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Mr.Faceless  作者: 音喜多子平
【4】Last daily life
8/57

4‐2

 エンジンをかけると、埃臭さが車内に広がった。フィルターも古く、きっと中は黴の温床になっているのだろう。


 裕也は出発する前にカーオーディオにCDを挿入した。CDはクリアケースに入っただけの無味なもので中身が何であるのかが全く分からなかった。このようなCDが裕也の部屋には山のようにある。こうした一人の時間を楽しむときや落ち込んで音楽を聞きたいなと思うときに、裕也は長年ダビングしてきた無地のCDを棚から適当に引き抜き出し、まるでおみくじのように音楽から何かしらのメッセージを勝手に受け取るような趣味があった。


 程なくしてスピーカーから音楽が聞こえてくる。イントロだけで誰の曲がピンと来た。そしてその歌詞の内容と今の自分の心情とが重なってしまい、裕也は一人で笑ってしまう。


 そして車内にBon Joviの『Livin’ On A Prayer』を響かせた一台の軽自動車が静かに動き出したのだった。


 それからのドライブはとても快適なものとなっていた。操には悪いと思ったが、このような機会にうんと羽を伸ばしておかないと潰れてしまいそうになるので、裕也は精一杯楽しむことにした。


 トイレ休憩がてらに立ち寄ったサービスエリアで気ままに買い食いをしたり、最寄りのジャンクションの一つ手前で降りて一般道をのんびりと進んでいく。家では到底できはしないが気持ちよくCDから流れてくる曲に合わせて歌を歌ったり、ちょっとした気まぐれでバッティングセンターに立ち寄ってみたりと、まるで学生時代に戻ったかのように自由奔放、風の向くまま気の向くままに運転をしていた。


 そして色々と目移りしてしまう自分を戒めつつ、本来の目的であった両親の墓参りを済ませる。寺の住職に簡単な挨拶をした後に車に戻って時計を見てみると、少し早めに出た事と道が思った以上に空いていた事もあって正午にすらなっていなかった。


 昼食を考える前に、裕也は無性にどこか見晴らしのいいところ行きたいという欲求にかられた。何故そう思ったのか、それは誰にもわからない。早く家に戻った方が心証はいいのだろうが、今更そんな程度で本家の人間たちが裕也に対する態度を改めるとは到底思えなかった。どう転んでも嫌味を言われるのなら、こんな日くらいは楽しんでから帰っても罰は当たらないだろうと思ったのだった。


 寺の駐車場の中で、これからどこに向かおうかと十五分程度、思案していた。


 やがて裕也は、ここから車で一時間ほど走った先に日帰りの温泉施設があったことを思い出した。ゴールが定まると、地元の事だったので次々とそこに至るまでのルートと道すがらどんな店や施設があったのかが、水から出る気泡のようにどんどんと浮かんできた。その途中には学生時代に、一番通っていたラーメン屋もある。昼時で混んでいるかも知れないが、思い出したが最後、無性に食べたくなって仕方がなかった。裕也は高速道路を途中で降りた事や、バッティングセンターなどに立ち寄った午前中の自分を呪いながら、車を走らせたのだった。


 一つ目の目的地になったラーメン屋は案の定、昼時という事もあってかかなりの繁盛を見せていた。それでも裕也の学生時代から流行っている店なので、少なくとも二十年は営業を続けている計算になる。こちらの方にやってくるたび、いつも失念してしまって家についてから、行けばよかったと思い出す裕也にしてみれば、今日は忘れずに立ち寄れたことは僥倖だ。


 朝食を少し早めに食べたせいで空腹だった裕也は、年甲斐もなくラーメンにあんかけチャーハンと餃子まで頼んだ。少し腹は苦しくなったが、全て平らげられた自分にまだまだいけるじゃないかと妙な自信が湧いてきた。

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