第8話 コーヒーへの評価
「ちゃんと来たのね」
昨日と同じく、窓際の机の前の椅子に座り本を読んでいた九条院美星乃は、そう言って顔を上げると、秋努のことをしっかりと見た。なので、
「ええ、勿論です!」
秋努は力強くそう答えると、部屋の奥の方に居る美星乃の傍へと歩いて行った。そして、
「それでは、今日のコーヒーです。味見の程をよろしくお願いします」
「……ええ、分かったわ」
美星乃はそう答えると、コーヒーが入ったカップを持ち上げて、ゆっくりと香りをかいだ。そして、
「それじゃあ、頂きます」
美星乃はそう言うと、秋努が作ったコーヒーを一口、ゆっくりと飲んだ。そして、彼女がコーヒーを味わっている間、秋努は緊張した面持ちで、彼女が感想を口にするのを待っていた。そして、
「驚いたわ、まさかたった1日でここまで進歩するとは、正直思ってもみなかったわ」
美星乃はそう言って、素直に褒めてくれた。なので、
「そうですか、ありがとうございます」
それを聞いて、秋努は安心した様子でそう言った。そして、折角いい感想をもらえたのならもう一歩、少し怖いが踏み込んだことを聞いてみたいと思った。なので、
「因みにですが、このコーヒーに点数を付けるとしたら、何点くらいですか?」
秋努は、恐る恐るそう聞いた。さすがに1日修業しただけの自分に、そんな高得点は付かないだろうとは、秋努自身思っていたのだが。
それでも現状、自分がどれくらいの位置にいるのかを秋努は知りたいと思った。しかし、その言葉を聞いた美星乃は、
「聞かないほうが、貴方のためだと思うわよ」
と、秋努に気を使ったのか、そんなことを言った。しかし、
「厳しいことを言われるのは分かっています。ただそれでも、今の自分がどれくらいの評価をもらるのかを知りたいんです。だからお願いします」
と、はっきりと言った。そう言われて、美星乃は少し悩む素振りを見せたが。
「そう、そこまで言うなら遠慮なく言わせてもらうわ」
そう言うと美星乃は、一度言葉を切り。
「このコーヒーの評価は、そうね……貴方の頑張りも評価して10点と言うところかしらね、勿論100点満点中のね」
「……10点」
その言葉を聞いて、さすがの秋努も少し動揺していた。たった一晩とはいえ、秋努としては精一杯、美味しいコーヒーを作れる様に努力したつもりだったのだが、どうやらその程度の努力では、彼女を満足させる結果には、至らなかったらしい。すると、
「因みに、昨日のコーヒーの評価も聞きたい?」
と、美星乃はそんなことを聞いてきたが。
「いえ、いいです」
と、秋努は答えた。すると、
「そう、ならいいわ」
と、美星乃は特に気にした様子もなくそう言った。そして、
「それで、明日はどうするの?」
美星乃はそんなことを聞いてきた。なので、
「えっと、何がですか?」
と、秋努は聞き返した。すると、
「コーヒーの評価のことよ、今日の私の言葉を聞いて、もう私の評価を受けたくないというのなら仕方がないけど、こんな辛口の評価でもいいのなら、明日もしてあげるわよ」
美星乃はそう言った。その言葉を聞いて、秋努は少し悩んだが、それでも直ぐに。
「分かりました、こんな腕前ですが、それでもいいのなら、明日もよろしくお願いします」
と秋努は答えた。
「ええ、分かったわ。それなら、明日も同じくらいの時間にお願いするわ」
「分かりました。それでは明日もよろしくお願いします」
秋努がそう言うと、美星乃は言いたいことは言い終えたのか。残りのコーヒーをゆっくりと飲み始めた。
そしてその間、秋努は美星乃がコーヒーを飲み終わるの黙って待ってから。
空になったコーヒーをお盆の上に乗せて、美星乃が座っている席から離れた。そして、
「失礼しました」
そう言って、部屋を出てドアを閉めていたところ。
「……こんな評価をしておいてなんだけど、貴方には期待しているわ。今後も頑張りなさい」
「え」
不意にそんなことを言われたが、突然の出来事に秋努は何も反応することが出来ず、そのままドアを閉めたのだった。