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ジッター  作者: 文月 雪花
第2章
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銃と花(後半)

 目が覚め、身を起こし、私は隣に目をやる。

 隣にある毛布の膨らみは、昨日私にブラスターを突き付けられ、殺されかけたにも関わらず、私の隣で静かに寝息を立て、膨らんだりしぼんだりしている。

 ユウキ・ロレンツの話によるとまだ私の部屋は用意されていなく、仕方なく彼女の部屋で一晩を過ごすこととなったのだ。

 しかし、私には、このまま彼女と一緒にいる気はなかった。

 ベッドから出ると、寒さが突き刺さるように今朝は冷えている。私は、タンクトップのままなのに気づいた。何か、羽織るものが欲しい。

 辺りを見回すと、部屋の奥にクローゼットがあるのに気が付く。

 私は、クローゼットの方へ歩いていくと、扉を開け、中を物色する。

 そこにあったカーキ色のトレンチコートに手を伸ばす。他のと比べ、丈が少し短いので小柄な私でも着れると思った。

 私は、トレンチコートに袖を通す。少し袖がぶかぶかだが、着れなくはないようだ。

 袖を通しきると、あばらに何か硬いものが当たる。内ポケットに何か入っているようだ。

 私は、内ポケットに手を入れ、それを取り出した。

 私が手に取ったものは、拘束されたときに没収されたマテバオートの5インチモデルだった。これは、ジャンが私に遺してくれた数少ない形見だ。シリンダーを横にずらしてみると、ご丁寧に44マグナム弾が6発すべて込められている。

 どうやらユウキには私がこのコートを手にすることが分かっていたようだ。なにか小馬鹿にされているようで気に食わない。

 昨日は言い包められてしまったが、銃殺を逃れることができた今、彼女を生かしておく理由はない。

 私は、マテバを手にしたまま、ベッドへと戻っていく。そして、毛布を捲った。

 そこには、ユウキが下着姿で右半身を上にし静かに肩を上下させ、眠っている。

 私はマテバの撃鉄を起こす。シリンダーが小さく音を立て回転する。

 私は、ゆっくりとマテバの銃口をユウキの頭に突き付け、引き金を引き絞ろうとした。

 その時、彼女の唇が小さく動いた。何か寝言をいっているようで、両目からは、涙が一粒、彼女の白い顔の皮膚を伝い、窓から差し込む朝日を反射し、輝きながらベッドへと消えていった。

 そこにジャンを殺した時のような笑顔はなく、その泣き顔は、どこかで見たような面影だったが、それが誰の面影だったのか思い出せない。

 何とも言えない不快感が胸から込み上げ、私は彼女を殺す気をなくしてしまった。

 私は、コートの内ポケットにマテバをしまうと、ベッドの横のテーブルの上に箱詰めの44マグナム弾と申し訳程度の金銭を見つけ、それを床に転がっていたボストンバッグに詰めて部屋を出ていった。


 戦争の後とはいえ、帝都は戦火を免れており、街並みは普段と変わらない姿をしているが、通りにはSMPのジープや自動小銃を抱えた連邦政府軍の駐屯兵が行き来しているのが、戦争の後を物語っている。

 私は、ボストンバッグを肩に下げ、通りを歩く。ようやく日が高く上り始めたが、気温はまだ上がりきってなく、吐き出す息が朝日に白く輝く。

「お願い!ママを探しているの!ママはどこにいるの!?」

 通りは様々な音で溢れかえっていたが、その少女の声だけが嫌に耳に響いた。

 声の方を振り向くと、通りのビルとビルの間の2メートルほどの細い通りの入り口で、少女が4人の連邦政府軍の制服を着た男たちに囲まれ、ビルの壁へと追いやられ、着ていた上着を引き剥がされると、白いブラウスのボタンを外されていた。

 今まさに汚されようとしているのに、自身の身を顧みず、少女が自分の母の居場所を尋ね続けているのに私は引っ掛かりを覚えた。

 私は、コートの内ポケットからマテバを抜き出すと、銃口を男たちの方へ向け、歩み寄っていった。

「なんだぁ?てめぇは?お嬢ちゃんのお友達かい?」

 男たちは、粘っこい薄ら笑いを浮かべると、腰にぶら下げていたブラスターを抜き取り、私に銃口を向け、発砲する。

 その瞬間、時間が止まったように感じる。私は、ブラスターから発砲されたレーザーがゆっくり向かってくるのを避けつつ、マテバの引き金を4回引く。

 銃口から4回マズルフラッシュが輝くと、男たちの頭に穴が開き、ザクロのような脳漿が辺りに散らばり、男たちは全員その場に倒れた。

「ケガはないか?」

 私は、尻餅をついている少女のもとへしゃがみ込むと、少女の状態を確認した。

 朝日に照らされる白い肌に目立った外傷はなく、どうやら男たちに汚されてはいないようだ。

「……」

 少女は、私の質問に答えることなく、ただじっと私の目を見つめていた。

 私を見つめるその少女の茶色い瞳は、どこか私に怯えているようであった。

 私は、少女の黒い長髪に土埃が付いているのに気づき、そっと払いのけてやろうと手を伸ばすと、少女は、私の手を払いのけ、キッと私を睨みつけたかと思うと、視線を私の握っているマテバに落とす。

「これが気に食わなかったのか」

 私は、マテバをコートの内ポケットにしまった。

「ところであんた、名前は?」

「人殺しに名乗る名前なんてないわ。銃を持ってる人は嫌い」

 少女は立ち上がり、ブラウスのボタンを留めると、上着を羽織り、傍らにあった小さめの植木鉢を両手に抱えた。その植木鉢には、深い緑色をした葉が鉢から顔を覗かせている。

「私がそいつらを殺してなかったら、今頃あんたは犯されてた。それでもよかったの?私はナギって言うんだ」

 私は、少女にそっと手を伸ばし、握手を求めた。

「……レイナよ」

 レイナは伏し目がちに私から目を反らす。どうやら握手には応じてもらえないようだ。

「ところで、どうして連邦政府軍のチンピラなんかに絡まれていたの……?」

「ママを……探していたの……1年前に銃を持った人たちに連れていかれちゃって……同じ服を着てた男の人たちがいたから、もしかしたらママのこと知ってるんじゃないかって思って声をかけたの……そしたら……」

 彼女は、細く小さい肩を震わせていた。余程怖かったのだろう。

 私は、彼女の肩に優しく手を置き、そっと抱き寄せ、彼女の震えが治まるのを待った。

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