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見れば始めからそこにいたと言わんばかりの自然体でMr.Facelessが立っていた。というよりも上から降ってきたのだ。チラリと頭上を見れば、境内に植えられた並木が風もないのに揺れていた。そこから飛び降りてきたと言うのは簡単に予想が付けられる。
妖気がないというのは知っていたが、こうして対峙してみると生き物としての気配もほとんど感じられない。巨木の上から飛び降りて無事な体やほぼ無音で着地できる身体能力などはとても人間とは思えない。妖怪を相手取ることが日常の悠にしてみれば、ある意味で化け物以上に化け物といえる。
「妖怪以上に神出鬼没ですね」
すると、集まっていた一同の心を代弁しながら、操が二人の下に近づいてきた。
途端にざわめきが生まれ、警戒と好奇がコントラストとなった。
「ホントにきた」
「やあ」
神邊家の中で最もMr.Facelessに好意的だった夏臣が人懐っこい声を出すと、Mr.Facelessは陽気に返事をした。それだけで何人かの門徒は毒気を抜かれた様だった。
「ここに来たと行くことは、協力を仰げるということでよろしいんですね?」
「こちらとしては何のデメリットもないですから」
そう言ったMr.Facelessは承諾と友愛の意味を込めて操と握手を交わした。途端に門徒や子供たちは無意識的に安どのため息をつく。
「本題に入る前に興味本位で聞きたいのですが…答えたくなければ構いませんけど」
「Yes?」
「何故、英語を交えて話すのですか?」
「ちょっとした癖というか、キャラ付けみたいなもので」
Mr.Facelessの中には、いっそのことこのタイミングで正体を明かしてしまえばいいのではという葛藤と迷いが生まれた。しかし、その答えを導き出す前に夏臣が二人の間に割って入り、爛々と輝かせた眼差しと共に質問してきた。
いつも厳しく言っていた母親がMr.Facelessの介入を認めた事で、夏臣は自分の好奇心を優先させる名目を得たのだった。
「じゃあさ、その変な能力はどうなってんの?」
「言っても信じてくれないと思うよ」
「どういうこと? 悪魔と契約した闇の魔法とか? それとも…」
などと年相応な発想で手当たり次第に妄想を膨らませてくる。裕也はアシクレイファ粘菌の下で微笑みながら全てを否定していった。その中で密かに息子とサブカルチャーな話ができている事に喜んでいた。裕也とてアメコミ好きな性分なのだからそう言った話題で息子とコミュニケーションを取りたいと願っていたのだ。
そしていよいよ夏臣の弾がなくなったところで、実は、と前振りをして真実を語った。
「実は宇宙人に身体を改造してもらったんだ」
「はあ?」
夏臣の反応は尤もだと裕也も共感した。自分を客観視すると、そもそもこの状況を受け入れている自分も如何におかしいのかと自虐的な感情が湧いてくる。他人が聞けばからかわれていると感じるのが関の山だろう。




