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裕也は蔵の隣の個室に戻った。この屋敷に操ごと連れ戻された当初は同じ部屋で生活をしていたのだが、夜な夜な出掛ける操に気を使ったり、妖怪退治に僅かの助力も叶わない事に気まずさを感じていた裕也は、いつしか家庭内別居的に蔵隣の小屋を自室として使っていたのである。部屋に着くと裕也は着替えることも、布団を敷くこともせず畳の上に倒れ込むようにして寝入ってしまった。
解けるように眠った裕也だが、不思議と意識のようなものが残っていた。まるで同時に自分を俯瞰で見ているかのようだった。何故か荒い呼吸も冷や汗をかいている感覚も鮮烈に伝わってきているのに、眠っているので身体は動かせない。
明晰夢って奴か…な?
裕也は冷静に頭の中でそんな事を思っていた。
すると、にわかに夢の中の世界が一変してしまった。墨よりも黒い闇の世界に、突如として放り込まれてしまったのだ。だが恐怖感はまるで湧いてこない。自分が石や物のように心無い無機物にでもなったかのように心はひどく穏やかだった。
「…ここは?」
それでも浮かんだ疑問を口にする。すると、それに返事がきたのである。
『私どもが作った精神空間です。あなたが最初に眠った時に再生されるように施してありました。現在睡眠中のあなたの精神に声が流れています』
「…っだ、誰だ?」
『混乱もおありでしょうが、あなたの身に起こった事を一から順に説明させて頂きます』
そこには、あの山中で見た緑色の光の玉が浮かんでいた。じっと目を凝らせば、やはり機械的な箱のような形状だと認識できた。そして裕也がそれを認めると、映画のダイジェストの如くの映像と情報が、一片に頭の中に叩きこまれるかのような現象が起こった。
裕也はそれを一つ一つひも解くように徐々に理解していった。




