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Mr.Faceless  作者: 音喜多子平
【6】The Birth of Mr.Faceless
14/57

6‐1

 裕也は起きてから時計を見た。高熱にうなされた翌朝のような心持だった。


 時刻は18:49となっている。夜に動く稼業である神邊家は一日の家事を始める時間も昼夜逆転している。裕也や退治業に出ない隠居組、家政婦たちは日頃18時頃に起き出しては、街に繰り出す家人を送る支度をするのだ。つまり裕也は一時間近く、寝過ごしてしまったという事になる。


 いつもであれば青ざめて急ぎ駆け出す裕也であるのだが、例の夢のせいで頭も心もいっぱいいっぱいで、焦りが入り込む隙間すらならかった。


 台所に辿り着くと、やはり既に他の家人たちは食事の支度をしたりと動き出している。


 全員が遅れてやってきた裕也に冷ややかな視線を送ってきた。皆すぐに目を逸らし、自分の仕事に勤しんだが、義母だけがこちらに近づいてきた。


「遅いですよ、裕也さん」

「すみません」

「退治屋家業には毛程の役にも立たないのですから、せめてそれを支える家事くらいはまともに務めてもらわなければ困ります」

「・・・はい」


 裕也の生返事が返って功を制したのか、義母はそれ以上は叱咤や嫌味を繰り返すことはなかった。


 すぐに支度している者の中へと加わった。とは言っても既に粗方の仕事は終わっていたので、ゴミの処理や洗い物、台所の掃除などの汚れ仕事をせっせとこなしていた。


 その内に台所へ操が顔を出してきた。家政婦たちは恭しく頭を下げたが、操は裕也も含めて態度を変えることなく全員に明るく挨拶をした。


 すると操がちょいちょいと手招きして裕也を呼ぶ。


「お早う、裕也さん」

「操さん、お早う」

「身体の具合はもういいの?」

「うん。お蔭ですっかりよくなったよ。心配かけてごめん」

「それならいいんだけど」


 ◇


 やがて神邊家の朝食、一般の家庭であれば夕食となる食事を済ませる。部屋の中には裕也と操と義母の三人がいた。他の家人や、子供たちは裕也の事を忌み嫌っているので、基本的には別の部屋で食事を取る。


 義母の目が光っているので、こんな時でも裕也と操は気軽な会話も楽しむことは出来なかった。


 そうして食事が済むと、操や子供たちは夜の見回りと妖怪退治に向かうべく、玄関へと集まってきた。例によって裕也だけが洋装で送り出しているので、大分浮いている。


「みんな、気を付けてね」


 裕也の声は操にしか届かない。子供たちはまるで気にせずに、玄関を出て前に待たせてある車に乗り込んでいった。


 やがて操たちを乗せた車が門を出て町へ繰り出すと、今度は修行中の門下生たちが見廻りに出る支度をし、続々と玄関から出ていく。


 操や子供たち、または本家筋でなくとも特に霊力が強く素質ある者は、毎晩繁華街へと繰り出して、妖怪の悪事を防止、もしくは退治によって解決をする。妖怪共は人があまりに多い場所には力が弱まるため滅多に現れることはない。逆に言えば街中に堂々と現れる妖怪はそれだけ妖力が高く、危険度も跳ね上がるのだ。


 修行者や中級程度の実力を保持している退治人たちは、専ら郊外へと見回りに出向き、小物を狩り、大妖怪にならぬように阻害をしたり群れを散らしたりなどして、人気のないところで妖怪が力を蓄えられぬように目を光らせる任を預かっている。そうやって実践的な術や妖怪との戦い方を学ぶ。


 なので夜になれば、戦えぬ隠居達と家事を行う家政婦達とが屋敷に残るばかりになる。そこで裕也は外出する旨を申し出た。どの道この家にいても、裕也にはやることもないし、あったとしてもまともにさせてはもらえない。


 昔は妻子に仕事をさせて、のうのうと家を空けて…などという小言が飛んできていたのだが、今となっては諦めたのか、それとも理由はどうであれ裕也には家にいてもらわない方がせいせいすると思っているのかは分からない。

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