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「澄好団地か・・・」
それは須丹区に存在する廃団地の名前だった。
この辺りは神邊の屋敷がある地区と比べれば見劣りするものの、それでも名の知れた高級住宅地だ。新興住宅や施設がどんどんと建築されている中で、その澄好団地は異質なオーラを放っている。再開発のために昭和時代に建てられたほとんどの建築物や民家は買収された後に更地にされるか、新しい家や施設が建ち並ぶ。
しかし買収が進む一方で、立ち退きをしたのにも拘らず買い手が付かないで空き家が残るばかりの一角が存在していた。きらびやかな都会の一等地にありながら、そこだけ時間に取り残されたような雰囲気が残る。澄好団地はそんな廃墟廃屋の親玉とも言えるような巨大な廃墟だった。
操は子供たちと一門の教導役の数名に慣れたように指示を出した。操を除き四組に分かれた神邊一門は澄好団地の敷地内を取り囲むように配置についていく。数分の後、操は錫杖を固く握りしめて一人団地の中に入っていった。
裕也は神邊一門が団地を取り囲み始める少し前にそれを予見すると、いち早く近くのマンションの屋上から飛び出して団地の中に忍び込んでいた。
あの様子を見るにこの団地に巣くう妖怪の退治は操に一任され、万が一の取りこぼしを無くすために四方を取り囲んだと見ていいだろう。つまりは操と二人きりで話ができる絶好の機会が訪れたということ。
その事実に裕也は心躍った。
するとその思いに答えようとしたのか、肌に抽出させているアシクレイファ粘菌に反応があった。どうやら自分のいるよりも下の階に目的の妖怪がいるらしい。元興寺は齧った程度の知識しかないが、伝承を鑑みるに大きな警戒が必要な妖怪ではない。どうやって戦うかよりも、むしろ操との接触にどう利用すべきかという事の方が重要だ。
ともかく元興寺を見つければ遅かれ早かれ操と会う事ができる。できることなら共闘を願いたいところだが、ここからさきは行き当たりばったりでこなすしかない。
裕也はアシクレイファ粘菌の反応に身を委ねて、下の階へ降りていった。




