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「え?」
「私があなたと接触を図ったのはあなたを止める為です」
「止める,
為…?」
「ええ。身勝手な妖怪退治を即刻辞めてください」
内臓を直接に刃物でズタズタにされ体内に出血が広がっている。裕也はそんな感覚に陥った。急速に口の中が渇いていき、うまく声が出せない。一瞬、喋り方を忘れてしまったのかと思った。
「ちょっと待ってくれ。身勝手って言うのはどういうことだ? 今の戦いを見てくれただろう。t確かにあなた達のような霊能力はないが戦える。あなた達とやり方は違うかも知れないが、」
「戦い方をどうこう言っているのではありません。私はあなたの戦う姿勢がダメだと言っています」
「戦う姿勢?」
意味が分からない。通常通りに頭が働いていたとしても、操の言葉の真意は測りかねていた事だろう。
「身勝手と言った意味がよくお分かりでないようですね」
「…ああ。わからないね。退治屋の中で縄張りでもあるのかな?」
ふっ、と鼻で笑う吐息が聞こえた。
「そんな事を言っているのではありません。神邊一門の末席に加わったばかりの新米でもできている心得があなたにはできていないと言っているんです」
操はスタスタとこちらに歩み寄ってきた。敵意もなければ好意も感じられない。感情の起伏がないせいで、顔はあるのに彼女の方がよほどのっぺらぼうに見えた。
「貴方と同じように術を磨き、神邊一門に加わりたいという者は後を絶ちません。けど彼らは私達と戦いたいから門を叩くのではありません。街や人を守りたいという考えからやってきています」
「そ、それは言葉の綾だろう。そんなものは当たり前の上で一緒に戦いたいと言っているんだ!」
「口ではどういっても、あなたは心の底からそう思っていませんよ。今の戦い方を見ていれば分かります。あなたは自分の為に力を振るっている。その上、相手を蹂躙する事にも快感を感じているでしょう。今の戦いも退屈だと思っていたのではありませんか? 」
「…」
「あなたは守るよりも戦うために戦おうとしています。さらに言えば自分の力をこれでもかと誇示しているみたい。そのよく分からない姿と力は生まれもったものでなければ、努力や訓練で身についたものではない…ごく最近になって突発的に授かったものではないですか?」
「う」
ズバリ図星を衝かれ、言葉に詰まってしまう。操の持つ才能は霊能力に留まらない。勉学や運動力、観察眼や考察能力などなど天は二物を与えず、などという諺が馬鹿馬鹿しいモノに聞こえる程の一傑だという事を再認識させられた。




