二時間の仮眠を取ったのだから十五時半になっているはずだった。ところが、窓の外から見える景色は黄昏に染まっており、夕空がグラデーションを作っていた。
慌ててスマホを見ると血の気が引いた。何故かアラームは鳴らず、電子時計は無情にも『17:53』という数字の羅列を見せつけてくるだけだった。
十八時を目安に戻ると伝えていたが、どう考えても間に合うことはない。裕也は焦ってエンジンを掛けると急ぎ帰路に着いた。