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夢中になり飛び回っていたせいか、裕也は気が付くと修行用の山を軽々と越えて真鈴町の見えるところまで戻ってきていた。
時刻や場所柄のせいで車は数える程も通らないので、舗装された道路に降りてみることにした。すると数歩歩いた先にカーブミラーが設置してあり、裕也は初めてアシクレイファ粘菌で全身を覆った自分の姿を見た。
その洋服を着て、鈍色の光沢を放つのっぺらぼうのような姿に、裕也は何故か既視感を覚えていた。
どこかで見た事がある…。
(…どこだ? どこで見たんだっけか)
少しずつ、少しずつ記憶を遡って行く。それは子供たちが生まれるよりも、結婚をするよりも、操と大学で出会うよりももっと前の記憶へと辿り着く。
「…そうだ」
裕也は思わず呟いていた。
中学生の頃の誰にでも思い当たるような、懐かしく、それでいて気恥ずかしい記憶の一つ。
友達に借りたアメコミに嵌り、読み耽っているうちに妄想と想像が膨らんで、勝手に作ってみたヒーローがいた。授業中や休み時間にノートに書いていた自作のヒーローだ。あの時は画力が足りなくて、ヒーローの顔が上手く書けずにいた。だから開き直って『顔のないヒーロー』を書いて良しとしていたのだ。それでも十分に楽しかった。
裕也はそこまでは思い出せたのに、肝心のそのヒーローの名前が思い出せないでいた。喉まで出かかっているのに、どうしたって出てこない。
そうしている内に、後ろから一台の車が近づいてくることに気が付いた。こんな風貌の奴が道路に立っていたら、最悪事故を起こしかねない。そう思った裕也は大きくジャンプして再度森の奥に消えていく。
「なんて名前にしてたんだっけかな・・・?」
そして外出している時間もそう長くは取れないと、今更ながらに焦り出し、家に戻るために道なき道を急いだのだった。




