10‐2
◇
まるでロケットのように飛び上がってきたMr.Faceleeは冬千佳を抱きしめたままに、逃げようとする大梟へと向かい掛かった。彼の足はチューイングガムのように伸びており、その先端には投げ出された屋上の資材が鳥もちのように絡めとられている。
Mr.Faceleeは身体をひねると、その鳥もちをフレイルのように使って大梟へと打ち込んだ。それはべったりと身体に張り付いて身動きができないように封じる。梟は先程以上の抵抗を見せたものの、そんな抵抗は気に留めることすらなく、Mr.Faceleeの足の力で屋上へと無理矢理に叩きつけられてしまった。
折れたり、壊れたり、弾かれたりと資材が散らばる中によろよろとした大梟だけが残されている。
華麗に着地を決めたMr.Faceleeは冬千佳を優しく降ろすと無言のままに操を一瞥した。そしてよろめきながらも動き出した大梟にトドメを刺すために構えを取った。
「駄目です」
そんな時、操は両者を隔てるように真ん中に入って彼を止めた。この妖怪は通常のそれとは少々勝手が異なる。単純に退治してはならない理由を操は掻い摘んで説明し始めた。
「この梟は『たたりもっけ』という妖怪です。空を漂っている子供の霊魂を身体に貯め込む習性があります。無理に退治してしまっては、取り込まれた子供たちの魂も壊してしまいます。それは別の妖怪を呼ぶエサになったり、その子供の霊魂そのものが悪霊化するケースもある…だから退治してはダメなんです」
Mr.Faceleeは「すみません」と短く、小さな声で詫びを入れた。
すぐさま操は冬千佳に声を飛ばし、子供たち全員に再び結界を張り、封印をする用意を促したのだった。
しかし、少々のダメージが入っているとはいえ相手は妖怪だ。体勢を立て直したたたりもっけは先程と同じように風を起こして神邊家の妨害を計った。
屋上の全てを排斥せんばかりの勢いで強い大風を起こす。冬千佳ばかりでなく、他の子供たちも操も結界ではカバーしきれない程の猛攻だった。とはいえども、前とは状況が違い過ぎる。
Mr.Faceleeは微塵も臆することなく、神邊家のサポートに徹した。飛散する資材を悉く絡めとり、操と子供たちに危ないと感じさせることすら許しはしない。封印術に神経を注いだ五人の連携と術は見事という他なく、あっさりとたたりもっけを小さな小瓶のようなものに封じ込めることに成功した。
封印が終わると下の階や周囲のビルにいた門徒や野次馬達の感嘆と賞賛の声が、風に交じって微かに屋上まで届いた気がした。




