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Mr.Faceless  作者: 音喜多子平
【10】Unlikely Aid
41/57

10‐4

 ◇


 そして翌日。


 雨込神社は物静かながらも、やけに高揚感や期待感の漂うところとなっていた。


 この神社は真鈴町の中で最古の歴史を誇る由緒正しい神社である。敷地面積もかなり広く、普段妖怪退治に繰り出される神邊一門が百人から自動車で集結しても駐車場を埋め尽くす事すらできていない。


 一団は事あるごとに各々が時計を見ては浮足立っていた。


 時刻は午前0時52分。


 操とMr.Facelessとの約束は一日のうちに知れ渡ることになり、ある者は期待に胸膨らませ、またある者は不安に苛まれながら時計が午前一時を刻むのを待っている。とは言え過半数以上はMr.Facelessに対して好意的な考えを持ってはいない。いや、そもそも好意か敵意かすらほとんどがはっきりさせることができないでいた。それほどまでにMr.Facelessについては謎が多すぎるのだ。


 そんな中、黒塗りの高級車の上に乗って胡坐をかいていた夏臣は、車にもたれかかるようにしていた姉の悠に向かって何の気なしに聞いた。


「姉ちゃん」

「何?」

「来るかな、Mr.Faceless」

「さあ? ま、来てくれた方が面白そうだけど」

「…うわー」


 夏臣は意味深なため息をつきながら珍しいモノを見た時の顔になった。悠はその表情が妙に気に障り、少々苛立ちを混ぜた態度で応じる。


「何、その顔」

「いや、何かいつものクールな感じじゃないから。ワクワクしてる姉ちゃんの顔って初めて見たかも」


 そんな事を口走る弟に悠は鼻で笑うかのようなため息をつくと、ついでに冷ややかな眼光を向けて言い返す。


「馬鹿じゃないの?」

「そう! それそれ」


 二人がじゃれるような雰囲気を出していると、末の双子の千昭と冬千佳も加わってきた。双子の相手を夏臣に押し付けた悠は少し距離を取ってから時間を気にした。


 母親が指定した時刻まであと三分弱。だが来る意思があるのなら既に来ているのではないかとも思っている。事実、このギリギリの時間になってもやってこない様子に大半の者が提案を反故にされたのだと感じていた。


 先ほど夏臣に言語化されるまで、悠は自分の中に芽生えた好奇心というか、ある種の興奮を見て見ぬふりをしていたのだと思い知らされていた。弟の言うように自分らしくはない心情だ。


 悠は自己分析はできる方だという自負はあった。だからこそ、このワクワク感とそれに気付かないふりをしていた自分に驚いていたのだ。世間で言えば女子高生として学校に通う年齢ではあるが、家の事情で普通とは言えない生活を送ってきた。そんな中にあっても友人と呼べる友達は何人かいるし、誰にも打ち明けてはいないが人並みに恋だってしている。


 普通ではないと自覚している分、時折世俗的なことに関心を示して浮かれてしまう自分の事を悠は少々疎ましくさえ感じていた。


 それなのにも拘らず、何故かMr.Facelessに対して抱く期待感にはいつもの疎ましさを感じないのは何故だろうか。


「こんばんは」


 その時、後ろから等々に声を掛けられた。悠はキャっという短い悲鳴を上げ、持っていたスマートフォンを何とか落とさないように堪えるのが精一杯だった。

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