6-6
◇
裕也は人目を忍んで人家の屋根や建造物の壁などの道なき道を通って、真鈴町の我が家へと何食わぬ顔で戻ってきた。帰宅したとは言え、裕也には掘っ立て小屋の自室に籠り、翻訳の仕事をするくらいしかやることがない。操がいない間に母屋をうろついてしまって、万が一にでも誰かに見つかれば義母へ告げ口をされ、いらぬ小言やいびりを受けるのだ。
今の裕也は行きのタクシーを使ったよりも早い時間で戻ってくる事ができたので暇を持て余していた。超人的な身体能力を駆使して、木々や屋根を飛び越して山からほとんど直線的に自宅に辿り着いていたので、それは無理もないことだ。
だが、幸いと言っていいものか。今の裕也には時間がいくらあっても足りない程に、やりたい事が出来ていた。そう思うほど、頭の中によぎるアシクレイファ粘菌の性質とその用途には魅力が詰まっている。
部屋に戻った裕也は押し入れの中に長年しまい込んでいた物の数々を取り出し始めた。記憶が間違っていなければ、自作のヒーローを書いていたノートを捨てるに捨てられず後生大事に持っていたはず。その他の思い出の品々と一緒に段ボールの肥やしにしてしまっているが、ひょっとしたら捨ててしまったのではないかという不安にも駆られていた。
けれどもそれは杞憂に終わった。
奥の方で埃をかぶっていた段ボールを空けると、その底の方から一冊の大学ノートがでてきた。表紙には少々粋がった字体で「HEROES I THOUGHT ABOUT(俺の考えたヒーロー達)」と書かれている。今見返せば恥ずかしくもなったが、どちらかというと懐かしさの方が強く心から滲み出てきた。
パラパラとノートをめくっていく。そこには正しく中学生が一生懸命、それでいて真剣に妄想を重ねた末に生まれたヒーローが1ページずつ書きこまれている。ご丁寧に細かな設定や必殺技まで乗っていて、そのほとんどは覚えてすらいなかった。
自分で自分の愛くるしさに思わず口角を上げると、探していたお目当てのヒーローのページを見つけた。




