ナイチンゲイル(前半)
「殺すのですか……?」
俺は、ルカ・チェンバース准将の命令に耳を疑い、彼女の目を見つめる。
彼女の深い青色の目は、笑いもせず、かと言って悲しんだりもせず、ただ蛍光灯の光を反射し、鋭く輝いているだけで、その命令が冗談ではなく真剣なものであることを物語っている。
「ええ、SMPは連邦政府の射殺命令を無視してオリジナルをかくまった。ジッターの戦略的利用を目論んでいることは間違いないわ。恐らく、あの子のことも利用する。だから、私は全てを終わらせなければいけないの」
彼女は、椅子に腰を下ろすと、両肘を机につき、顎の下の高さで両手を組んだ。彼女のこの癖は、何か彼女の中で何か大きな決意をしたときのものだ。
「分かりました。ご命令とあらば」
俺は、右手を左の掌で包み込むと、力を込めた。右手の指の関節が軋む音が部屋に響く。
「いえ、やっぱり生きたまま私の所へ連れてきてちょうだい。レイナは直接私の手で処分しなきゃいけないの。それが彼女を創った私の責任だから」
「分かりました。連れて参ります」
俺は、後ろを振り返ると、ドアノブに手を伸ばし、部屋を後にしようとした。
「バートン大尉」
背後から発せられる彼女の声にドアノブに伸ばした手を止める。
「何でしょうか?」
「レイナのジッターとしての力は未知数よ。油断しないで」
「分かりました」
俺は、止めた手を再びドアノブに伸ばすと、部屋を後にした。